第152話 箔
町に行き〝みんなに聞きたいことがあるんだ〟と最初に会ったカールにいえば、たちまち手の空いていた子が町の屋敷の庭に集まってくれた。
「なんだよ、なんかあったのか?」
「うーうん。みんな、本当の気持ちで答えて欲しい。遊ぶ時間減るのって嫌だよね?」
なんて聞くのが一番いいかと迷いながらだったからか、変な聞き方になってしまう。
「あのさー、嘘なんか言わねーから、思っていること全部話せ」
ビリーに言われて納得する。そうだね、ぶちまけた方がいいかもしれない。
「最初に、みんな無理して欲しくない。無理なら無理でよくて。遊びたかったらそれでいい。計画ある。じゃなくて。えっと町で、お菓子とか、食べるものとか売っていけたらなと思っている。でも、大人たちはみんな仕事ある。だから、子供が短い時間、交代しながらやれないかと思った。9歳以下は給金払えないけど、その分、物品で。……と考えているけれど、領地だけの法でそれができるか、まだ相談してない。その前の段階で、みんな物品で働く気あるか聞きたかった」
「ブッピンって?」
「例えば、物品でもらったものは売っちゃいけなくて。それで肉、とか。砂糖、とか」
「砂糖? 時間短いって言ったよな? どれくらいで考えているんだ?」
「ひとり、1時間か2時間で交代制かな?」
「1時間で肉や砂糖って、あり得ないだろ!」
「日用品ならいい? 欲しいものリスト作る。その中から選んでもらって」
「逆だ、高価すぎる。大人だって1日働いて7000ギルだ。10歳だって半日働いて1000ギルもらえたら上等。1、2時間なら200ギルってとこだ。それを、砂糖、肉? おかしいだろう? ま、量にもよるけど、リディアのことだから絶対多めだろ? フランツ、アラン、ロビン、お前たちもうちょっと見てやれよ」
ビリーに話を振られ、ロビ兄がのんびり言った。
「でも、貴族の子の手伝いだぜ? そんくらいでちょうど、箔が付いていいんじゃないか?」
「貴族の?」
「子の?」
「手伝い?」
ビリーとヤスとカールが単語を区切ってロビ兄の台詞を繰り返す。
子供たちがわたしをじーっと見ている。
「忘れてたわけじゃないけど、貴族だったな」
ビリーが腕を組みながら言った。
「そう貴族の領主の子の手伝いだ。それなら子供が売り子やってても文句つけづらいだろ?」
おお、その通りだ。ロビ兄、スゴイ!
「でも、9歳以下の子供のいない家から不平が出るかもね」
アラ兄がうがった意見を出す。
確かに子供が割のいいバイトをしていたら、子供のいる家はいいな、それに比べてウチはって思う人が出てくるかもしれない。
「領主邸から定期的に簡単な仕事を出すのはどうだろう? それは全部短い時間で物品制にする」
兄さまがアイデアを出す。
「ああ、それなら仕事を持っていても、物品の報酬が欲しかったらなんとか請け負ったりするかもね」
とアラ兄。兄さまたちが話を現実可能な方に動かしていく。仮にも領主の一家が企画すること。みんなに平等でないとね。
「リディーが案を出してくれているからね。私たちはそれを形にしよう」
おお、頼もしい!
わたしが肉と砂糖と言ったのは、お金は持っていないわたしだが、それらなら賄っていけそうでその中から言ったにすぎない。そのお肉も、もふさまやみんなが獲ってくれたし、ダンジョンのおかげで砂糖もあるのだけど。
それがこうまとまっていくのは気持ちよかった。
「で、どう? そういう話があったら、遊ぶ時間は減るけどやってみたいって思う?」
アラ兄がみんなを見渡す。
「やりたい!」
「遊ぶ時間より、できるなら働きたいくらいなんだ。生活が良くなるならさ」
「うん、手伝うなんて普通のことだし、それで何かもらえるならすっごく嬉しい」
「無理してない?」
「……無理はしねぇ」
「なら、みんな、できそうなときだけでいいから、手伝ってね」
「具体的には何するんだ?」
「こういうの売る」
わたしはみんなにプリンを配った。
陶器のプリンカップは回収する旨を伝えておく。
「これ……」
「何これ」
「プリンっていって、卵とミルクと砂糖の入ったものなんだけど」
「うめぇ」
「すっごくおいしい」
「世の中にはこんなおいしいのがあるんだ」
嬉しい感想だ。
「母さんに食べさせてあげたい」
あ……。
「これ売り物にするんだろ?」
ビリーに頷く。
「うん、町の人の価格はちょっと安くしようかな。父さまがいいって言ったらだけど」
値段をただ下げるのはよくないから、そうだね、入れ物を回収してくれれば次回入れ物代を安くするとかね。
「町以外から買いに人が?」
「ここでしか買えないってなったら来るかも。わからないけど」
「なんか、すげー。今まで人なんてこなかったのに。商人は来るようになるし」
「町の外の人にもおれらが売ったりするの?」
「そうだよ。売れるかどうかわからないけど、知り合いに食べてもらったりしてみるよ。そしたら人が来る。外の人に買ってもらえれば市場が回る。市場が回れば領地が潤う!」
わたしは調子に乗り、日替わりショップにしたいこと。領地の特産品を作りたいことや、領地で収穫したものとか作った物を売るようにしてと構想を語ってしまった。みんなわたしの熱量に驚いたみたいだ。ちょっと恥ずかしくなる。
「それでは、領主さま、失礼いたします」
ヤスのお父さんが父さまと連れ立って出てきた。
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
「こんにちは」
わたしたちはヤスのお父さんに、みんなヤスのお父さんと父さまに挨拶をする。
「こんにちは。ああ、みんなにお願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
ビリーが答える。
「領地の周りに外壁を作ることにした。山がないところだけだが。土魔法で土台を作り、それに鉱石を混ぜ込んで固める。職人に来てもらうから、知らない人たちが町にやってくるようになる。残念なことだが、その中には悪いことを考える人もいるかもしれない。だから、これからは町の中でもいろいろと気をつけて欲しい。特に小さい子の面倒を大きな子は見てあげてくれな。何か変だと感じたらどんなことでもいいにきてくれ。身近な大人にでもいいし、近いうちに自警団も見回るようになるから、その人たちにでもいいから」
「父さま、土魔法で外壁を作るの?」
「お前たちにも区間を決めてやってもらいたいと思っていたんだ」
アラ兄とロビ兄が顔を見合わせる。
「「やる!」」
ぴったり合った返事をした。
いいな、わたしもやりたい。
「あのー、領主さま」
「なんだい、ビリー」
「おれ、魔力そうないけど、土の属性あるんです。土台を作るところ、見ていてもいいですか?」
「あの、おれも」
「あ、あたしも」
ヤスとマールから声が上がる。
父さまはにこりと頷いた。
「もちろん、いいよ。ただ遅い時間まで外にいないようにな。アラン、ロビン、その前に、3人と一緒に土魔法で何か作ってみなさい」
「はーい」
双子は元気に返事をした。




