第131話 馬と馬車と魔具と(下)
「お前たちは……」
父さまが顔を手で覆っている。
「父さま、どうしたの?」
ロビ兄が父さまの服を引っ張る。
「お前たちはなんて才能豊かで、できる子供たちなんだ。さすが俺の子だ!」
わしゃわしゃと頭を撫でられた。
「でもな……」
「家でしかやらない。それで、いつの間にかみんなできるようになっちゃえばいいんだよ。できることなんだから」
ロビ兄が豪快に笑う。
まあ一応隠すことなのはみんなわかっている。現状況ではね。
わたしはドライヤーを作った。
ケトル鉱石を少し拝借し、シャワーヘッドの形を作った。ガラス瓶から器を作った時の無属性魔法が大活躍。風が出れば良くて、持ちやすければいい。あとはボタンをつけて。押せば110度の風が出る。
はい、付与できた。
ボタンを押すと、おお、熱風。ドライヤーだ。あったか。
「何を作ったの?」
「ドライヤー。髪乾かすの、寒かった」
母さまに貸すとボタンを押して驚いている。
「メインルーム、置かせてもらう。みんな髪洗ったら、乾かすといいよ」
男性陣にはあまり響いてないようだ。でも、いいんだ。髪洗うと本当寒かったんだよ。いつもくしゃみがでた。
アラ兄にはフラッグの解読を頼んでみた。設計図がすべて解読できなくても理論が少しでも分かれば、作れるかもしれない。
夕飯前に馬小屋に行くと、背中でひよこちゃんたちはうたた寝している。
みんなで考えた名前を発表しようと言うのでわたしは辞退した。アリとクイの名前もつけたから、と。
「じゃ、おれの考えた名前な! 疾走のオーロラポセイドンエトワール」
ながっ。〝〜の〟って入ってたら名前じゃない気がするんだけど。ロビ兄は鼻高々にしている。
他、ふたりは考え込んでいる。
「壮大ないい名前だな」
兄さま、マジか!?
「オレはね、リィボワカザドレユパール!」
「アラン、それなんか聞いたことある」
「うん、パワートーマで、建国した国の名前だ。かっこいいからさ!」
アラ兄も、そういう視点で名前をつける人か。
「兄さまは?」
「私は、ホース」
アラ兄とロビ兄の目が半開きになる。
「それ、フォルガード語で〝馬〟だよね?」
「それ、犬に〝犬〟って名前にするのと同じだよね?」
兄さまはきょとんとしている。
「覚えやすくていいと思ったんだけどな」
「ねー、リーは誰の名前が一番いいと思う?」
しまった、難題きた。
「ロビ兄のもアラ兄のも、長いね。呼ぶの大変、思った。兄さまの、わかりやすすぎ、思った。でも、名前お馬さんのもの。お馬さんに聞こう」
アオに合図する。お馬さんはひひんと短くないた。
「……リディアにつけてもらいたいそうでち」
えーーーーーーーーー。
3人はガクンと首を落としたが、
「まぁ、リーがつけるなら」
と復活した。
えー、お馬さんの名前。みんなから期待の目で見られて、余計に思い浮かばない。栗色のお馬さん。感覚でしかないけど外国人って気がする。人だったらHAHAHAって笑い声が聞こえそう。睫毛ながーい。目が優しい。
「決まった?」
「ん? エクステしてなくて、このボリュームと、長さ……」
「エクステ? エクステか……」
いや、名前じゃないよ。
「呼びやすいといえば呼びやすいな」
「リディーがつけるのは、かわいいな」
いやいやいや、そんなところでシスコンを発揮しなくていいから。
まずい、このままだとエクステになってしまう。わたしに名前を託したお馬さんの意を汲んでまともな名前にしなくては。ええと外国人みたいで英語笑いが似合いそうな名前……。
「ケイン! 優しくて、足早い、彫刻みたいな横顔! ケインって顔してる!」
少々やけっぱちだったが、外国人ぽい名前と浮かんだのが、ケイン、マイク、ポールぐらいだった。なぜかわたしの中でケインはひょうきんキャラ、マイクは少し団子鼻の印象、ポールはおとなしい、謎で勝手な印象がある。
「リディー、ケインって誰? 砦にもいなかったよね?」
「町にもいないよね、ケインさん。エクステさんも……」
「記憶の人?」
ロビ兄の言葉で、アラ兄と兄さまがぐりんと顔をわたしに向ける。
ケインさんも、エクステさんも知らないよ。エクステ……付け毛さん……ヤバイ笑える……。
「リーが思い出し笑いしてる……」
「違う、毛って……」
ダメだ、なぜか、笑える……。
「ケイン、気に入った言ってるでち」
わたしはケインに駆け寄った。
「ケイン! これから、よろしくね」
アオを通さなくても、ケインやひよこちゃんはこちらの言葉をわかっているみたいだ。
「ケイン! これから、よろしくな」
ケインさんとエクステさんの件でブーブー言っていた兄さまたちも、ケインの首のところに手を伸ばし改めて挨拶する。
夕飯に呼ばれて、わたしたちは家の中に戻った。
食事が終わっても、もふさまは帰ってこなかった。淋しいし寒いので、子供部屋で眠るのに混ぜてもらった。アリとクイは夜になると目が冴えてしまうみたいだ。
あの歌を歌ったら眠るかもと言われて、わたしは半分眠りながら歌を歌った。
いつ眠ったのかも覚えていないが、起きるとベッドにはわたしとアオとアリとクイで寄り添い眠っていたようだ。
静かに起き上がり、部屋に戻ってみたがもふさまは帰ってきていなかった。
どうしちゃったんだろう? もふさまは強いから大丈夫だとは思うけど。
窓から外を見ると、兄さまたちが父さま、アルノルトさんにしごかれていた。その剣さばきが凄すぎる。って言うか、父さまとアルノルトさんが遠慮なさすぎ。
でもそれに兄さまたちはついていっている。倒れそうな体勢になっても、もうその時には次に攻撃へとの体勢を変えている。いつの間に。兄さまたち、素人目から見てもすっごく強くなってる。
畑の世話をしているときに、もふさまが帰ってきた。
「お帰りなさい。だいじょぶ?」
疲れて見えたので思わず聞いていた。
『ああ、撒くのに遠回りしてきたんだ』
「撒くのに?」
『いや、何でもない。何か食べるものはあるか?』
「昨日の夕飯と、朝ご飯、あるよ。どっち食べる?」
『どっちもだ』
両方取っておいてよかった。ご飯の部屋でもふさまのご飯を並べる。
昨日お馬さんがきたんだよと話した。お腹がいっぱいになると少し眠ると言うので部屋で休んでもらい、わたしは畑の世話に戻った。
馬小屋の方から声が聞こえたので首を伸ばすと、兄さまがケインに乗っている。
ずるい!
わたしはそちらに駆け出した。