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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
4章 飛べない翼
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第181話 お茶会の準備(下)

 ふと思う。

 ロサはどうしてここを会場に選んだのだろう?

 シュタイン領から近いイダボアにして、懇意の貴族のお屋敷にしたのだろうとは思うが、もしかして他に意味が?


 わたしは何人かの名前を挙げて夫人が知っている名前かを尋ねた。お茶会の招待客はキートン夫人が家庭教師をしたことがある家ばかりだった。親にだったり子供にだったり二代に渡りだったりの違いはあったけれど。

 何かがあっただろうキートン夫人のお屋敷に、キートン夫人を師とする子供たちを集めた……ロサは何かするつもりだ。それを主催者のわたしたちに教える気はないのだろう。


 兄さまは夫人たちの会話で、キートン夫人に何があったのか、おおよその見当はついてそうだ。わたしにはわからないけど。……でも、知っておく必要がある。

 夫人は話してくれないだろうから、調べるのにお茶会までここに通う理由がいる。

 わたしはキートン夫人に尋ねてみる。


「お茶会では楽器で演奏して、来てくださった方へおもてなしをすることもあると聞きます。でもわたし、楽器を習ったことがないのです。その代わり、作った物語を朗読してみようと思うのですが……、お茶会の前にちゃんと朗読できているかを聞いてくださいませんか? 家族はわたしに甘いのです」


 そういうと、キートン夫人は目を大きくした。そうして微笑んで


「そういうことでしたら、是非、お聞かせ願いたいですわ、小さなレディ」


 と言ってくれた。

 よっしゃ、口実ゲット!



 それからわたしたちは執事さんに庭を案内してもらった。


「こちらには長いんですか?」


 兄さまが執事さんに子供らしからぬ調子で尋ねる。


「はい。こちらには父の代からお世話になっています。それが……お屋敷を売ることになり、私の力が及ばず申し訳ない限りです」


「何があったのか教えていただけませんか?」


 アラ兄が言った。

 ハッとした表情になったが、静かに首を横に振る。


「申し訳ありませんが、主人が話さないことを私が話すわけには……」


 まあ、それはそうだ……。しかもわたしたち子供だし。


「夫人はきっとこの話はお嫌でしょうね。でも、このお屋敷を殿下が選んだ。そして招待客はキートン夫人の教え子ばかり。きっと、殿下には何か考えがあるのでしょう」


 兄さまの考えに執事さんは項垂れる。


「私たちはお茶会の主催者になります。殿下の考えを汲み取らねばなりません」


 本当に厄介だよ、あの王子殿下は。


「ですから、私たちは知らなければなりません。キートン夫人に尋ねるのは憚られる。ですからあなたに教えていただきたいのです。無理と言うことであれば、これから私が推測を申し上げます。それが当たっているかどうかだけ、教えていただけませんでしょうか?」


 執事さんは胸に手をやって頭を下げた。


『リディアよ』


 もふさまに呼びかけられる。


『屋敷の中にもあったが、庭にも黒い嫌なものがあるぞ』


 もふさまを抱き上げる。小さい声でそれは空の主人さまが運んでくれたアレみたいな物かと尋ねればそうだと言う。


「兄さま!」


 口を開きかけた兄さまの服を引っ張る。


「どうしたの、リディー?」


「あの、あのね。わたし、ボール遊びしたい!」


「ボール遊び?」


「……それはどんな遊びだい?」


 しまった! ゴムないもん、ボールはないのか? もしくはボールという名前じゃないか……。


 まずい。それに今の会話運びでわたしが急に割り込んでいるので執事さんも目が点だ。そうだよねー。わたしもそう思うよ。

 わたしはバッグから紙を一枚取り出してスタンダードな紙飛行機を折った。


「うわー、何、これがボール?」


 いや、違うんだけど。

 ロビ兄に渡すときに、紙飛行機に少々コーティングを試みる。


「ロビ兄、わたしとどっちが遠くまで飛ばせるか競争。ここ持って、こーやって飛ばしてみて」


 ロビ兄が腕を振って紙飛行機を手放せば、飛行機は飛び、しばらくして落ちた。


「飛んだ!」


「ロビ兄、できるだけ遠くに、あの木目指して飛ばして!」


 ロビ兄は落ちた紙飛行機を拾って、そしてわたしの願い通り紙飛行機を飛ばした。

 少々風魔法を使い、黒い魔具にコテっと当てる。


「何かありますね?」


 兄さまが気づいてくれて、執事さんとアルノルトを動かす。

 木に近寄って、アルノルトが登ってそれを取り外した。

 黙ってそれを執事さんに渡すと、執事さんはそれを踏んで壊した。


「家の中も調べた方がよさそうですね」


 アルノルトに言われて、執事さんが家の中に走っていく。


「リー、屋敷の中はどこにあるって?」


 もふさまから聞いたと気づいたんだろう、アラ兄に確かめられる。


「お茶をいただいた部屋の額縁のところだって」



 誘導して執事さんがみつけた監視の魔具の残骸を見たキートン夫人は、自身を抱きしめるようにして震えた。そうだよね、気持ち悪いよね。

 わたしは慰めたいと思ったが、眠気が最高潮にやってきて……。




 起きると、ふんわり優しい手触りの上掛けに包まれてもふさまとベッドで寝かせてもらっていた。

 やってしまった。人さまのおうちで昼寝をしたらしい。しかも元侯爵夫人の家でだよ。


『久々だったな。座ったと思ったら急にコテっと寝おった。まだ目が離せないな』


 もふさまはそう教えてくれながらあくびをする。昼寝は本当にこのところ気をつけていたのに!

 もふさまを抱っこして下に降りていく。

 まず、キートン夫人に謝った。


「子供は寝るのが仕事ですからね、いいのですよ」


 そう優しく笑ってくれた。

 わたしも起きたことだしと、お暇することになった。

 物語を聞いてもらうため、またお邪魔する約束をした。




 馬車の荷台で支え合いながら、わたしが寝ていた間の出来事を聞かせてもらった。最初は話すのを乗り気でなかった夫人の口を割らせたようだ。さすが、兄さま!


 やはり、キートン夫人は引っ越しをしたくてするのではなかった。

 こちらは旦那さまと長く住んでいた思い入れのあるお屋敷で、子供に譲ろうと思っていたが子供は王都にある家の方が利便性がいいと言う。歳をとった自分が暮らしていくだけにはこの家は広すぎる。少しこれからのことを考え出した時に、仲良くなった人がとても困っていた。ある慈善事業が窮地に陥っていた。夫人はその人のために寄付をした。ところがそれは違法となる投資話だったことが発覚する。知らなかった点を考慮されて収監されることはなかったが、多額の罰金を払うことになった。その罰金に充てるのにこの家を売るしかなかった。

 絶対に騙されたのに、自分がしっかりと確かめずに寄付したのが悪かったといい、怒り狂った子供たちに本当に申し訳ないと目を伏せたそうだ。


 この家を買い取ったのは、家に乱入してきたコルヴィン男爵家。

 2年前、殿下の家庭教師を辞めた時にコルヴィン家の子供の家庭教師になってくれないかと懇意にしていた伯爵家経由で話がきた。殿下の家庭教師を辞めたのも夫の体調が悪くなり、それを看病するためだったので断った。それから半年ほどして旦那さまが亡くなり、夫人は悲しみに明け暮れた。その時にまた家庭教師の話が出たのだが、とてもそんな精神状態ではないと断った。この家を買い取ったのはそんな経緯のあるコルヴィン家だった。そして、その契約書を交わした日から、断っても家に入ってきたり、嫌なことを言っていくようになった。恐らく家庭教師を断ったことを根に持っていて、嫌がらせを受けているのだろうとキートン夫人は思っている。

 どうもコルヴィン家は元侯爵夫人から二度も家庭教師を断られたのは、何か良からぬことがあるからなのではとあらぬ噂を立てられたらしい。それで令嬢の婚約話がポシャったとか。そんなのただの逆恨みじゃん。


「投資話を持ちかけてきたのは、どなたなんですか?」


 兄さまが聞くと、夫人は躊躇った。


「コルヴィン家の派閥でいうと……ドナモラ伯爵、ですか?」


 兄さまはさらに突っ込んで尋ねたそうだ。

 兄さま、派閥まで頭に入っているの?


 驚いて兄さまを見てしまった。夫人はため息をついてから言ったそうだ。


「ドナモラ伯爵がお連れになった方でしたの。とても感じのいい方で。その頃主人が亡くなってからの息子たちのことで頭に来ていたものだから、愚痴をいっぱい聞いてもらって、優しい言葉をもらって信用してしまったの。彼女がとても困っていて。慈善事業の委託先が潰れてしまいそうで、その慈善事業には旦那さまのお友達の方々から寄付していただいているから、そのことがわかったら旦那さまの顔を潰してしまうと泣いていらして。来月には船が入ってきて物が確保できるからここ数日凌げればなんとかなるのだけれど、自分は散々寄付をしてきたので、動かせるお金がないのだと。少しだけ待ってもらえるようにお金を出せば、持ち直すと。ほんの少しだけ手助けしましたのよ。返さなくていいからと、ワンダ夫人に寄付金を渡しました。ところがそれは投資で法に触れることでした。わたしが直接投資したわけでなかったものの、ワンダ夫人経由で名前が残っていました。お金を出したかと尋ねられたので寄付をしたと申し上げました。ワンダ夫人が行方不明になり、捜査は暗礁に乗り上げました。ドナモラ夫人もパーティで会って仲良くなっただけということがわかり、詐欺師だったのだろうとわかったのです」


 お気の毒にもほどがある。

 そこまで兄さまたちから話を聞いてわたしは言った。


「ロサはどうするつもりなんだろう?」


 わたしは唸ってしまう。


「普通に考えればワンダ夫人を捕まえる、キートン夫人が詐欺にあったことを証明して罰金をなしとする。この家を取り戻して、コルヴィン家にも何か罰を与えるってところだろうね」


「なんでコルヴィン家に罰を? ああ、断っても平気で入ってくるから?」


 質問したロビ兄にアラ兄が答える。


「兄さまが言ったろ、派閥だよ。ワンダ夫人を紹介したのもコルヴィン家が属している派閥のドナモラ伯爵。確かではないけれど、手を組んだとしか思えない」


 じゃあ最初から夫人が大切なこの家をのっとる気で?


「そうか。それはわかるけど、子供のお茶会でそれを知ってるからって何ができるの?」


 うん、そこが謎だよね。


「……正解ではないと思うけど、知らしめることはできるよね」


 兄さまが呟いた。


「知らしめる?」


「キートン夫人がこんな目に遭いましたって、お茶会にきた子供たちに知らせること」


「知らせてどうするの?」


 きょとんとするロビ兄。


「帰ってから家で報告するだろうね。恩師がさ、そんな目に遭ったって」


 なるほど。子供の親は爵位を持った大人たちだ。キートン夫人が恩師でもある人もいる。それを知った大人が動き出すかもしれない。ロサはそれを期待してるってこと?


「でも、ロサ殿下がそれだけでよしとするとは思えない。でもワンダ夫人をみつけたとしても、そこで子供は役に立たないだろうし」


 と兄さまが考え込む。


「別に殿下の考えなんてわかる必要ないんじゃない?」


 え? ロビ兄を見上げる。


「お茶会の主催者はリーだし、おれたちがキートン夫人に何ができるか、それでいいんじゃん?」


 目から鱗だ。


「……そうだね、ロビンの言う通りだ」


 兄さまがクスッと笑って、アラ兄はロビ兄の頭を抱え込んだ。


「なんだよ、アラン」


「お前は最高のオレの片割れだ!」


「何言ってんだ?」


 ロビ兄の言う通りだ。

 わたしたちはキートン夫人と縁を持った。少し話しただけだけど、キートン夫人のことが大好きだ。大好きな人の力になりたい。子供だからできることはそんなにあるわけではないけれど。

 大切な思い出のある家で、最後のフィナーレを飾るイベントだ。

 最高のイベントにする。そしてキートン夫人に何が起きているかを広めてくれる子供たちに、知っている情報を提供しよう。できるだけ情報を集めて。

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