第188話 お茶会③achievement
20人買ってくれたらいいなー。
そう願いながら、アラ兄がお菓子、ベアの値段を発表していくのを聞いていた。そしてお買い物シートを配っていく。もちろんシートにも値段は書いてある。これにチェック印を入れてもらうのだ。
書けた人からメイドさんに渡してもらうことにした。
すっと手が上がる。
「はい、なんでしょう?」
「いくつまでよろしいの?」
「はい?」
「私はプリンの6個セットが最低5つ欲しいですわ。何個までよろしいの?」
え?プリンのセット5つで16000ギルなんだけど。プリンだけで16000ギル、いいの? いや、まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかった。
どれも100個分は在庫がある。それに配送分はさらに時間があり、足りなくても作ることができる。わたしは片手を出して指を広げアラ兄に突き出す。
「5つまででお願いします。それからぬいぐるみのベアは35個しかありませんので、おひとりさまおひとつに限らせていただきます」
アラ兄、ナイス!
恐ろしいことになった、なんと33名すべての方が、お菓子を最高数5セットで買ってくれたのだ。お菓子だけで3448500ギルの売り上げだ。そして、ぬいぐるみもみんなひとつずつ買ってくれたので、264000ギル。そしてロサが自分をみんなと一緒にしないよな?とすべて倍の10セットと、ぬいぐるみの残り2つを買ってくれたので、お菓子だけで209000ギル、ぬいぐるみ2つで16000ギルで合計225000ギルのお買い上げ。すべて合わせると3937500ギルの総売り上げになった。ほうけちゃった。ぬいぐるみは持ち帰り、お菓子は自宅お届けの人がほとんどだった。
お菓子、すごい。ぬいぐるみ、すごい。っていうか、金持ちすごい。子供なのにそんなに自由にできるお金があるんだ。誰も彼ももちろん侍女や侍従がついていて、ご子息ご令嬢はその控える人たちに顎で指示をするだけだったけどね。その仕草で大金が動く!
目標額の3倍いった!
キートン夫人が外に出ていらした。みんなが歩み寄った。
ひとりひとりに声をかけてくださっている。
キートン夫人に席を用意して座ってもらうことにした。
殿下が手をあげて、代表して夫人にお礼を伝えると言った。
会場を提供してくださり、ありがとうございますと丁寧に殿下は言葉を述べた。みんな感謝していますと言うと会場が同意の拍手に包まれた。
キートン夫人からも一言いただくことにした。
「殿下、身に余るお言葉をいただきました。ありがとう存じます」
キートン夫人は殿下に礼をとる。乱れのない洗練されたカーテシーだった。
それから夫人は、自分の教え子たちとこうして時を経て会うことができてとても嬉しいと言い、みんなご立派になってと声を詰まらせた。
この家はご主人との思い出深い家で、今月いっぱいで引っ越すことになっている。その最後に皆さまとの交流の場にできて、本当に嬉しいと微笑んだ。
皆が慈善事業に前向きなのは、とてもいいことで、世の中がこれでまたひとつ誰かに優しくなるだろうと。幼いながら、人のために考える子供たちがこんなにいっぱいいることを感じられて、本当に幸せだと言った。
最後に、これからも優しい気持ちを忘れずに大人になってほしいと結んだ。
拍手が巻き起こる。
誰かが尋ねた。
「王都のご家族の元に行かれるんですか?」
「……いいえ、まだ引っ越し先は決まっていませんの」
門の方がざわっとした。門を守っていてくれた人が兄さまに何かを告げる。
兄さまが門に赴こうとするのを殿下が止めた。
「どうした?」
兄さまが眉根を寄せる。
「申し訳ありません。貴族が主催者に話があると引かないそうで」
「ほう。いやに骨太の貴族だな。構わない、中に入れろ。誰にも怪我はさせるな」
ロサが護衛たちに指示を出す。会場に入ってきたのは毒々しい色のドレスを着たコルヴィン男爵夫人と恰幅のいい男性だった。兄さまと双子が進み出たので、わたしも倣うと、アラ兄に止められる。でも……。わたしは少し後ろをもふさまとついていった。
「主催者は私ですが、どういったご用向きでしょう?」
「これ、探していたのでしょう?」
兄さまに何かを押し付ける。
兄さまは何かを包んでいる布をほどく。木彫りの動物みたいな。
?
「それは! なぜそれをあなたが持っているのです?」
わたしの後ろから見守っていたキートン夫人がワナワナと震えながら言った。
「教会のバザーに売り出されているのを買ったんですよ。先日、聞きましたの。譲られた宝石をお探しとか。こちらの目の宝石、殿下からいただいたものなんですって? 殿下が探されていると聞いて。もしかしたらこちらじゃないかと思ってお持ちしましたのよ?」
キートン夫人の様子と、訳はわからないがコルヴィン夫人の言葉で、合点がいく。ワンダ夫人にねだられ譲ったのは木彫りの動物だったんだ……。宝石を埋め込んであるって聞いたから、てっきり指輪の類だと思っていた。
「キートン夫人、あちらがワンダ夫人に差し上げたもので、間違いありませんか?」
わたしが尋ねると、キートン夫人は頷いた。
まさか、こんな都合よく引っかかるなんて! というか、まさか〝釣れる〟とは思っていなかったのでびっくりだ。少し考えればおかしな話だと気づきそうなものだが。
「私が呼ばれていたようだが何事だ?」
ロサがわたしのすぐ後ろにきていた。その横にはダニエルや、ブライ、イザークも控えている。
コルヴィン男爵夫人がカーテシーをする。
「発言を許可する。私が何を探しているって?」
「町の子供たちが、お茶会の手伝いをした際に耳にしたと聞いております。殿下がキートン夫人に預けた宝石が必要になり探していると」
「何を言っているんだ?」
ロサの顔が不愉快そうに歪んだ。
「キートン夫人、私が何かを預けたことがあっただろうか?」
「いいえ、殿下から預かったものはございません」
「嘘よ、子供たちが夫人が探しているって」
「本当に子供たちが、わたしがこれを探していると言っていたのですか?」
キートン夫人も腑に落ちない顔をしている。
わたしはパチンと両手を合わせた。
「兄さま、どうしましょう。もしかしてあちらのご婦人は、アレを勘違いされたのでは?」
ロサがわたしを見て、口の端を吊り上げた。
「リディア嬢、何か思い当たることがあるのか? 言ってみなさい」
「はい、殿下。わたしはお茶会で朗読をさせていただくにあたり、キートン夫人にも聞いていただきました。家族はわたしに甘いので悪いところがないというからです」
そういうと遠くの方でクスッと笑い声がした。
「キートン夫人に気を付けるところを教えてもらい、そしてこちらのお庭で練習をしました。町の子に聞いてもらいました。貴族のわたしには思ったことは言えないかもしれないけれど、聞いていられなかったらそう態度に出て、わかりやすいと思ったからです。皆さまに聞いていただく前に、町の子供たちに物語を聞いてもらったら失礼かと思いまして、わたし、もうひとつお話をこしらえましたの」
「ほう、それで?」
「心優しい女性が、意地悪な人に虐められてしまうのだけれど、その女性に助けられてきた人たちが一致団結して、主人公である婦人を助けるお話です。その物語の中で婦人を助けてくれる偉い人が婦人に預けた宝石が必要になり返して欲しいというのです。でも宝石は意地悪な人に盗まれてしまって主人公の手元にありません。町の子たちが偉い人が探している〝宝石〟と聞いて、〝物語〟の話を〝現実〟と勘違いされたんじゃないかと思いましたの」
「それは〝木彫りの動物〟だったのか?」
「いいえ。ええと、お話を作る時にキートン夫人から聞いたことが頭に残っていました。キートン夫人はある方に旦那さまからいただいた物をお譲りされたんですって。宝石がとてもきれいと褒められて、高い宝石ではありませんのよってお伝えしたそうですが、とても気に入られたようで。夫人はその方を慰めたかったので譲られたそうです。でも後日、その方が詐欺師、いえ、よくない方だとわかったので、旦那さまからの大切な贈り物だったのに、譲られたことを悔やんだと聞きました。わたしは宝石と聞いて、指輪だと思っていました。ですから、物語に宝石のついた物を小道具に使ったのです」
ロサは頷く。