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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
3章 弱さと強さと冬ごもり
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第126話 ダンジョン再び④地下6階 森エリア

 階段を降りると、心地よい風が吹いてくる。

 セーフティスペースの結界が作動していることを、もふさまに確かめてもらってから、シートを広げてランチタイムにすることにした。

 メニューは昨日と同じハンバーガーだけれど、ちょっとだけ楽しみがある。飲み物はレモネードにした。炭酸があれば完璧なのにな。揚げ芋はやめてポテトサラダ山盛りだ。双子は特に揚げ芋の方が良かったみたいだけど、大人たちはポテトサラダを気に入ったようだ。

 そして、わたしのメインディッシュはデザート!

 アイシング作りで白身だけ使い、黄身が残っていたのでプリンを作った。卵とミルクとお砂糖でできる、シンプルでおいしいデザートだ。

 そして器にも目を止めてほしい! が、無理だろうな。

 器は頑張ったんだよ。透明のガラスのような器が欲しかった。土魔法では陶器の色に持っていけても透明は無理だった。でもせっかくのデザート、涼しげな器でいただきたい。

 そこで瓶、ガラス瓶から、ガラスの器を作れないかと魔法を使ってみたら、できちゃったんだ。溶解、鋳造、徐冷、加工って単語がよぎったけれど、ちゃんとした意味はわからない。

 とにかく思い描いた、プリンの器だ。

 セットで作った小さめのデザート用スプーンと一緒に渡していく。


「え? これ何?」

「ふるふるしてる」

「甘い匂い」


 もふさまには食べやすいようにとば口の広い陶器の器だ。アオのは逆に細長い形にした。


「デザート。プリン」


 わたしは少しはしゃぎながらスプーンをいれる。おお、なめらか。やわらかい。みんなのにはカラメルソースを入れておいたから、一緒に食べてみてねと言っておく。わたしはナシだ。今日はカラメルなしのプリンを味わいたかったから。


「何これ、めちゃくちゃ、うまい」

「おいしい!」

「ふるふる」

『甘いぞ』

「あっまいでち」

「これはまたおいしいですね」

「これも記憶からか?」


 父さまに頷きながらプリンを掬う。

 母さまとピドリナさんも食べてるかな?

 幸せの甘さだ。卵とミルクの優しい味。材料もシンプルで、極めようと思えば奥は深いけれど、作り方はとても簡単だ。シンプルで簡単でおいしい! それでいて幸せな気持ちになれる。なんて素敵なデザートなんだろう。

 ダンジョンの中での食事とは思えないくらい満たされて、みんなもプリンみたいに柔らかい笑顔だ。

 またすぐに作ってねとお願いされながら片付けをした。みんなでやればあっという間だ。

 ほっこりした気持ちを引き締めて、森フィールドに出ることにした。



 マップには赤い点はまばらに、そして抑えた赤もいっぱい存在する。

 出没する魔物の性格で違うのか、このダンジョンでは抑えた赤になる、つまり敵対心をあまり持っていない魔物もいる。この違いも不思議。ベアさんも高位の魔物だそうだけど、話のわかるタイプだった。もふさまがいたからってのもあるだろうけど。

 木々の間に陽が差し込んでいる。

 蝶々が飛んでいて、花がいたるところに咲いている。

 のんびりした風景だと思っていると、ブーーンと聞いたことのある羽音。

 蜂だ。蜂がいるの?と鑑定をかけてみれば


ブンブブン:ブンブンを強くたくましくしたような魔物。蜜を巣に貯蔵している。尻についた針で攻撃をかける。蜜を集める、巣を守るなど役割を持ち集団で暮らす。蜜は極上。


「蜜、極上」


 わたしの喉が鳴った。

 わたしたちはブンブブンを追いかけてみることにした。

 今まで人が入って来ていないせいか、わたしたちを警戒する様子はない。ブンブブンは気まぐれに花に寄り道をしながら、やがて木にぶら下がっている巣に帰り着いた。


 突然父さまに口を塞がれ、木の影に隠れる。

 みんなも木に隠れるようにして動きをピタっと止めていた。

 ベアだ。アリクイみたいな黒い獣がのっそのっそと近づいてきていた。


 助走をつけると、アリクイは飛び上がって、ブンブブンの巣に手を伸ばした。

 スズメバチぐらいに大きな巣を守る戦闘バチがアリクイに群がる。すごい数だし、多分さしているんだろうけど、アリクイは気にならないかのように木に体当たりを始めた。

 巣は揺れて、中からさらに蜂たちが出てくる。

 体当たりを3回、4回したところで、アリクイはゆっくりと倒れた。

 倒れたアリクイに茂みから飛び出して来た小さな2匹の白い獣がすがる。

 ヒンヒン鳴いてる。色は白いけれど、独特な体型がアリクイだ。アリクイの子供だろう。


 すがられたアリクイは煙になった。ヒンヒンの鳴き声は大きくなる。

 蜂たちは流石に子アリクイには攻撃をしない。ほとんどの蜂は巣へと戻って行った。ヒンヒン鳴いている子アリクイたちだけが残される。

 胸にくる。アラ兄も、ロビ兄も目を赤くしてなんとか堪えている。


「死んじゃったんでち。泣いていても何も変わらないでちよ」


 アオが子アリクイの前に進み出た。子アリクイたちが顔をあげる。

 キュー、キュー鳴き声をあげた。


「そうでち。もう2度と会えないでち」


 その言葉の意味をここにいる人たちはみんな理解している。

 兄さまも双子も、父さまもわたしも、アオも、2度と会えないを体験している。ポーカーフェイスのアルノルトさんにもあったかもしれない。手をきつく握っているから。長寿のもふさまも、きっと〝見送る〟ことがあっただろう。

 だからアオの呟きはわたしたちにはとても重たい言葉だった。


「お腹、空いたでちか……」


 キューンと声をあげる。


「まだ、ミルクでちか!?」


 アオより大きいけど、子アリクイは赤ちゃんらしい。

 赤ちゃん……。


「デュカート、お母さん、預ける?」


 わたしにお乳をくれようとしたぐらいだ。この子たちにも分けてくれるかも。

 わたしが提案すると、サッとみんな顔を背けた。

 え、何?


「リーはそれでいいの?」


 アラ兄に尋ねられる。

 それでいいって何が?


「デュカートのおっぱい赤ちゃんベアに譲ってもいいのか?」


 真剣にロビ兄に聞かれて、カーッと顔が熱くなる。


「なっ」


 兄さまがロビ兄の口を塞いでいるけど、もう遅いよ。


「な、なんで」


 知っているんだ。


「ひよこが言ったんでち。おいらじゃないでち」


 ! いた……。確かに、ひよこちゃん、一緒にいた……。


「アオ、通訳、したね?」


 みんな何があったって尋ねなくなったから何にもなかったと納得したと思っていたのに!


「まあ、リディー。赤ちゃんはみんな最初はお乳から栄養をもらうんだ。恥ずかしいことじゃないぞ」


「わたし、赤ちゃん、違う。それに、もらってない!」


 断固拒否したのに。


「そうか、そうか、わかった」


 生暖かい笑顔だ。もらったと思ってる!

 キューっと哀しい鳴き声。


「お腹すいたって言ってるでち」


 ここから2階に戻るのは骨が折れそうだ。

 父さまもそう思ったみたいだ。


「フラッグで外に出て、地下2階に行くのが早いか……」


 それでも地下1階の石の通路はクロアオーンや虫系が出てくる。


「ミルク、持ってる。飲んで平気かな?」


「そうでちね」


 アオが考えこんでいると、そのお腹に子アリクイが口を押し付けている。甘えているのかな?

 アオが「やめるでち」と子アリクイの頭を軽く押した。

 一瞬、子アリクイとアオが青い光に包まれた。


「あ」


 アオが短く叫ぶ。

 わたしたちを振り返る眉が、八の字を描いていた。


「使役しちゃったでち」


 え?

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