第1206話 カボッチャ
もふさまは制服の首のところを咥えてくれた。
けれどそのタイミングで、わたしは変化をしてずっとずっと小さくなる。そうなれば当然どこに引っ掛かるわけでもなく落ちる。
苦しいし痛いのに、落ちるのぉおおおおおおぉおぉおぉ。
魔法も使えないんですけどぉおぉぉおぉぉぉ。
落ちるのが止まる。地面に叩きつけられた感じはしなかった。
薄目を開けると、世界が上下逆さま。
ブラックちゃんに尻尾を咥えられていた。他の子たちもブラックちゃんを褒めると同時に応援してる。
ありがとー。そう口にしようとして、身体中の痛さに目が回るまでも追加される。
もふさまが飛び降りてきた。
『リディア』
「もふさま」
耳にきゅきゅっとわたしの声が届く。
「だめ、家に……」
そうして意識を手放した。
起きると、現実が待ち受けていた。
恐る恐るどうなったのかを尋ねる。ものすごく想像はできるのだけれど。
わたしは手すりから落ちそうになり、もふさまに捕まえてもらった。
そこでいきなり変化した。
もふさまは服を咥えていたので、小さくなったわたしはストンと落ち、それをキャッチしてくれたのがブラックちゃん。
で、地面に叩きつけられることは免れたんだけど。そこまでは覚えているのと同じだ。
先生たちは見た。
わたしが服を丸ごと残して消えたのを……。
わたしともふさま、もふもふ軍団、ドラゴンちゃんたちはそのまま聖樹さまが引きあげてくれた。
そしてルームを使い、領地の外れの家へ。
母さまたちにアオが説明。それですぐに父さまがヒンデルマン先生に伝達魔法を送ったそうだ。
とりあえずわたしは無事なこと。緊急事態が起こり、お遣いさまの力で家に戻ったこと。このことは内密にしてほしいことを。
先生から、無事ならよかったと返信があったという。
兄さまはすぐにわたしを人型に戻してくれた。
丸一日寝込み、今、現実が押し寄せてきているところ、だそうだ。
「変化したということは、呪われたのか?」
父さまに勢い込んで聞かれる。
「うん。呪詛回避って聞こえた」
変化したわけだからそうだろうと推測していただろうけど、落ち着かない気持ちみたい。
最初に呪い系のことをわたしにかけた人たちは、わたしが呪いを回避できることを知ったはず。ソックスになったように周りには見せたからね。
それなのに、その後も、わたしは度々呪われている。
そこが父さまたちは納得できないみたいで、そのことを永遠に話してる。
わたしは呪いや呪術とは違うタイプの術なのかなという気がしてる。
精神体への攻撃を回避したとアナウンスされるから。命を奪うようなものでもないのかな、と。他大陸に行き、魔法やスキルでも仕様が違うっていうか、違うものがあるのを感じた。そんなふうに精神体への攻撃も呪術だけではなく別バージョンであるものなんじゃという気がしてる。
「リー、そんな落ち込まないで。その先生が何か仕込んでいたのかな?」
「違うと思う」
「それじゃあ誰が」
「……そ、そんなの誰でもいい」
思わず口から出た。
「誰でもいいって……」
「先生たちに見られた!」
自分の目を覆っても現実は変わらないけれど、見なかったことにしたい。
『いやあの暗さだし、見えなかったと思うぞ』
「主人さまのいう通りでち。暗かったし、ブラックが咥えていて、見えなかったでちよ」
「そうか、トカゲの姿はやはり見せたくないか」
父さまの苦痛に満ちた声。
「別にそれはいい!」
「え、いいの?」
「問題は、脱ぎ捨てた服を、下着ごと見られたってことよ!」
「え」
「いや、それは別に」
「別にじゃない!」
わたしは大したことじゃない意識の男性たちにキッと目をむける。
「リディー、服を着てないところを見られたわけじゃない。抜け殻の服を見られただけ……」
「兄さま、だけじゃない! 下着もあった!」
ベッドに母さまがそっと腰掛ける。
「リディーにもそんな一面があったのね。暗くて見えなかったわよ。それにもし気づいても見ないようにするものでしょ? だからそんな恥ずかしがらなくて大丈夫よ」
「でもーーー」
『それならこれから下着を着なきゃいいんじゃない?』
『そうだよ、リー、履かなきゃいいんだよ』
「そうでちね。アリとクイのいう通りでち。下着をつけなきゃいいでちよ」
「いや、その方が問題あるから」
アオの言ったことで、アリとクイの言ったことを察したようで、兄さまが突っ込む。
「あ」
「どうした、リー」
声を上げたわたしにロビ兄が反応する。
「変化が解けたとき、服を着ている状態なら、変化した時も服は脱げたりしないんじゃない?」
「ああ、そうかもしれないね」
アラ兄がうなずく。
「なら、わたしガインの花嫁になって、やり方教えてもらってくる!」
「リ、リディー、落ち着こうか。服が落ちただけだ。誰も気にしないよ」
速攻で兄さまが口にした。
「気にするよ!」
「服のことなんか誰も見ない」
「そういう問題じゃないの。脱いだものっていうのが問題なの! 裸を見られる方がまだマシ」
「こらこら、リディーもフランツも落ち着きなさい」
父さまに嗜められる。
「服もそのまま落ちたから、あのカボッチャパンツは見えてないはずだ」
「あなた!」
うっ。
「あ、リディー、父さまは主人さまが拾ってきてくださったから見たけれど……」
「やっぱり見たんじゃない!」
「それは言葉の綾で」
「じゃ、見てないの?」
「いや、それは……」
「リディア、いい加減にしなさい。恥ずかしいのはわかるけれど、当たり散らすんじゃありません」
母さまに怒られた。
そんなこと言ったって。
変化の姿がバレるのは喜ばしくない。だってふわふわやもふもふじゃなくてトカゲだし。でもドラゴンちゃんたちと接してみて、ずいぶんわたしもスベスベ鱗肌にも耐性ができてきたし、トカゲであることもなんとも思わなくなってきた。
けどね、脱いだ下着を見られるのはすっごく嫌! とにかく嫌!
それも学園の先生、理事にだよ。いやーーーーーーーーっ。
カボッチャを見るたびに連想してこのことを、この屈辱を思い出して、記憶が薄れることはないっ!




