第1209話 課外授業①チーム
キャンプじゃん。
転移門を経由してたどり着いたアトラス山麓でこれからの説明があった時、わたしは一気に脱力した。
課外授業っていうから、魔法戦の試験のようなハードなものを想像していた。
けど、蓋を開けてみれば……班に別れ、夕方までに頂上で集合。お昼ご飯はすでに支給されていて、それは班で適宜に取ってよし。夜ご飯の材料は移動中に自分たちで調達。頂上で一晩過ごし、明日は夕方までに麓に帰ってくるというオリエンテーリングだった。
すっごい初歩じゃんと思ったけど、A組は悲鳴をあげている。
そっか。わたしたちにはすっごい普通のことだけど、貴族の令息、令嬢には馴染みのないことなのかもしれない。そこまで標高のある山ではないらしいけど、けっこう辛いのかもしれない。
協調性を学び、危機管理能力を養い、自分でなんでもできるようになって、もしはぐれたりなんだりしても生き延びれるよう、学ぶのが目的。
お遣いさまの力を借りないようにと注意が入る。
はーい。
班編成が発表された。
体の大きなリキが班長。メランに友達からならと言われてそれでいいと言ったそうだけど、それから進展あったのかな?と余計なことを思う。
それから割と情報分析してるなーと思ったことのあるアーロン。
大人っぽいおしゃれ番長のラエリン。剣の腕もいい。
それから誰とでも仲良くなれるケイト。それにわたしだ。
A組、D組と5分ごと交互に出発していく。わたしたちは5番目だった。
ラエリンが先頭を歩き、次をアーロン。ケイト、わたし、しんがりをリキが歩く。
5分差の出発だから他の班に遭遇するんじゃないかと思っていたけれど、全然会うことはなかった。
初夏の暑さを感じさせない山だ。どちらかというと背の高い木々の日陰では肌寒いぐらい。ラエリンは慣れた感じで山道を音をさせずに歩く。それをリキがすごいと褒めていた。獣は怖がりというのはある意味本当らしく、気配はするものの姿を現すことはなかった。
なだらかに見えてもさすが山道で、体力を削られる。
危険なことは何もなく……2回ほどもふさまが単独で散歩に行ったぐらいだ。
わたしから離れるということは、本当に危険のない普通の山なんだと思う。
お昼を過ぎた頃、マップでも半分きたぐらいだったので、支給されたお昼ご飯を食べた。班長が抽選のように引き当てたのは北食堂のランチボックス。お嬢さま御用達のおしゃれなランチ。
パンとお肉の入ったサラダ、キッシュ、フルーツがかわいらしく詰められていた。
もふさまに何か食べるか聞いてみたけれど、上品すぎるとそっぽを向く。
夕飯にがっつりお肉を食べたいとのことなので、お昼はわたしの膝の上でお昼寝をしていた。ドラゴンちゃんたちにはフルーツをあげる。昨日の夜、たっぷり歌を歌ったから、フルーツをつまむぐらいでいいみたい。
午後は夕飯になる何かを狩ろうねと話して、獣はいないかと気にしながら歩いた。
獣を気にしていたからか、山道がそこまで辛くなかった。
川があったのでそこで魚を取っていくことにした。
アーロン、何者!? クマが魚を獲るみたいに手で水を掬ったかと思えば魚が地面でぴちぴちと地面を叩く。アーロンに後光がさして見えるよとみんなで拝むと「やめろ」と怒られた。
稲妻ちゃんに髪を引っ張られる。
「どうしたの?」
みんなもなんとなく稲妻ちゃんを見る。
稲妻ちゃんは
「ぴぃか」
と嬉しそうに鳴いて、川の上へと飛んでいく。
どした?
身をギュッとして「ピィカー」と大きく体を反らした?
ガラガラガッシャーン
カクカクっと稲妻が走ってきて、川の中に落ちた。
魚が何匹も飛び出してきて浮く。
ピカピカピカ
急いで急いでとでもいうように、わたしのところに飛んできて髪を引っ張った。
え、捕まえろって?
これ、生きてるね。雷で仮死状態なんだ。
浮かんでゆっくり流れていく魚を拾い上げると、みんなも手伝ってくれた。
「稲妻ちゃん、ありがとう。夕食にするね」
とお礼をいうと、他のみんなも稲妻ちゃんにお礼を言った。
すると……パタパタと頂上へ向かうわたしたちから時々離れるドラゴンちゃんたち。そして野菜や鉱石を持ってくるようになった。
ドラゴンを使うなという注意を受けはしなかったけど、いいのだろうか……。
「そういえば、この前、門のところまでアダムが来てたって?」
ケイトに尋ねられる。
ああ、あの日ね。
「うん」
「こっちまで顔出してくれればいいのに」
「学園生ではないからね」
「元気、なんだよね?」
「今、ウチにいないんだ。だからわからないけど、元気だと思うよ」
「えー、リディア冷たい! アダムは留年するほど体が弱いんだよ? 体のこともっと気にしてあげなよ」
ケイトに怒られる。
そっか、アダムは留年設定になってたっけ。
「そうだよ、リディア、アダムにそっけなさすぎで、アダムかわいそうだよ」
ラエリンも加わった。
「リディアの近くにいたくて執事にまでなるなんて。涙ぐましくて」
「そりゃリディアは婚約者がいるから、応えられないのはわかるけど、もっと優しく……」
「ちょっと待って。え? ケイトとラエリンはなぁに、アダムがウチの執事になったのはアダムがわたしを好きだからとか思ってるの?」
ふたりは顔を合わせ、眉根を寄せる。
「リディア、鈍過ぎ! あれだけあからさまなのに、なんでわかってあげないの?」
わたしは手のひらを押すようにして、待ったをかける。
「アダムが聞いたら卒倒するよ。やめてあげて。そんなんじゃないから」
「そんなんじゃない?」
「うん。ここだけの話にしてほしいんだけど、国の依頼で受けてくれたんだよ、アダム」
「え、そうなの?」
驚くふたりにわたしはうなずく。
「使節団で大陸をまわる話もあったし。わたしの護衛も同時にできていいってことで」
「うーーん、執事になったのはそういう理由であったとしても、アダムはリディアのことが好きだよ」
ケイトが力強くいう。腰に手を当て、怒るような勢いで。
「おい、あいつ言う時は自分で言うだろ。お前が言ってどうすんだよ」
アーロンが声を上げる。
「アーロンはどう思う? あんたもアダムはリディアを好きって思うでしょ?」
「それは当人同士が知ってればいいことで、周りが言ってどうにかなることでもすることでもないだろ?」
「あんまくっちゃべってないで、気をつけて歩けよ」
リキから注意が飛んだ。




