第14話 獲れる日、獲れない日
本日投稿する2/3話目です。
カールにもう一度罠のことを聞いて、用意するものなどの話し合いが始まった。
途中までは聞いていたが退屈になってしまった。わたしはもふさまと川に足をつける。
『止めなくてよいのか?』
「ヒートアップしちゃってるから、今、無理」
『ヒートアップとはなんだ?』
「んー、気持ちが熱くなる、燃え盛っている?」
もふさまに小さい声で答える。
ビリーに見られている気がする。
オレたちの川だとは言われなかったもんね。
今日はシャケが流れてこない。あ、魔力が通ったら、わたしも魚獲れるようになるね。やったー! 貧乏でもなんとか食べていけるんじゃないかな!
それにしても、全属性とは大盤振る舞いだ。みんな2つか父さまで3つ。全属性って変わっているんじゃないかな。魔力量も多いって大丈夫かな。どっかに目をつけられるとか厄介でしかないんだけど。そういうの隠す方法ってあるのかな。相談したいけど、今母さまのことでいっぱいいっぱいだしなー。
『リディア、真ん中はやめておけ、流れが早いぞ』
考えているうちに知らずに中央へと行っていたらしい。
もともとわたしのふくらはぎまでない水量の川だ。流れが両側より強いが、そこまでとは思えない。でもわたしは行く気はなかったし、もちろん頷いた。
行く気はなかったんだけど、方向転換をしようと思って足を置き、つるっと滑った。
裸足だったけど、苔がついた石の上にのぼってしまったからだろう、漫画みたいにつるっと勢いよく。
『リディア!』
転ぶ!
「リディー!」
そう思ったとき、抱きあげられた。
助かった!
わたしの脇を持ってぶらーんと抱きあげてくれたのはビリーだった。
「おい、川では絶対、チビから目を離すな!」
低い声で兄さまたちに注意する。
あ。
兄さまたちの顔が真っ青だ。
「ごめんなさい。ビリー、ありがと」
兄さまがビリーからわたしを受け取り、川岸に戻る。
兄さまもビリーも靴のまま川に入ったから足がびっしょりだ。兄さまはわたしを立たせて、ギュッと抱きしめる。
それからビリーに向き合って、頭を下げた。
「妹を助けてくれて、ありがとう。感謝する!」
双子もビリーに頭を下げた。
「な、別に礼なんかいらねーよ。ただ、特に水まわりではチビから目を離すな。何が起こるか分かんねーから」
ビリーがボス猿な理由がわかった気がした。しっかりといつも周りに目を配っていて、対処もできる。それがたとえ気に食わない輩であっても。だから、みんな信頼して慕っているんだね。
「うん、気をつける」
兄さまが爽やかに笑ったから、女の子たちが顔を赤くしている。
「兄さま、風で、靴乾かす」
「え? 風で?」
少し考えてから、ビリーに近づいて、ビリーの足元に片手を向ける。ゴーっと強い風が起こったと思うと、ビリーの靴が乾いていた。
「お、すげー、乾いた。風魔法か? お前、魔力もたけーんだな。ありがとな」
ビリーがにかっと笑った。なんか見たこちらが嬉しくなる笑い方だ。
兄さまは自分の足元も乾かした。
アラ兄がわたしがもう川に入っていかないように、スカートを下ろして、足を拭いて靴下を履かせ、靴も履かせる。
もふさまが川から出てきて、ブルブルっと身震いすると水滴がはじけて、一瞬で水分がとんだ。それ、いいなぁ。
「兄さま、ベアシャケ、こない」
そう告げると、兄さまは首を傾げた。
「そういえば、今日は見ないね」
「なんだ、チビはベアシャケが欲しかったのか」
ビリーに尋ねられてわたしは頷いた。
「うん、栄養いっぱい、母さま食べさす」
「なんだよ、母ちゃんがどうかしたのか?」
「母さま、寝てる。いっぱい食べて元気する」
わたしの言葉にみんな兄さまを見る。それを受けて兄さまは微妙な表情になった。
「具合が悪くてね。だから元気になるものを食べてもらいたいんだ」
少女たちの心のキュンとした音が聞こえた気がした。
やるね、兄さま! 親指を突き出したいぐらいだ。
「じゃあ、獣を獲りたいってのも?」
兄さまたちは頷いた。
明日の勝負の取り決めをもう一度ちゃんとして、みんなと別れた。森に入る。もふさまが食べられるものを教えてくれたので、それをとりながら帰った。
そうか、いつも魚が獲れるか、わからないものね。いるときにたくさんとって、干物にしたりしないとだ。保存食……か。実りの秋が終われば、収穫物のない冬が来る。冬の分の蓄えもいるね。あ、わたしの思う四季と同じなのか確かめないと。
前を歩くアラ兄の服を引っ張る。
「なあに?」
「季節、今、何?」
「今の季節? 秋だよ」
「秋はどんなの?」
「ん? えーと。季節は春、夏、秋、冬ってめぐる。春に木々や草花が芽吹いて、暑い夏を迎え、実りの秋があって、寒くて閉ざされる冬となる。ほら、リーが雪を食べてお腹を壊しただろ、あれが冬だよ」
もふさまに笑われた。
そういえば、冷たいのが不思議で積もったところに顔を埋めて食べたら、その後お腹を壊して2日寝込んだっけ。それから寒い日は腹巻をするよう義務付けられた。
わたしの記憶にある四季と同じ感じだ。それなら秋の今のうちに保存食を作っておかなくては! ということは瓶がいっぱいいるし、それを貯蔵できる場所もいる。4日後には魔力が通るはずだから、そこから全開でやらないとだ。
朝だ! 勝負の日だ! と目を擦ったが、ベッドにはもう誰もいない。
「お姫様、起きたか。さ、着替えるのを手伝うぞ」
「母さまは?」
「ん? なるべく休んでもらうようにしているんだ」
わたしの不安を見透かしたように、父さまがぎゅーっとわたしを抱きしめる。
「主人さまが、頻繁に母さまの様子を見てくださっている。リディーに何も言わないだろ? だから悪くはなっていない」
そうか、もふさまは母さまを定期的に見てくれていたんだ。
「大丈夫だぞ。母さまは大丈夫だ」
そう繰り返す。わたしにももちろんだけど、自分に言い聞かせているように感じる。
そうだよね、父さまだって不安だよね。
わたしも父さまをぎゅーっと抱きしめた。