第171話 サブサブハウス
「置物のふりなんてしたことないでちよ」
「馬車から降りて、家に入るまでだから。それに置物じゃなくて、ぬいぐるみ」
「そんなの聞いたことないでち」
「だいじょぶ、これから作るから」
今日はサブサブルームのあるサブサブハウス作りに挑戦する。
そのためにレベルを上げようとし(上がらなかったが)、魔力をハウスさんから受け取り、寝込んだのだ。
魔力は結構増えていた。ハウスさんが頑張ってくれた。
ステータスを見ると、皮肉のきいた追加されたスキルに苦笑してしまった。
名前:リディア・シュタイン(5) 人族
性別:女
レベル:1
職業:???
HP:60/60
MP:8247/8253
力:15
敏捷性:17
知力:77
精神:92
攻撃:21
防御:21
回避:90
幸運:85
スキル:生活魔法(火A・水A・土S・風S・光S・無SS)
自動地図作成(レベル8)
探索(レベル5)
仮想補佐(タボ・レベル19)
隠蔽(レベル3)
付与(レベル6)
鑑定(レベル3)
翻訳(レベル2)
仮想補佐網・創造(ハウス・レベル81)
厨房の責任者
村人の叡智
言の葉師
路地裏の歌姫
照明の達人
六花のマイスター
開拓魂
無知の知
ギフト:+
特記:サブハウス・サブルーム所有
(上がったレベル・163話よりアップしたところ)
HP +2
MP +2660
敏捷 +2
攻撃 +5
防御 +5
生活魔法(風) レベルアップ
自動地図作成 レベルアップ
仮想補佐 レベルアップ
付与 レベルアップ
仮想補佐網・創造 レベルアップ
スキル追加:無知の知
ハウスさんからルームを作るやり方を聞きはしたけれど、心許ない。そこでアオの登場だ。アオはハウスさんと繋がりがあり、移動できる。それで、町まで一緒にきてもらったのだ。動かないでいればぬいぐるみで押し通せると言ったのだが、この世界、ぬいぐるみがないことが発覚した。いや、あるかもしれないけど、お金持ちしか持っていないのかもね。
まあとにかく誰かにアオのことがバレなければいいんだ。だから馬車から降りて家に入るまで動かないでと言ってある。
アオを抱いて荷台から降り、視線を感じて振り返るとミニーと目があった。
「リディア!」
「ミニー」
「それ何? かわいい」
「あはは、ぬいぐるみ」
「え? よく見せて」
「あのね、ごめんね。まだ途中だから見せられないの」
「途中ってことは作ったの?」
「え、あ、うん」
「っていうことはこれから売るの?」
「え? あ、違う形になると思うけど」
「そうなんだ! あたし絶対お金貯めて買う!」
わたしは確信する。ぬいぐるみは需要がある!
「ご、ごめんね、ミニー、急ぐから」
「あ、またね」
「うん、またね」
兄さまや父さまを待たず、ケインの世話もせずにアルノルトの開けてくれたドアから中に入る。
うおー、びっくりした!
「リディア、きついでち。もう、動いでいいでち?」
「あ、ごめん」
ぎゅっと力を入れてしまったみたいだ。謝っているところに、ドアが開き、父さまと兄さまともふさまが入ってくる。双子は家でお留守番だ。
父さまの執務室に行った。みんなが見守ってくれている中、部屋の中央に立つ。
「アオ、繋いで」
「承知でち」
アオが目を瞑る。少しすると耳鳴りのような音がした。
何となく耳を触ってしまう。
ガーーーーーー
プリンターの紙の空回りのような音がする。
でも誰も反応していないから、わたしだけに聞こえているのかも。
『……スター……』
ん?
『マスター、聞こえますか?』
「ハウスさん?」
「繋がったんでちね」
『少し遠いですが、アオを経由すれば補佐もできそうです』
ふう、よかった。
「では、始めるので、お願いします」
まず、リラックスすること。魔力をかなり使うらしいので身構えたりすることなく放出するのが一番いいそうだ。
別空間と思うのは難しいので、この部屋の下にサブサブルームを作ると想定する。部屋の大きさはこの執務室の2倍にしよう。メインルームと似た感じかな。本棚があって。ふかふかの絨毯に、暖炉も欲しいな。あ、簡易キッチンもあって、ソファーとテーブル。みんなでお茶もできる。大きな机はあると作業がしやすい。メインルームとサブルームと居間をごちゃ混ぜにしたような盛りだくさんの部屋を思い浮かべ、定義する。この家の統制をとるルームなのだと。この家の敷地内全てを網羅する要なのだと。すべての情報が集まり、〝指定〟することもできる。このサブサブハウスのマスターは、わたしだ!
そう思うことができたとき、一気に体の中から何かが抜け落ちた。採血した時のあのスッと何かが抜かれる感じ。でもあれよりも何十倍も脱力する。
気がつくと兄さまともふさまに支えられて、アオが何かを言っている。
「お嬢さま」
アルノルトが出してくれたのはホットチョコレートだった。わたしが飲みやすいぬくい温度のもので、ピドリナが持たせてくれたようだ。
それをコクッと一口もらって、ひと心地ついた。兄さまともふさまはわたしをソファーに座らせた。
「だ、大丈夫でちか?」
「多分、作れたと思うんだけど」
「メインさまが言ってるでち。リディアの魔力が細くなったので、メインさまの声は直接届かないそうでち。だからおいらが伝えるでち。残りの魔力を確認するでち」
わたしはホットチョコレートをもう二口飲んで、テーブルにコップを置いた。ステータスを呼び出して魔力を確認する。
MP:37/8253
「今日はここまでだそうでち。リディアはもう魔力使っちゃダメでちよ」
えーそんなーと思ったが、脱力感がスゴイから確かに何もしないほうがいいかもしれない。
わたしは休んでいるから、みんなには好きなことをしてとお願いをした。アルノルトと兄さまとアオは、他の部屋のチェックをするのに連れ立って出て行った。
もふさまはソファーにぴょんと飛び乗って、わたしの隣にお座りする。
父さまがわたしの前に来て膝をついた。そしてわたしの手を取る。
「またリディーに大変な思いをさせている」
わたしは首を横に振った。
「わたしがしたかったの。それに物盗りが来てから余計に思った。ここも安全な場所にしなくちゃって」
父さまは反対隣に腰掛ける。
「怖かったよな。先に言っておこう。昨日の7人、あれはタチの悪い名の通った盗賊団だった。彼らが不落だったことにより、ウチの守りが鉄壁だと思われるはずだ。よほどのバカでない限り、ウチに入ろうと思うものはいないはず」
父さまはわたしの頭を撫でた。
その時父さまからは聞かなかったが、後からタチの悪さが尋常じゃなかったと聞いてゾッとした。人を殺めることも厭わない集団らしく、彼らは今までしてきたことから奴隷落ちがすぐに確定し、処刑を免れたとしても一生の強制労働になるだろうとのことだった。
ソファーでひと眠りしてしまい、元気は元気なものの魔力は少ないままだったので、サブサブルームを確かめてはないのだが、そのまま帰ることになった。兄さまにアオを抱っこしてもらい、今度は誰にも見られずに馬車に乗り込んだ。
ああ、そういえば、ミニーにアオを見られたんだっけ。他のぬいぐるみを作ってお茶を濁さなくては。わたしは呑気にそう思った。