第132話 冬ごもり①誕生日会
気がつくと12月24日で、シュタイン領での初のお誕生会の日になった。
ご飯やデザートを作ったり、物をこしらえたり、魔具を作ったり、ダンジョンに行ったり。ケインに乗る練習をしたり、ひよこちゃんに戦いを挑まれたり、アリとクイに持ち物を噛まれたりして過ごし、あっという間だった。
ダンジョンでは地下8階から10階まで行った。地下8階はスライムエリアだった。とにかくいろんなスライムがでた。ひよこちゃんが大活躍だ。スライムは決して虫っぽくないと思うのだが、撲滅しなければと思うみたいで、特攻していた。酸を吐き出してくる。結構素早いので、わたしは父さまに抱えてもらっていた。そこで小さな魔石をいっぱいゲットした。スライムの魔石は付与するにも小さくてあまり使い道がないらしい。
それでいいことを思いついた。スライムの小さな魔石に火魔法継続の付与をしてみた。試したところ、暖炉に火を入れて魔石を入れると薪を使わずに長いこと火がついていた。これを温石と一緒に配ろうと思う。ダンジョンででた物だからね。
ロビ兄が不思議そうに父さまに聞いた。領地の人にもっといっぱい物をあげたり、特に生活必需品をあげないのはなぜなのか。もふさまがくれたものやダンジョンのドロップで潤っているからね。
父さまは顎を触り、そして子供たちに言った。
わかってもわからなくてもいいから、それはどうしてなのか考えて答えを出すように、と。
みんなの家に配るものがあるから早くに家をでた。
初、ケインのひく馬車で。
家の外なのでアオとアリとクイ、ひよこちゃんはお留守番だ。ダンジョンではないので、アルノルトさんも家を守り。
馬車は苦手だ。揺れがすごいし振動で体中が痛くなる。
車輪を木で作る技術が一番すごいと思っているけど。でも振動が直にくる。みんなよく耐えていられるよな。ああ、ゴムがあったらなー。
ケインは走るのが大好きなようで結構なスピードだ。幌の中でライオンサイズになってもらったもふさまにしっかり掴まっている。
お誕生日月の子たちにはお昼過ぎに教会に集まってもらうことになっている。
その前に端の家から、温石、スライム魔石を渡し使い方を伝え、呪いのときにお世話になった子にはお礼とともに鞄を渡し、編み物内職スタッフたちからは商品を預かり、みんな元気か冬を越すのに不安なことはないかを聞いて回った。
なんとかお昼前にわたしが鞄を渡す家を回ることができた。町外れや町の市場よりの方は町長さんに担当してもらっている。他まわれなかった家は、明日からも父さまが引き続き見回る。
村にはエドガー兄弟に温石とスライムの魔石を運んでもらうことになった。いつも運んでもらっているので、お肉とお馬さんたち用にも野菜を進呈した。砂糖をとっても喜んでいるというので、マルサトウも献上させていただいた。
ケインはアンダーさんや馬仲間とあえて嬉しそうにしている。
お昼を過ぎたので、教会へと行くと、12月生まれの13人の子供たちがもう集まっていた。
ビリーとカールがいた。12月生まれみたいだ。
「なんの呼び出しなんだ?」
「12月生まれのお誕生会」
「お誕生会?」
不思議そうな顔をする。
「こんにちは」
わたしはみんなに呼びかけた。
「来てくれて、ありがと。今日は12月生まれた、領地の子、集まってもらってます」
みんなどこか不安げだ。
「みんなと会えてよかった。会えたの、みんな生まれていてくれたから。お誕生日、お祝いしたくて、集まってもらった。お誕生日、おめでとう!」
わたしたちは誕生日をお祝いする歌を歌った。兄さまたちと声を揃えて。練習したんだよ。神父さまに断って、今日はもふさまも入れてもらっている。合いの手を入れるように、要所でワンワンって鳴いてもらっている、重要な合唱団の構成員なのだ。
兄さまたちが歌っていることに、女の子たちが頬を染めて喜んでいる。
ふふ、喜んでもらえて何よりだ。
歌い終わり、わたしは拍手した。
「みんなにプレゼント持ってきた。2日以内に食べ切ってね。悪くなるから」
わたしは一番端のビリーの前にいく。
「ビリーお誕生日、おめでとう」
そう言って、袋からクッキーの家を出して渡す。一応ワセランで包んでいる。
「これ、何?」
「甘いお菓子で、できてる」
「開けていいか?」
頷くと、ワセランの包みをきれいに開けていき、ビリーだけでなく、みようと集まってきていたみんなが息を呑んだ。
「クッキーの家。丸ごと、食べられるから」
口を開けて見ていたビリーだったが覚醒する。
「これ、リディアが作ったのか?」
「うん、だからちょっといびつ」
へへと笑う。
「あの鞄もお前が作ったのか?」
わたしは頷く。
「縫い目そろってないけど、使える、思う」
「温石、魔石ももらった」
「うん、冬、少しでも、過ごしやすいといい」
「ありがとう」
頭を下げられた。
え?
「ありがとう」
ええっ。みんなわたしたちに頭を下げている。
「これもだけど、全部、ありがとう。おれ、誕生日祝ってもらったの初めてだ。別になんとも思ったことなかったけど、今、すっごく嬉しい」
ビリーのぴっかぴかの笑顔をもらった。
ふふ、そうだよね。誕生日、嬉しいよね?
ひとりずつおめでとうと言って、クッキーの家を渡し終えた。
「それにしても、これ、食べるのもったいないな」
そう思ってもらえて嬉しいな。でも食べてねと言っておく。クッキーだけでもおいしくて、粉砂糖とアイシングのかかったところはもっと甘くなっていて、これもまたおいしいんだ!
神父様、シスターがいらしたので、クッキーを献上する。教会を集まるのに使わせてもらっているからね。
おじいちゃん神父さまとシスターはとっても喜んでくれた。
わたしは正面にある彫像を見て、こちらが神さまですか?と尋ねた。
神父さまは
「こちらがラテアスさまですよ」と教えてくれた。
この世界の神さまはラテアスさまというみたいだ。どんな、何の神さまなんだろう?
「とても素敵な催しですね。他の子たちも何をやっているのか知りたがっているので、入れてあげてもいいですか?」
「他の子?」
教会の扉を開けると、寒い中、よく知っている子供たちが集まってきていた。
12月生まれを集めて何をしていたのか、気になっていたらしい。
知っていたら最初から入ってもらったのに。外にいたなら寒かっただろう。
教会に入ってきて、目敏くビリーのお菓子の家を見て、目を大きくしている。
「何、これ、すっごい!」
「どうしたの?」
「リディアから、誕生日プレゼントもらった」
ビリーがすまして答えた。
「リディアから?」
「みんなも、誕生日月の24日にプレゼントする」
そういうとみんなが沸き立った。
「すっごい、こんな素敵なお家を?」
「しかもお菓子なんだって」
「食べられるって」
うわーと歓声が沸く。そんなふうに反応してもらえると嬉しいな。
あ、何人かの子がもう鞄を使ってくれている。
渡した時にもお礼を言われたけれど、またお礼をいって鞄の中を見せてくれる。宝物を入れている子がいて驚いたが、それもまた嬉しかった。
残りの町の人たちに温石など渡しに行かないとなので、そこで別れた。
雪が降るだろうから、春まで会わないだろうけれど、元気でねと約束しあった。