第1211話 課外授業③班替え
「……別に大したことねーよ。それに俺が怪我をしたのは、俺が下手打っただけで誰のせいでもない」
アーロンが男気を見せれば、ケイトはさらに声高に突っぱねる。
「アーロンは良くても、私はとばっちりなんて嫌だわ」
「ケイト、あんた何言ってんの?」
ケイトと仲のいいライラがケイトの服を引っ張った。
「あんたたちは人から襲われてないから、私が酷いことを言ってるように思うんでしょう。大体バッカスから狙われているってわかってるんだから学園で大人しくしていればいいのに、課外授業まで出てくるからこんなことになるんじゃない!」
それは思い切り正論で。ぐうの音も出ない。
……D組にわたし甘え切っていたんだな。
そりゃそうだよね。わたしがいると、わたしだけでなく、みんなを危険に晒してるんだ。
「ちょっと、ケイト、あんたなんか変よ?」
ラエリンが詰め寄る。
「ラエリンだって怖い目にあったでしょ?」
「それはそうだけど、生きていればそんなこともあるわよ。それにもしリディアが狙われているというなら、怖い目に遭うリディアが気の毒だと思うし、それがなくなればいいと思うわ。そしてあんたもそう思う子のはずよ」
「何を騒いでいる?」
先生だ。
「先生」
ケイトが手を挙げる。
「なんだ?」
「私はシュタインさんと同じ班は嫌です。帰り道もまたバッカスに狙われたりしたら怖いです。班替えをお願いします」
場がシーンとした。
「先生」
わたしも手を挙げる。
「なんだ、シュタイン?」
「誰もわたしと組むのは嫌だと思います。できたら、明日はわたしをひとりの班にしてくれませんか?」
周りがざわざわする。
「先生、私、リディアと同じ班になります」
「私も同じ班に」
「私も」
「私も」
レニータたちが名乗りをあげてくれる。
「先生、俺はシュタインと同じ班で問題ありません」
「俺もです」
「私もです」
「何よ、誰だってあんなふうに人から攻撃されたら絶対に怖くなるわ!」
ケイトが叫ぶ。
ライラが隣にきてケイトの肩を抱くと、ケイトはその手を払った。
「リディアを外してください!」
いい意味でケイトは自身の意見を言わない子だと思っていた。強く主張しないから、まあるく優しくどんな意見にも寄り添う。それで誰とでも仲良くなれる子って思っていたけど、こんなしっかり意見を言う子だったんだなと認識を改める。
「先生、私とそのレディーを交換するのはいかがでしょう?」
深緑の長い髪は三つ編みにしている。濃い茶色の瞳。
アネリスト国の第四王子。ジョルジョ・ロッシ・アネリスト。
「A組、ですよね?」
不穏な何かを感じたので、潰しておく。クラスの問題と先生が思ってくれますように。
「この授業の意味はどんな状況でも生きながらえるが主旨のはず。クラスは関係ないのでは?」
「僕も同感です。対人戦は経験がありますので、僕がシュタイン嬢と組みましょう」
セインの公爵家の子。ルドルフ・オス。茶色い髪に、榛色の瞳。優しそうに見えるけど、……セインの子だ。
「先生、一人がいいです」
わたしは心から言った。誰かに狙われているのも嫌だけど、曰くありのアネリストやセインと一緒にいる方が嫌だ。心から。
こちらはこちらでやいのやいのやっていると、向こうでも盛り上がっている。
「ケイト、あんた熱でもあるんじゃないの?」
マリンがケイトのおでこに手をやって熱を測ろうとしている。
「そうよ、そういうこと言うのは、私とかマリンのはずで、あんたのガラじゃないでしょ」
アイデラ……。なんて突っかかりかたしてるんだ。
でもいい勘してる。
わたしはクリスタルちゃんの視線の先を見ていた。
あの〝留学生〟。レオン先生の留学生発言は誰を指したのかは聞かずじまいになってしまったけど、十中八九アネリストの王子だろう。
わたしの視線に気づいたみたいで、目尻を和ませる。
確証はない。けれど、レオン先生と手を繋いでいたみたいに、ケイトに長い間触れたら、わたしは〝変化〟するんじゃないかと予想している。
先生は腕を組んでいた。
「リキ、アーロン。お前らはシュタインと一緒でも本当にいいのか?」
「「問題ありません」」
「それならケイトとラエリンは別の班に入れ」
「わたしはリディアと一緒で問題ありません」
ラエリンが声をあげた。
「ケイトはイシュメルの班に。ラエリンはアマディスの班に」
なんか嫌な予感。
「アネリストとオスはリキの班に入れ」
「ウチの班にA組が入るんですか?」
リキが驚いて尋ねる。
「確かに人からの襲撃があった。狙いがシュタインかどうかはわからないが、その可能性があるとわかっていてシュタインを普通に班編成したのは私の落ち度だ、申し訳ない。ケイトの言い分はもっともだ。だから班編成を一部入れ替える。
ただ魔法戦の授業は何があろうとも生き残れる強さを学ぶこと。襲撃は衝撃的だったろうが、凄まじい経験からお前たちも学べたことがあったはず。喜ばしいとは言えることではないが、その襲撃に耐え敵を捕らえた自分たちの能力を誇れ。
リキ、アーロン、ラエリン、ケイト、シュタイン。5人は魔法戦の成績は上位にあたる。シュタインは巻き込まれがちであるからそこは配慮していた。シュタインは体力こそないが細やかに魔法を使い対処できる。何かあったとしても、他の4人も対処していける実力があるから組ませていた。
襲撃があったのも事実。恐怖心が出るのもわかる。移動願いのあったケイトを他の班にいれようと思った。残るといったラエリンを移動させたのは、何かあった時のことを想定している。
男子と女子がいた場合、制圧しやすいと思われるのは女子の場合が多い。なぜなら、男の方が力が強いことが多い経験則があるから。だから女子は標的にされやすい。シュタインが狙いだとするなら、次の落とし所はラエリンとなることが予想される。ラエリンの実力は認めるが、危険を冒すまでもない、ラエリンにも移動してもらう」
先生はそこまで一気に言った。そして続ける。
「リキとアーロンを残すのは、戦いにおいて見極めができその判断通りの行動ができると思うから。もし命の危険を感じたら、他のことはいい、逃げろ。わかるな?」
先生がふたりに確めると、ふたりは静かに頷いた。
「アネリストとオスは対人戦の経験があるな?」
真っ向から尋ねられて、ふたりはまぁとうなずく。
「対人戦の経験者がシュタインと同じ班になりたいとの申し出があった。よって、ふたりをケイトとラエリンに代わりリキの班に入れた」
先生はものすごくみんなの意見を聞き入れたみたいに言ってるけど、わたしの意見だけ、取り入れてないよね?
「先生」
わたしは手をあげた。




