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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
4章 飛べない翼

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第169話 モロールの事情(下)

 横を見れば同じように項垂れる兄さまと双子。

 父さまは咳払いをした。


「セズたちひとりひとりに話を聞いた。新しい院長になって体制が変わった。班を作らせ、互いに何をやっているかを見て、それぞれ院長に報告させるようにした。それはいつしか言いつけあいのようになり、分け隔てなく育った兄弟のような子たちがギスギスした関係になっていった。最近では個人攻撃をするようにもなっていた。セズは兄弟たちの絆が壊れていく姿を見たくなくて、逃げ出すことにした。セズに懐いていた槍玉に上がったことがある子たちが一緒に出てきたようだ」


 父さまはそこで一息ついた。


「それがセズを含んだ子供たちの言い分で、ほぼ共通していた」


 ……言い分か。


「ここからは〝事実〟だ。4ヶ月ほど前にモロールの領主が代わり、孤児院の院長も変わったそうだ。孤児院には40人ほど子供がいて、それまではひとりの院長とその家族が手伝い、子供たちの面倒を見ていた。その院長は前モロール領主について他の地に行ったそうだ。新領主は新しい院長を雇った。新しい院長は以前も孤児院に勤めていたことがあるそうだが、そこは職員の数が多く、その職員のまとめ役をしていたらしい。厳密にいえば、子供の世話をしたことはなかった。だから世話をしなくてはいけない子供たちを、全員大人の職員のように扱ったようだ。それしか方法を知らなかったのだろう」


 アルノルトがセズたちを預かっている旨を知らせにいったとき、下働きの女中のような人がいたそうだ。院長は留守で、留守の時は自分が預かっているんだと言った。

 アルノルトは後日院長と話すが、心配しているだろうからと、セズたちは無事なことを伝えた。すると女中は人数が減れば一人分の食事量が増えるから願ったりだ。余裕があるならそっちで今後も面倒をみろ。返してくれるなとまで言ったらしい。


 後から判明するのだが、この女中は新院長が雇い入れたただの世話係。やることが多く手に余ると思った院長はポケットマネーで仕方なく子供たちの世話係を雇った。自腹なので賃金は低く、低賃金に飛びついた彼女は悪さばかりして悪評が立ち、どこにも雇ってもらえない者だった。そして彼女は子供好きではなかった。掃除、洗濯、食事の支度など一応やってはいるが、どこかで手を抜き、食料などはくすねていた。賃金の少ない分、ちょっとばかりの悪さは正当なことだと思っていたようだ。

 アルノルトはもちろんそんなことは知らず、孤児院側に無事なことは伝えたと父さまに報告した。任されていた女性が言ってたことも、今後も面倒をみて欲しいと言われたこともきちんと報告した。その女性が言ってることが孤児院の総意となるかはわからないので、もう一度訪ねる時まで保留とした。


 次の日、その女中が町の家にやってきた。いい服を着ていたそうだ。院長の代わりにきたといい、子供を連れ去った代金を払えと言ったらしい。


 聞いたとき、兄さまと双子が息を飲んだ。


 父さまは院長代理の書状を持っているのかを尋ねた。

 昨日アルノルトに行かせた時、怪しかったのでアルノルトは出しもしなかったそうだが、父さまは自分の代理だという書状を持たせていた。代行者はその旨の書状を携帯するのが当たり前だからだ。

 だが、女中はそんなものは必要ない、院長に任されているのだからと意気込んだ。

 話にならなかった。

 院長が来られないならこちらから赴きますからと言うしかなく。

 女中は散々悪態をつき、人攫いだとか大声で喚き散らしながら帰っていったそうだ。



 翌日、父さまはモロールに行くつもりだったが、来客があり断念する。

 オメロの父親だった。タラッカ男爵は、息子が伯爵家の領地で不相応かつ勝手な振る舞いをしたことを謝り、罰は私にと言ったそうだ。息子をしっかり育てられていない罪は自分にあるから、と。

 父さまは謝りに来てくれてほっとしていた。本当のところ、宿に謝るのは筋だが、身分のことで自分に謝ってもらわなくてもという考えだ。だが、一度そういうことを許すと、シュタイン領は軽く扱っても許されると勘違いする者も現れる。そうさせないために、男爵家に怒りを表すアクションが必要だった。それが出向いてくれたので、これで許した体裁が整う。感謝したいぐらいだった。

 タラッカ男爵と話し合い、もちろん流通は今まで通りで、息子たちとオメロ君が友達になったようなので今後ともよろしくと挨拶もできた。

 オメロが貴族優位な発言をしていたので親がそういう考えなのかと思っていたが、そんなことはなかった。男爵で商団でも苦労しながら成功させてきた人のようで腰が低かった。粗野なところはあるけれど、視野は広く情勢にも詳しく芯を持つ男だった。


 オメロ少年が心配していたお兄さんたちと商人のことが気になって尋ねると、男爵はそれがとんでもないことがわかりましてと汗を拭いた。

 オメロ少年は顧客を持ったことで、お兄さんたちについてまわることを許された。ちなみに顧客であるイザークも一緒に行動したそうだ。そして畑に撒くといったポーション放水に間に合い、それはどういうものだとしつこく聞いたらしい。最初はこの間のように煙にまこうとした商人だったが、時々口を出すオメロの顧客だというイザークがうがった意見を出すのでめんどくさくなり、手をあげそうになったところを兄たちが我に返って弟たちを庇ったのだとか。イザークが侯爵子息と知って顔を青くした商人、ポーションと言ったのはただの塩水だと告白。兄たちが父に報告をした。兄たちがオメロでもおかしいと思うようなことを変だと思わなかったのが不思議で商人たちをとらえ詰問した。調べたところ商人たちは〝怨護り〟を持っていた。


 商人たちは移動中に獣にやられそうになっている男を助けたそうだ。男はたいそう感謝して、願いが叶うという〝お守り〟をくれた。霊験あらたかなもので高かったそうだ。まさか獣に命を取られそうになるとは思わなかったがと豪快に笑いながら、願いが叶ったそれは〝お守り〟のおかげだと思っている、と。自分は他に何も持っていないので、これしかお礼にできるものはなくて、だからせめても受け取って欲しいと。


 商人たちは気持ちとして〝お守り〟を受け取った。〝お守り〟は小さな布袋に入っていた。中の木簡には古代語で何か書き付けられていた。商人たちは古代語を読めなかった。しばらくして商人たちはそれを手にしてから売れ行きがいいことに気づいた。もしかしてこの〝お守り〟のおかげかといつしか崇めるようになっていった。


 その話を聞いたちょうどその時、イザークを迎えにきた侯爵さまが、不審に思って古代語を読んだ。木簡には〝怨護り〟と書いてある。呪術師の作る呪符のひとつだった。護る者の願いを叶えるよう、周りの者を従わす力を持つ。侯爵は願いを叶えずに済んでよかったなと商人に笑いかけた。なぜなら怨護りの成就する対価は〝命〟であるからだ。願いを叶えた術に巣食う何かは〝怨〟を欲する。人は〝死〟の前にそれを大きくするという。望みが叶った後ならなおさら。呪術は成就力が高いゆえに対価が危険なものが多く、禁呪となってきた。この〝怨護り〟は簡略化されているので、そこまでの効果はないはずであることは教えなかったが。


 商人はタラッカ商会が取り潰されるのを願っていた。貴族なんだから、商売なんかしなくてもいいだろうというのが言い分だ。大きな商会には敵うはずはないが、タラッカ商会は小さいながらも信用があり、目の上のこぶだった。次代の青年たちは意気込みがあるだけだった。そして素直だった。商人たちは取り入り二代目たちの信用を落とすところから始めた。事実に混ぜて嘘を擦り込み、客層に反発心を起こさせるのが目的だった。客の声は聞かせずに、耳にいいことだけを吹き込み、貴族なんだから平民を従わせなくてはと繰り返し説いてきた。それがやっと芽を出し始めたところに、その弟だとかいうのが口を出してきた。野菜の買い取り額を下げ、土地が肥えるという薬を高額で買わせ、撒かせる。効果は何も出ない。いや、塩害にあうはず。やっと信用を落とさせるところまで行ったのに、直前で弟と細かいことをいう子供が口を出してきて……、全てを白状することになりお縄になった。


 オメロ少年の〝気に入らない〟が呪符もはらんだ事件だったとはと父さまは驚いた。呪術が絡んでいたのでわたしたちに話すのを躊躇ったみたいだけど、オメロとイザークが知っていることから、きっといつかは伝わるなと話すことにしたという。


 そんな報告を聞き意気投合して話すうちに、父さまもモロールに行くつもりだったことを話した。孤児院の話を聞いているうちに、タラッカ男爵の表情が曇っていく。どうやら領主と親交があるらしい。今からモロールに行くつもりかと尋ねられて、いや、明日にしたと父さまは言った。

 私が領主と話してみてもいいだろうかと言われ、考えてから父さまは頷いた。



 次の日、侯爵さまより伝達魔法で知らせがあった。

 タラッカ男爵が孤児院のことを相談しに領主宅に行くと、そこには侯爵さまがいたそうだ。

 侯爵さまは領主に呪符の件を報告、そして領主として中央に届けるように通告に来ていた。男爵が来たと知ると領主は来客中と断るつもりだったが、男爵とは知った仲だと同席を許した。

 侯爵は商人の件かと尋ねたが、それは報告済みで、今日は違う件で来たと告げる。領主からも侯爵からも話すよう促されて、孤児院の件を話した。領主はなんてことだと頭を抱え込んだ。自分が引き継いでからたった4ヶ月で問題がこうも起こるとは。領主に抜擢されながらこの有様ではと心情を吐露する。

 侯爵は問いかけた。


「では、領主を退かれるか?」


 領主は首を横に振った。


「たとえそうなるとしても、この問題を解決してからにしとうございます」


 侯爵はそう腹に決めた領主の目は嫌いでないといい、タラッカ男爵は支えてやりたいと思ったそうだ。

 父さまには近日中に領主が改めてシュタイン領に詫びに行くと知らせがあった。

 そういう理由でセズたちのことは保留のようでもある。


 そこまで話してから父さまはわたしたちの顔を見回す。


「父さまからの話はここまでだ。次はお前たちの番だ。初の事業展開だな。セズたちをどうやって支援していくのか、その構想を詳しく話してみなさい」

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