第173話 ハンナとおじいちゃんたち
町の家に戻ると、砦のハンナとおじいちゃんたちが到着したところだった。
「嬢ちゃま、坊ちゃんたちも!」
「ハンナ!」
駆け寄ればギュッとしてくれた。知らない人もいたが、顔見知りのおじいちゃんたちに挨拶をしていく。
アルノルトはハンナ以外を寮に案内した。
若い女性がハンナは一緒じゃないのかと首を傾げた。
「ハンナは町外れの家の仕事をしてもらうので、あちらの寮になります」
アルノルトがそう伝えれば、女性は自分も町外れの方で働きたいという。ハンナに懐いちゃったのかな。
「それについては後で話しましょう」
アルノルトはまず荷物を置かせることにしたようだ。ハンナの荷物は荷台に入れておくふりをしてわたしが預かった。
大人の話になったので、町の家の子供部屋に行きもふさまにお願いをする。
綿が早急に欲しくなったのだけど、その知り合いに聞く手立てはないかと。もふさまは、そういうことなら海辺に行って呼びかけてみれば、誰かが教えてくれるだろうと言った。
兄さまと双子に何の話だと言われたので、わたしはぬいぐるみを作りたいんだと説明した。もふさまにあったかい上掛けとやらではなかったか?と突っ込まれたので、それも作るつもりだと返事をした。
小さなアリとクイを作ると言ったがピンとこないようなので、ファーミーの毛皮を丸めて、さっきセズが描いてくれたデフォルメされたアリを一緒に見せる。
「こういうふうになるようにこの毛皮で型を作って中にふわふわのものを入れるの」
わかるような、わからないようなと反応が薄い。
男の子にはわからないのかもしれない。わたしは自分の説明下手を棚に上げそう思った。
明日、海に行ってみることにした。海風で髪が大変なことになるから、べたべたになっても困らない服と、髪はしっかり結んでいこうと決意した。
父さまに呼ばれたのでゾロゾロと執務室に行く。5人の女性とハンナがいた。
5人は町の家で仕えてくれるメイドさんだそうだ。
子供たちもよく来ると思うのでと、父さまはわたしたちを促す。
兄さまから順に挨拶をし、メイドさんたちからも名前を聞いた。
「ワンダです」
5人の中では1番年長であろう女性で、キチッとした感じの人だ。
「シエンナと申します」
そばかすがチャーミング。
「ペネロープです」
美人さんだ。
「クララです」
さっきハンナについて行きたいと言った人。
「ヒラリーです」
おどおどして自信がなさそうだ。
この5人は砦の町暮らしだったそうで、わたしは知らない人たちばかりだった。すでに誓約書を交わしたようだ。
アルノルトがメイドさんたちを連れて出て、そしておじいちゃんたちを引き連れて入ってきた。こちらはほとんど顔見知りだったので気が楽だ。この10人が第一弾で来てくれた人たちで、ウチの私兵であり、護衛となり、自警団などでも活躍してもらうそうだ。それから門番もやってもらうことになる。寮を用意しているが、これから話し合いながら、お互いがいいようにしていきたい旨を父さまが語り、皆頷いている。
そして父さまは昨日さっそく物盗りが入ったことを伝えた。こちらでも魔具で対応していくが、気をつけて欲しいと念を押しておく。
「道すがら聞きました、トラッシュ盗賊団を一網打尽にしたとか!」
さすがだとか盛り上がっている。父さまが捕らえたわけでなくハウスさんがやってくれたことだからバツが悪そうだ。
父さまはその日は町に残り、アルノルトに連れられてわたしたちとハンナは家に帰った。
母さまはハンナに会えてものすごく喜んだ。そしてこれから家で仕えてくれることにも。ハンナは母さまの体調にすぐに気づいて妊婦さんへの注意事項を並べた。頼りになるね! ピドリナとも親交があったみたいで、ふたりとも手を取り合って喜んでいる。ピドリナたちの家の隣にコンパクトなアパートチックな寮を作った。いずれわたしの支度とかを手伝ってもらう人を雇うことになるからだそうだ。ハンナはそこに住むことになる。
ハンナには少しずついろんなことをバラしていくつもりだが、最初に打ち明けたのはハウスさんのことだ。
ここが魔使いさんの家だったこと。そのおかげで死角なしの防犯システムがあり、わたしたちが安全なこと。危険が迫った時には強制的にメインルームに転移すること。魔使いさんの相棒だったアオを紹介し、アオの従魔であるアリとクイと顔見せだ。それから馬のケインとコッコのシロたち。ハンナは盛んに瞬きをしていたが、受け入れてくれたんだと思う。
さっそく母さまに体を冷やしてはいけないと着るものからのチェックをしだした。……現実逃避かな?
何はともあれ、誓約書を交わしてよかったとは心からの呟きだった気がする。
ハンナの歓迎会だから、お料理を頑張ることにした。
和洋折衷どころでなくめちゃくちゃで献立としてどうかとは思うけれど、ミルクたっぷりのシチューに、炊き込ご飯。お魚の塩釜焼きに、肉じゃが。チーズオムレツ。ふきを炊いたもの。
固まった塩をハンマーで叩いて割る。
塩釜焼きはパフォーマンスで派手になっていいよね。双子の喜ぶこと。
母さまもふきと炊き込みご飯を食べられた。すごいすごい。顔もげっそりとしてしまったから、みんな口にはしないけれど、すっごく心配だったのだ。
お産に詳しいハンナが来てくれて、またストレスがひとつ減ったのかもしれない。それがいい作用をもたらしたのかも。
ハンナも口にするたびにおいしいって感想をくれた。でもそれよりもっと盛り上がったのはお菓子で、今日はマドレーヌだったんだけど、息子さんに食べさせてあげたいって目を輝かせていた。息子さんのところに行く時はお土産に作ろう。
ピドリナがキッチンを使わない時間は、お茶会のお菓子の準備をする。収納ポケットがあるし、そこで売れなくても日替わりショップで売っていけるから、材料があるだけ、作っていくことにした。
小麦粉と卵が底をつきそうだ。ランパッド商会にはもうお願いしてあるからそろそろ届く予定だけど。
お菓子を作っている時に、明日は海に行くことを思い出してお弁当をこしらえた。