第1210話 課外授業②険悪
その後、誰も口を開かなくて、わたしたちは黙々と山道を歩いた。
ドラゴンちゃんたちに髪を引っ張られる。
先ほどと空気が全く違うのを感じ取っているみたい。
居心地悪いもんね。
急勾配が激しくなった。山頂が近いのかもしれない。
「おい、先頭。速度ゆるめてくれ、シュタインがバテてる」
リキの言葉にみんなが揃って振り返る。
やっぱりグラウンドを走っても、意味ないじゃないか。
ケイトが大きくため息をついた。
「……ごめん」
たまらず謝る。
「リディアは守られすぎなんだよ。だから体力がいつまでたってもつかないの!」
「わたしだって努力した」
ボソッと呟くと、それを拾われる。
「何? 聞こえなかった」
恥ずかしくなり、取り消す。
「……なんでもない」
「気になるじゃん、言ってよ!」
「……わたしだって努力したって言ったの!」
「努力? どんな努力よ?」
「小さい頃から走りこんだり、剣の修行したりした。
でも、少し距離を伸ばしたり時間を長くすれば熱が出て寝込むことになって、結局練習量は増やせなかった」
ケイトの目は、何その言い訳?と言っていた。
『リディア、魔物だ』
え?
「そこまで。何か来る」
リキがわたしたちの前に歩み出る。
もふさまは獣じゃなくて、魔物と言った。
先生が学生のオリエンテーションに選ぶような山に魔物が?
リキがどこからか出した棒で魔物を殴った。ラエリンが走り、短剣で傷をつける。
わたしは風魔法で魔物を足止めする。アーロンが矢を放ち命中。ドラゴンちゃんたちも総攻撃だ。魔物がドシーンと倒れた。
びっくりしたー。
「大きい」
ケイトがおっかなびっくり近寄り……魔物の目が開いた。
死んでなかった!
アーロンが武器を短剣に変えて走る。ケイトの前に出て、魔物を傷つける。
魔物が大きな鳴き声を上げた。
ケイトが遠ざかろうと方向転換した。魔物に背中を見せた。
「ケイト!」
え?とこちらを見たケイトの頭に魔物が……。
ケイトを突き飛ばす。急にいなくなったケイトに代わりわたしに狙いを定めた。けれど、シールドがその攻撃を弾く。風の刃をお見舞いすると今度こそ動かなくなった。
「ケイト、確認取るまで気を抜くな」
「はい、ごめんなさい。リディア、ありがとう」
「怪我してない?」
ケイトだけでなく、他のみんなも怪我をしてなくて、ほーっと息を吐き出す。
魔物は大きいので収納ポケットに入れた。
「無駄話が過ぎたな。ここからは気合を入れ直していこう」
リキの言葉にみんなうなずく。
「こ、これも授業の一環なわけ?」
ケイトが叫んだ。
あのあと、中くらいのと小さい魔物が出て、やっつけ終わったら、今度は目以外の顔部分を隠している人が出てきた。敵意あり。
もふさまが大きくなるか?と尋ねてくれたけど、危なくなったらお願いすることにした。もふさまが大きくなるか迷うぐらいの敵のようだから。
「対人戦なんて聞いてねーけど」
わたしたちは総攻撃をかけた。ドラゴンちゃんたちも張り切って。
アーロンの腕から血が流れたのを見たとき、わたしたちは怖気付いた。
魔物と戦って傷つく、それは普通にある。それはそこまで胸にこないんだけど、目の前で敵意を持って、同級生が人に傷つけられたのを見たのは衝撃的で。
向こうはこちらの息の根を止めるつもり?と思った時にはトルネードを作っていた。敵をトルネードで洗濯。意識がなくなっただろうところでトルネードを消して高い位置から人を落とした。
落ちた時すごい音がした。動けるような状態ではないはず。
ゼーゼー荒い息をしながら近づこうとしたところ、先生が現れた。
リキが班長の持たされている緊急信号を送ったみたいだ。
「対人戦は含まれてませんよね?」
リキが確認する。
「もちろんだ」
先生は伝達魔法を飛ばす。
え? 秒で現れたのは学園の魔法兵とヒンデルマン先生。
な、なんで学園の魔法兵が学園の外に?
衛兵が倒れた男たちを捕縛する。
先生がアーロンの腕の手当てをしだして、わたしたちはアーロンが怪我をしていたことを思い出した。
敵をできる範囲内で気絶させたことを、先生たちは褒めてくれた。
そしてヒンデルマン先生と魔法兵と捕えられた人たちが消える。
もう少しで頂上だと情報をもらい、先生も頂上で待っていると戻ってしまった。
痛い足を引き摺るようにして、黙々と歩き、やがて1時間ほどしてから頂上に着いた。
ある程度の班は到着していて、真ん中ぐらいかなとあたりをつけた。
各自テントを張り、夕飯の用意をする。わいわいとはしゃいでいて、さっきまでの戦いが嘘みたいだ。
A組の子たちがテントを張るのに苦戦していた。
火魔法があるから大丈夫と思っていたようだけど、調理するには長く火にかける必要があるわけで。かまどの作り方や薪の置き方を盗み見ている。
エリーはさすがだね。騎士団の遠征にも行ったことあるだろうから、キャンプの仕方がわかっている。A組の子たちから引っ張りだこになっていた。
わたしたちの班の夕食は、大きめのお鍋で下ごしらえした魚と野菜を一緒にごった煮にした。
小さいのと中くらいの魔物はリキとアーロンが捌いてくれた。
そのお肉は別に焼くことにする。
D組のみんなと情報交換をする。
ケイトが対人戦が怖かったとぼやけば、なんだそれと湧き立つ。
クリスタルちゃんがくりゅくりゅ言いながらわたしの耳たぶを引っ張った。
「どした?」
手を近づけると乗ってきた。なんか困ったような顔をしている。
「具合悪い?」
「くりゅ」
首を横に振る。ホッとする。
「なんで人が襲ってくるの?」
と誰かが言って、なんだか視線を感じて顔をあげると、みんながわたしを見ていた。
「リディアが狙われたんじゃない?」
怒ったように腕を組み言ったのはケイトだ。
「ちょっと、ケイト!」
止めようとしたのはラエリンだけど、ケイトはその手を振り払った。
「リディアが狙われたとばっちりで何かあるなんて嫌よ。アーロンなんか怪我したんだから!」
大きな声だったし、みんなこちらを見ていたので、広範囲に聞こえただろうな。
ものすごく気まずい。
けれど変わらず、クリスタルちゃんがわたしの耳にくりゅくりゅ言っていた。




