第172話 セズの才能
翌日、わたしはハウスさんに大絶賛された。さすが私のマスターです!と。
魔力がいっぱいになったわたしは試してみた。サブサブルームへの転移を。サブサブルームが出来上がったか確認もできていなかったが、思い描いた以上の素敵な部屋になっていた。そして難なく転移することができた。試しにもふさまと一緒に行ったのだが、そこではハウスさんと楽に連絡を取れた。ルームからサブサブハウスに転移する。窓から日の光が入っているだけのシンとした町の家。
『リディア』
もふさまが言って、スカートを引っ張られる。壁に寄り添うようになったのだが。
「何もねぇなー」
「金目のものなんか何も置いてねーじゃねーか」
抑えてはいるが話し声がする。
「やっぱり外れの家にお宝を置いているんじゃ?」
「けどよー、あのトラッシュ盗賊団が捕らえられたんだろ? 外れの家は相当な魔法陣で守られているんだろう。おれらには無理だ」
これは物盗り? こっちの家にも来たか。
父さまたちがいない時だからよかったけど。
わたしは飛びかかる体制のもふさまを押し留める。
ハウスさんとは声に出さないとまだ会話はできない。
目を閉じて口を開くことなく、タボさんに話しかける。
ーータボさん、ハウスさんに繋げられる? もしできたら、あいつらを捕らえられるか聞いてみてーー
少しすると頭にハウスさんの声が響いた。
『マスター、あの者たちを捉えるのは可能です。意識を奪いますか?』
「お願い」
思わず口に出していて、聞こえたのかもしれない、男たちがこちらに身を乗り出したところで、急に崩れ倒れた。
もふさまと恐る恐る近づいてみれば、後ろ手にロープで縛られている。足にもロープが巻き付いたと思ったら、しっかりと拘束された。
「ハウスさん、ありがと」
『いいえ、サブサブハウスにもマスターの魔力が行き渡ったようです。これで私もこちらに少しなら介入できそうです』
わたしたちはサブサブルームに戻り、メインルームへ転移してメインハウスに戻った。父さまに報告に行く。
父さまと母さまは口を開けた。父さまは頭を抱え込む。
「セズたちが宿屋にいてよかった」
そうだ、本当にそうしておいてよかった。固まってしまった父さまの背中を母さまが撫でている。
「リディーもすごいわ。本当にサブサブルームを作って、もう行き来できるようになるなんて」
えへへ、そうかな?
それから馬車で町の家に行った。自警団に寄って物盗りが入ったようだと一緒に来てもらった。まだ今日は町の家に行っていないのに、物盗りがかかったのを知っていることを驚かれたけれど、そういう魔具もあるのかと納得していた。
ドアを開ければ、物盗りがふたり転がって寝息を立てていた。もちろん手と足はロープで拘束されている。
自警団の人たちが男たちを引き連れて行った。
ドアを閉め、内側から鍵をかけ。そしてサブサブルームにみんなと転移する。
兄さまも双子も部屋を見渡す。
父さまもアルノルトも部屋をチェックしている。サブサブルームにはハウスさんの声が届く。
『皆さまをお連れしましょうか?』
「お願い!」
母さまとピドリナ。アオとアリとクイ。そしてシロたちが、サブサブルームにやってきた。
「ここがサブサブルームでちか」
キューン
くーーん
「リディー、素敵な部屋を作れたわね」
母さまに褒められる。
ルームの仮想補佐が早いとこ育つように、それとタボさんの育成をハウスさんが請け負ってくれた。よくわかんないけど。
母さまたちと別れて、サブサブハウスに戻る。わたしたちはセズたちの様子を見に行くことにした。
家を出てすぐにマールに会った。新しい物作ってるんだって? 楽しみにしているねと言われた。
チェリとサリーに会った。もこっとしたかわいいもの作ったって聞いたよ。今度見せてねと言われた。
え。
宿屋の前ではカトレアが水を打っていた。
「カトレア」
「リディア! ああ、あの子たちに会いに? 裏庭で遊んでいるよ」
カトレアがセズたちの居場所を教えてくれた。
「そういえば、ミニーに〝新作〟を見せたんだって? すっごいはしゃいでたよ。私も見たい。今度見せてね!」
「あ、……うん、今度ね」
ど、どうしよう。ぬいぐるみを早急に作らなくちゃ!
裏庭にまわると、干されたシーツの下で子供たちが座り込み何かをしていた。
わたしたちに気づいてペルシャが立ち上がり兄さまに駆け寄って手を繋いだ。ペルシャは小さいけど7歳だ。表の兄さまと同い年。
『リディア、どうした?』
「え? なんでもないよ」
わたしはもふさまに笑いかける。
「変わりはない?」
兄さまはセズに声をかけた。
セズは棒を持ち地面に何かを描いていた。
覗きこむと、デフォルメされたウサギが描かれていた。
え。
わたしの視線に気づいて、セズは急いで足で描いていたものを消した。
「変わりないよ。とってもよくしてもらって、悪いぐらいだ。あたしにできることないかな? 何もしてないのに食べさせてもらって寝床まで用意してもらってさ、申し訳ないから」
わたしはセズの手を取った。
「力を貸してくれる?」
「え? そりゃできることなら」
言質は取った。
「アラ兄、ささっと、アリとクイとファーミーを描いて」
わたしは鞄から紙とペンとインク瓶を出した。
困惑しながらもアラ兄は、特徴を捉えたアリとクイ、そしてファーミーを描いた。絵が描ける人って、平面に描くのに立体的に描きだすから不思議だよ。なんでこういうことができるんだろう。
急がせたからいつもより精密ではないが、本当にうまい。
わたしはそれをセズに渡して、これをさっき地面に描いていたみたいに、そのままじゃなくて、セズの思う感じでかわいく描いてみてとお願いした。
セズはまずペンを使うのが初めてだと、おっかなびっくりにインク瓶にペンをつけて線を何度か書いてみて、それからデフォルメしたアリ・クイを描いてくれた。
「かわいい!」
ロビ兄が声をあげる。
ファーミーなんか、本当ティディベアだ。
「これでいいのかい?」
不安そうにいうセズに頷く。
「セズ、かわいいよ。すごい、すごい才能だよ」
「才能?」
「うん、アラ兄とはまた別の才能だね。かわいくデフォルメした絵を描ける。これで作れる!」
「でふぉるめ? 作れる?」
「何か思いついたんだね?」
兄さまに確かめられて、わたしは頷く。
出来上がりの見本があれば、これで型を起こしていける。あとは中に詰めるものさえあれば。
型を作る時や、見栄えでまたセズに見てもらったりすることになるかもなと思って、それもお願いしておいた。中に入れる綿があれば、ぬいぐるみが作れる!