第1203話 夢にも思わず
帰ってきてから、久しぶりにご飯を作り倒したー。
それでも、もふさまやもふもふ軍団がどんどん食べちゃうからストックできたのはちょっとだ。
休めと言われたけど、心がざわつくからそんな気になれなかった。
友好行脚は終わったけど、「神の封印を解ける」っていうのが気に掛かってさ。
あれは後からじわってくるワードだ。
封印されている神って、見習い神のことだよね。大元のこの世界の創造神でもある。
わたしに執着している者の存在。人を超えるもの。だから神の可能性があって、それは見習い神じゃないかと思った。
ベルゼからの手紙。北の聖域にいる存在、それも見習い神ではないかとあたりをつけていた。
見習い神がわたしに執着している理由。それが封印を解くことができるからなの? もしそうだったらと思うと怖い。
封印を解いて何をしたいんだ? それはわたしたちにとって良からぬ何かだという気がしてる。
でもさ、こう嫌がらせをしてこられたわけだから、普通の考えでいけばわたし断るじゃん? 人と神は考えが違うから、絶対言うことをきくと思ってるのかな? それともどんなに心の中でわたしは断りたくても、そうできない何かを相手が確信してる、とか?
あーーー、悩むことが増えた!
でも悩んでも相手から聞くまで答えは出ないんだから、きっと悩むのは無意味なのだ。
そうはわかっているんだけど……。
『リー、なくなった』
「なくなった?」
ありゃ、本当にカラだ。
何気にもふさまも口の周りをお手入れしている。
ま、いっか。みんなに食べてもらうために作ってたんだからね。
「また作るよ、お腹足りたよね? 今日はおしまい」
『また作ってくれるならいいよ』
ドラゴンの赤ちゃんたちも騒いでる。
明日からはまた学校だから。今日はそろそろ休もう。
とエプロンを外していると、アルノルトが「お帰りになりましたよ」と教えてくれた。
「リー、また大変だったんだって?」
「怪我してないか?」
ロビ兄、アラ兄が走ってキッチンに入ってくる。
「アラ兄もロビ兄も、そんなに就活見習い大変なの? 頬がげっそりしているじゃん!」
「ま、まーね」
ふたりともなんとなく視線をはずした。
就活ってそんな大変なんだ。
何をしていたの?と聞かれてご飯を作っていたというと、食べたいという。
もふもふ軍団みたいに、キッチンのテーブルの上でご飯を食べるというわけにはいかないから、食堂に行ってもらった。お皿にてんこ盛りにして出す。
あはは、ストックがなくなってしまった。
しばらく聖樹さまに賄賂おくって、放課後家まで移動させてもらおうかな。それでストックを充実させたいところだ。
聖樹さまへの賄賂、何がいいだろう?
アラ兄たちにお茶を入れていると、兄さまがお風呂から出てきた。
「お帰り、アラン、ロビン」
「あ、兄さまもおかえりなさい」
「おかえりー」
「第一大陸も大変だったって? リーの部屋に賊が入ったって父さまから聞いたよ。兄さま、退治した?」
兄さまはカクカクシカジカと、神殿が腐り切っていて、ベクリーヌ支部である神殿は閉鎖されたことなどを軽く話した。
今回の行脚でも、報告しなくてはいけないことはがっつりあったんだけど、混みいっていることもあり、今日は表面だけの軽いもので終えた。明日あたり、アダムと兄さまとルシオにしっかりした聴取があると思う。わたしは学生だから免除だ。
「神殿がそんなことに……じゃあ、ルシオは大変だね」
「ルシオといえば、リー、聞いたよ」
え? 何を?
「神に捧げる踊りを、全然踊れなかったって?」
ルシオ、言いつけたわね。
「まぁ、リディーは踊るの苦手だから」
兄さまが助け舟を出してくれた。
「それは仕方ないけど、一応最後まで踊り切ったけどふらふらになってたって言ってたよ」
ルシオ、余計なことを……。
「リー、体力落ちてない?」
どきっ。
「ダンジョンでも、魔法ばかり使うよね?」
どきどきっ。
「リー、体力をつけるのに、毎日走ろう」
い、いやーーーーーーーっ。
「そうだね、リディーが強いのは知っているけれど、基礎体力がないと長期戦になったら不利だ」
に、兄さままで。
わたしは部屋へと逃げようと、もふさまを抱き上げた。
「それはわかってるけど、知ってるでしょ? 今までだってわたし体力作りはやってきたよ。でも全然体力はつかないし、その前に体壊して寝込むを繰り返したじゃん」
それじゃあ、おやすみと続けようとしたら、その前に言われる。
「それでもだ。毎日、学園を帰る前にグラウンドを2周でいいから走れ。レオたちリーがサボらないよう見張ってくれ。頼んだぞ」
『修行か、いいぞー?』
もふもふ軍団は頼まれごとをして、嬉しそうにテーブルの上でやる気を見せている。
あー、最悪。グラウンド広いんだから。
アラ兄とロビ兄は後からお風呂でいいというので、わたしが先に入らせてもらうことにした。
わたしと一緒に兄さまは食堂を出る。
「さて、私は行くね。リディー、それじゃあまた」
「あ、領地の家に?」
「そう。父さまの手伝いだ」
言っておかなくちゃ。
「兄さま、留学したいなら、わたし応援するから。
ノエルの転移もあるし、フォンもあるもの」
この間、話をぶち切っちゃったからね。でもハッシュが起きた、緊急事態だったから。
「え? 留学? なんのこと?」
「え、わたしに言いにくいことって、またどっかいくってことじゃないの?」
兄さまは固まって、驚いて、ちょっと眉を傾かせて笑ったような顔をして。そしてとっても嬉しそうな顔をした。
「それはリディーにとって、私が遠くへ行くことは困ることってことだね?」
「困るっていうか淋しいよ。でも兄さまがしたいことをわたしは全力で応援する。だから一人で抱え込まずに話してね。一緒に考えるからさ」
あ。
兄さまの胸の中にいた。
「リディー、ありがとう。私も話すから、リディーもなんでも話してね」
「うん」
「アカ氏はいつ攻撃してくるかわからない。バッカスも君を狙ってる。いつも気をつけてね」
「うん。兄さまも」
兄さまはわたしのおでこに自分のおでこを合わせる。
ドギマギする。なんかとても大切にされているような気がして。
兄さまを見送ってから、みんなでお風呂に。
最初は湯船を不思議そうに見ていたドラゴンちゃんたちも、特に聖水風呂が大好きになった。ぷかぷか浮かんで泳ぐまである。
お風呂でぽかぽかになり、自分のベッドでみんなに囲まれて眠る幸せ。
わたしは湧き上がってくる幸せを感じながら眠りについた。
まさか次の日、なんで学園でこんなことが起こるの?と思うことになるとは、夢にも思わずに。




