第187話 お茶会②reading aloud
それから兄さまが、わたしたちの領で子供自立支援団体を発足する旨を伝え概要を説明する。ご存知の通りシュタイン領ではレアワームが発生し財政難が続いていること、子供たちを支援したくてもそうしていくだけの財力がないことを語った。そして、今日売り出すものの材料費などは自分たちが出資し、今日の収益金はすべて支援団体に寄贈することを伝える。そしてもし賛同いただけるのなら、お菓子を買っていただけるとありがたいと結んだ。
アラ兄にバトンタッチして、本日の流れが説明された。
お菓子は5点用意していて、3点食べていただいたところで、歓談の時間をとる。それからわたしの朗読を挟み、残りのお菓子2点。そのあとにお買い物シートを配る。お菓子など買っていただけるようでしたら、そこにチェックを入れて欲しいと説明。持ち帰りか後日王都のご自宅に届けるか選ぶことができ、すべて生モノなのでそれぞれ消費期限があるが、ご自宅に配送するさいはご自宅までは収納袋で運ぶので、届いた日から2日以内に食べ切って欲しいこと、涼しいところで保管して欲しい旨も伝えた。
貴族は寄付などに慣れているのだろうけど、庶民感覚のわたしは、提案しておきながらなんだが、自分のお小遣いを人の領の事業に使いたくないのではないかと思ってしまう。でも、賛同できなければ買わなければいいだけだもんね。
そうしてお待たせしましたと、菓子を出し始める。
その間、自立支援団体について質問が出て、そつなく兄さまが答えた。
ロサが手配してくれたメイドさんたちが手慣れた様子でサーブしてくれる。ミルクにするかお茶にするかお菓子によって好きに選んでもらうことになっている。
最初はショートブレッドだ。
殿下のお声がけだから来てくれた人たちだ。もちろん期待していなかったと思う。それがひとかじりしたところで、表情が変わる。
お次はレモンのパウンドケーキだ。とても上品にフォークを使っているが食べるペースが早い。
そしてチョコトリュフ 。夢見るような顔になっているね!
ご歓談の時間だ。みな殿下に挨拶したり、親交のある方と話をしたりした。
一応お招きした方々に初めましての挨拶をしていく。会ったことがないのに、兄さまは全員顔と名前が一致しているようなので切り抜けることができた。終えた時はクタクタだ。
だから親しいイザークと話すとほっとする。会話を楽しんでいると、お前たち親しすぎないか?とロサが割り込んできた。前のお茶会の顔ぶれにイザークが加わったメンバーだ。
「イザーク、もう体調は大丈夫なのか?」
騎士団長孫のブライがイザークを心配するように言った。
「ああ、あの時は悪かった。少し前に合わない〝魔力〟に当てられてから、時々具合が悪くなるんだ」
「合わない魔力?」
ロサが首を傾げる。
「はい。どうやらその子は魔力漏れをしていたようで……、その魔力と相性がよくなかったらしく体調が悪くなって、参りました」
魔力漏れ? わたし? わたしはもふさまを見た。もふさまはあくびをしている。そんなもふさまをどこぞのご令嬢が目を輝かせて見ている。もふりたいと思っているのだろう。
「ああ、報告があったな。リディア嬢の他にも魔力漏れを起こしている子供がいるとは」
ええ? なんでロサがわたしの魔力漏れを知っているの?
「殿下。リディアの魔力漏れとは?」
兄さまが聞き咎めると、ロサは微かにしまったという顔をした。咳払いをする。
「モットレイ侯爵と会ったのだろう? その時に気づいたそうだ。リディア嬢は本当は魔力量が多いらしい。たまにいるそうだ、身体が魔力を抱えきれずに垂れ流すタイプの者が。成長して身体が丈夫になれば魔力を蓄えられるようになるとのことだ。もし蓄えられないままのようなら、魔法士に身体を少し整えて貰えば蓄えられるようになる。まだ身体ができていないから、すぐには無理だがな」
侯爵さまってそんなことまでわかる人だったんだ。
「……よかったね、リディー。少し魔法が使えるようになるかもしれないね」
兄さまに言われて気づく。そうだ、ここは喜ばないと。
「それにしても、侯爵さまもひどい方ですね。当人や家族に言うのではなく、それを関係のない王室に告げるなんて」
兄さまの言葉で場が凍る。侯爵さまに対しても王室に対しても不敬だからだろう。
「父上はシュタイン伯には告げたはずだぞ」
イザークが少しムキになる。
「そうでしたか。それでもリディーの情報を家族以外に告げられるのは不愉快ですね」
空気がピキンと鳴った気がした。
「フランツはリディア嬢のことになると、度がすぎるのではないか?」
「イザークが婚約者のことでそうなった時に、同じ台詞を言ってあげますよ」
ふたりしてニッと笑う。
うわー。婚約者のことで熱くなっているだけと丸く収めたよ。
「魔力に相性があるのか」
宰相の孫のダニエルが呟く。
「うん、そうらしい。リディア嬢と長くいてもむしろ心地いいぐらいだが」
兄さまの視線に気づいて言い直す。
「魔力がだぞ? その子と少し一緒にいたら魔力酔いみたいになってしまったんだ。あ、その時、リディア嬢がくれた焼き菓子を食べたら気分が良くなったんだ。助かったよ、ありがとう」
ああ、そういえば、道中で小腹が空いたら食べなってオメロとイザークに焼き菓子をあげたっけ。
「焼き菓子で治るのか?」
「いや、当てられた場合には、自分の魔力が活性化されるといいらしい。物を食べて私が〝元気〟になったんだろう」
「イザークに気づかせず魔を当てるなんて、その令嬢もたいしたもんだな」
ふーん、令嬢だったんだ。
「父上があちらが整うまでは会わない方がいいと言っていた。私も会いたくないな」
「イザークがそうはっきり言うなんて珍しいわね」
侯爵令嬢が驚いたように言った。
「……怖かったんだ」
「怖い?」
「ぼうっとしてたんだろうね、考えられなくなるって言うか、自分が自分でなくなるような、私は令嬢が望むように全て答えていたんだ」
「合わない魔力に当てられるとそんなふうになるの? なんだか恐ろしいね」
「うん、あれは嫌だったな」
ロサが近づいてきた。頭の上で匂いを嗅ぐような動作をされて驚く。
何、わたし、臭いの?
兄さまがわたしを自分の方へと引き寄せる。
「殿下、何を?」
「ああ、すまない。リディア嬢の魔力も漏れていると聞くが、別に平気だなと思って」
「ああ、そうですね、私も大丈夫です」
イザークが微笑む。
みんなもわたしの魔力漏れは被害ないよと言ってくれた。
でも、そうなんだ……。相性が悪かったりすると、近くにいるだけで、誰かを害しちゃうこともあるってことだね。
さて、話していたらいい頃合いになったので、わたしのおもてなし朗読を始めることにした。
最初は隣の人と話をしたりなんだりしていたが、だんだん静かになり、みんなが聞いてくれるのを感じる。
物語は佳境に入り、もふさまとわたしたち兄妹で、悪の手先だと思ったシードラゴンと対峙する。ところがシードラゴンはただ守っていただけだった、アオとその従者のアリとクイを。
みんなで理由を話して仲良く暮らそうっていうんだけど、シードラゴンは今までの出来事を思いだせば、みんなは自分を許せないだろうって思ってしまう。それでね兄妹が止めるのも聞かずに、自分が全部悪くて自分を倒したからもう平和だよってみんなに伝えるように言って、ひとり空へ飛んでいってしまうのだ。
町に帰って、兄妹はそんな優しいシードラゴンのことを包み隠さず伝える。みんなで見上げた空はシードラゴンがまるでそこにいるかのように真っ青だった。
話終わると割れんばかりの拍手が巻き起こった。
兄さまを見ると、うんと頷いてくれた。
わたしはペコリと頭を下げる。
ロサも拍手をしてくれていた。イザークも、ダニエルも、ブライも、アイボリー令嬢も、商団の娘のマーヤ令嬢も。
へへ。ちょっと嬉しいな。
そして、これが物語に出てきた、ベアのアリとクイですと毛皮のベアをみせる。
会場が一際大きく沸いた。
それも売り出すのか聞かれて、わたしは頷いた。
後半のおやつだ。ベアベリーのショートケーキだ。お腹もいっぱいになってきているだろうから、かなり薄い。
そして最後はプリンだ。お腹いっぱいでも入っちゃうやつ。
女子の皆さまの目が光る。ふふ、やっぱりプリンはウケがいいね。




