第135話 冬ごもり④雪の楽しみ
朝起きると庭より外側が一面銀世界だった。夕方に降り始めた雪がしんしんと降り積もったようだ。
おお、ケインのはしゃぎっぷりがすごい。
え? ひよこ? ひよこちゃん、雪平気なの?
馬小屋側は雪が積もっているので、そこでひよこちゃんも激しく雪の上を転げ回っている。雪玉つかないの? 大丈夫?
え? もふさま?
わたしと一緒に起きたのに、というか、外に出たかったけれど、わたしが起きるのを待っていてくれたのか。一目散に部屋を出たと思ったら、ああ、ケインたちと雪にダイブして体中に雪をつけて面白がっている。寒くないのか?
「リー、外においで」
げ、みつかった。
楽しそうだが、寒そうだなー。
今は雪が止んでいるみたいだが。
普段より服を一枚足しているけれど、それでも寒い。
「リディー、アランとロビンが呼んでいるぞ」
知ってる。
「寒そう」
居間の暖炉から離れられなくなる。
わたしのコートを取ってきた父さまが、コートを着せてくれて、帽子とマフラー、それから手袋もしてくれる。
「ほら、雪と戯れておいで」
強制ですか。
仕方ないから、靴をゆっくりと履いて外に出ていく。
みんな馬小屋前の雪で遊んでいる。
あ、雪だるま。
庭は雪が積もってないから歩けたが、ふわふわの雪は歩くのも一苦労だ。わーん、足が抜けない。兄さまが抱きあげてくれた。
あれ、兄さま背が伸びた? それに今までよりずいぶん軽々と抱きあげてくれるような。
「ほら、リーだよ」
ロビ兄がわたしを抱きあげた兄さまを引っ張るようにして、雪だるまの前に連れていく。小さな雪だるまはわたしのようだ。一体何時間前から作っていたのか。全員分の雪だるまがある。
父さまのが一番大きくて、一番大きい。アルノルトさんのは大きくてなんとなく細い。その隣に寄り添っているのがピドリナさんで、母さまのには下のだるま部分にコブがついている。弟か妹だろう。兄さま、アラ兄、ロビ兄、わたしの順で雪だるまがあった。
ケインともふさまは雪にはしゃぎながらの追いかけっこをしている。めちゃくちゃ楽しそう。アオは雪の上を滑るようにしている。身が軽いからできることだね。アリとクイは暖炉の前でぬくぬくしていた。ひよこちゃんたちも雪に埋まりながらもなんのそのだ。本当にこの子たちはコッコの雛なんだろうか?
わたしはユキウサギを作った。母さまへのプレゼントだ。それかわいいということで、みんなも作っている。教えてあげたのはわたしなのに、みんなの作ったウサギの方がかわいい。これだから器用な奴らは……。
母さまに持っていくと、わたしのはかわいらしく愛嬌があり、兄さまのは美しい芸術品のようだといい、ロビ兄のは今にも飛び跳ねそうだといい、アラ兄のは頭の良さそうなウサギさんだと平等に喜んでくれた。
せっかくなのでカマクラを作ることにした。これなら大雑把なわたしでも不器用さはさほど目だたないだろう。大きな雪山を作って、中をくり抜く。ちょっと、いえだいぶ、もふさまに手伝ってもらった。
「リディー何してるの?」
「カマクラ作ってる」
「カマクラ?」
「この中でご飯食べたりする。灯りともすときれい」
「へー」
カマクラの話を聞いたことがあるだけなので作り方とかは知らない。水をまいて雪を固めるって聞いた気がするけど、わたしは魔法で最後に固めておく。
遊び倒して疲れたのを自覚する。そういえば朝ごはんも食べずに遊んだね。
ケインやもふさま、ひよこちゃんを馬小屋に入れて、雪玉をとって乾かす。温風だよ。ご飯の用意をすると一心に食べ出した。ケインの今日のご飯はワラと野菜だ。
もふさまとわたしたちは家の中に入って暖炉の前で手をかざす。
びっしょりなのも理由だけど土で汚れてもいたので、服も着替えることになった。
簡単な朝ごはんにして、各自のルーティーンに戻る。
ケインとひよこちゃんを庭に放す。
畑の世話をしてお勉強だ。母さまはわたしに朗読させながら編み物をしている。読み終えれば終了だ。
「リディーは何の楽器を弾いてみたい?」
「楽器?」
「貴族の嗜みよ。お茶会でみんなと演奏することもあるのよ」
なんかやることが増えていく。
「婚約者いる。お茶会行かない」
「どうしても行かなくちゃいけないこともあるわ」
「一番簡単なの何?」
「リディー、そういうことではないのよ。これからいろいろな楽器を見ることがあるでしょう、その中で興味を持ったら教えてちょうだい。音楽は心を豊かにするわ」
それに異議を唱える気はないが、問題は何にしてもけっこうな練習量が必要ってことだ。
今でさえ時間が足りないっていうのに。
お昼は子供たちだけ、カマクラで〝鍋〟にした。
「雪穴の中で、鍋、すげー」
「何で溶けないんだろう」
「溶けないようしてる」
真ん中で焚き火をし、お鍋を乗せている。人が触れるところはコーティングしているから、本物のカマクラより冷え冷えではないはずだ。
「カニ、うまー」
「え、ロビ兄、もうちょっと茹でようよ」
「大丈夫、大丈夫」
「野菜がおいしい」
あったまるし、寒い時はお鍋に限るね。
もふさまお皿に顔を突っ込んでいる。聖獣は熱いのも冷たいのも平気なのかしら。
「父さまと毎日会えないのは淋しいな」
しめの雑炊を食べながら、アラ兄が口にする。
「どういうことでちか?」
アオが不思議そうな顔をしている。
あ、あの時アオはいなかったか。
わたしたちは、父さまの事情を話した。
アオは破顔する。
「なんだ、それなら、その家にサブルームを作ればいいでち」
「できるの?」
「リディアがやるでち」
「わたし!?」
「メインさまのマスターはリディアでち。リディアの魔力ならギリギリできないことはないと思うでち。メインさまに相談するといいでち」
サブルームには、メインルームから移動が可能だ。ということは、夜、向こうの家で眠っていることにして、サブルーム、メインルーム経由で父さまは母さまのいる部屋に帰ることができる。
サブルームに仮想補佐網が芽生えれば、サブハウスとなるそうで。サブハウスのことはサブルームの管理人が全てを把握、この家のことをハウスさんが把握しているように、誰が何をしようとしているなどがわかるようになる。危険時にはサブルームに避難が可能。
また、使用人さんがいるからできないけれど、わたしたちもメインルーム、サブルーム経由でサブハウスの町の家に行くことができる。ということは、町にもあっという間に行ける。いやわかっているよ。できるけど、使用人さんがいるから使えないってことは。
みんなが行き来はできないとしても、こちらの家のように何かあった時に安全なところにいけたり、父さまが眠るのに部屋にいることにして、こちらの家に帰ってこられたら、それだけで素晴らしいことではないでしょうか!
わたしたちは急いで片付けをして、父さまたちを交えて相談することにした。