第1207話 予言の女神
「なぁ、リーのスキルでは、その呪詛が誰からのものなのか、それはわからないのか?」
尋ねてきたロビ兄を見上げる。
「うん、精神体への攻撃を回避するため、変化の尻尾切りが施行されたっていうアナウンスしかなかった」
「本当にレオン先生ではない? でもヒンデルマン先生とレオン先生しかいなかったんだろ?」
「校舎のドアのところに留学生はいた。先生が言った留学生ってあの子のことだったのかな?」
「リディー、レオン先生と何を話したのか、全部教えてくれるかい?」
「うん。先生は渡り廊下の手すりの上に立ってた。
何をしているんですか?って尋ねて……」
わたしはできるだけ思い出すようにして、あの時のことを話した。
みんな静かに聞いてくれた。
いると騒がしくなるエリンとノエルは、コッコやケインたちの世話をするのにいなかったんだと後から聞いた。
話してみて、あの時触れたのはレオン先生とヒンデルマン先生だけ。
でもふたりはわたしに対して悪意はないと思えている。
「確かに悪意がないとしても、知らないところで媒体になることもあるかもしれない」
兄さまの言う通りかもしれない。
「呪い系は効かないって気づいてからも何度も使うとは考えにくいから、新たな勢力かもしれないね」
トーンを落として兄さまが言った。
新たなと言ったら、奴隷を解放できると思われたとか、そのラインかな。
ドラゴン繋がりは、わたしに何かあったら、ぷっつり切れるわけだから、ドラゴンで何かしたい場合はわたしと接触をもち続けたがるはずだし。
そうなると、奴隷推進派系なのかな?
「第四大陸の時に名のあがっていた国、アネリスト。アダムが調べたそうだ」
アネリストから留学生が来ている。鑑定では第四王子だったと思う。
第四大陸に行った時、バッカスとウダデ族をそそのかし、ミネルバをのっとろうとしていた。その時ウダデ族は自分たちはアネリストだと名を出していたんだよね。
アネリストのやったことにしたかったみたいだけど、なぜアネリストの名が出たのかはよくわからなかった。バッカスのダコブがその名を出したみたいだ。
それ以上口を割らないらしいから、個人的な恨みか、バッカスがアネリストに何か思うところがあるのか、はっきりはしないけど含むところはあるのだろう。
だからアダムは調べた。もしバッカスが気にする何かなら、こちらにとって利になることがわかるかもしれないから。
王位継承権の争いが静かに進行中らしい。ここ1年でふたりの王子が命を落とし、残るは第二王子と、留学に来ている第四王子だけとなったそうだ」
どこも王位継承については揉めるものなのかな?
「ただアネリストには予言の女神がいるそうだ」
「予言の、女神?」
「予言が当たるというより、望む未来を予言してもらうという意が強いそうだ」
……それって。
「女神っていうことは、その預言者は女性?」
「留学に来てる第四王子の母親だそうだ」
爪を噛んでいた。つながりは何も見えないような。
けれど何かつながっているような……。
「アネリストにも気をつけて」
「リディアと同じ学年ってことはその留学生も課外授業に行くってことだな」
父さまがため息をつく。
新勢力。わたしに呪いをかけた人。アネリストからの何かかもしれない。
第四大陸から来たのなら、わたしがソックスになって呪いを払ったのを知らなくてもおかしくはない。
でも、そんな人と、課外授業が一緒なのか。
先生たちが頑張っていく場所を言わなくても、生徒の中にいたらアウトじゃない?
でも、この課外授業は、普通の課外授業ではない。
わたしたちはそこから、学園に戻らずにガインの国、ガゴチの手伝いをすることになっている。もちろん理事長のオッケーはもらい済み。そのことは理事長と課外授業の総責任者となる魔法戦の先生しか知らない。
「どんなときも、おいらたちはリディアを守るでちよ」
『そうだ。悪さをする奴はやっつける』
『トカゲになればいつも運んであげるのに』
もふもふ軍団のリュックの中の過酷さを思い出して、いや、それは遠慮したいと思う。
『試験のとき以外でリーを傷つけようとしたら、やっつけていいんだよね?』
『試験のときに便乗されると困りますねぇ』
『今もリディアに仕掛けてくる奴らは、リディアが必要で連れて行きたいのだろうから、それを阻止するのでよかろう』
わたしの能力を必要とする人たち、か。
「みんな、よろしく頼む!」
ロビ兄が力強くもふもふ軍団に言った。
ドラゴンちゃんたちが主張するようにぎゃあぎゃあ鳴いた。
「リディー、今日学園はどうする?」
体はだるい。と思っていると、父さまが言いにくそうに切り出した。
「レオン先生は解雇処分となったそうだ」
「え、それ、わたしのせい? わたしが落ちたから?」
父さまは首を横に振る。
「いいや。手すりの上に立つのは危険行為だ。たとえ魔法が使えて危険がないとしても禁止事項。生徒の手本になるべき教師がそれを破り、リディアも手すりの上に立たせた」
「あれはわたしが……」
「そうだとしても、教師はそれを止める立場にあるんだよ、リディー」
「レオン先生は追い詰められてた。先生たちの間で辛い目に遭って。
先生は確かに良くないことをした。生徒に思想を押しつけようとした。その先生がそのことで辛い目に遭って追い詰められてしたことに罰が下るの?
派閥問題でわたしに意地悪した先生たちは注意をされるぐらいだったのに。
そのことで心を痛めて追い詰められた先生の方が、どうして辛い処分を受けるの?」
父さまの手がわたしの頬に触れる。
「学園においても先生たちの決まり事がある。それにより下された処罰だ。教師は生徒に危害が及ばないよう守る義務がある。レオン先生はその禁忌を犯した」
「先生は手を出しただけよ。わたしが……わたしが、手を繋いでいる方が落ちた時に魔法で守れると思ったの。強い魔法を使ったら魔法兵が来て捕えられたら、レオン先生がもし落ちちゃったらどうにもできないと思ったから。
だけど、わたしが登ったからいけなかったの? そうしなければ先生は解雇されない? わたしが事情を話せば……」
起きあがろうとすると父さまの胸に抱き締められた。
「リディー訴えても覆ることはない。なぜならレオン先生が自分で望んだ処分だからだ」
え。
「先生が、自分で?」
父さまを押し返して顔を見る。父さまはうなずいた。




