第1201話 ベクリーヌ滞在⑰台本さながらに
「アカさんはどういう人なんです?」
兄さまが尋ねる。
「……孤児だった。先代の王に懐いて、頭もいいから可愛がられた。兄弟のように育ってきた。怯えず暮らせるようになることを目標に、一緒に歩んできたつもりだった」
「それは彼も同じだったかもしれませんね。ただ方向が違ってしまっただけで。ドラゴンやあの者たちが城に来ないから、彼も気づいているはずです。計画が失敗したことに」
陛下がハッとしたように顔をあげ急に走り出した。騎士たちは何人か王について走り出す。他の人たちは泥まみれのバッカスの人たちをロープで縛っている。
「走っていったけど?」
「何もかも知られたと思ったら自ら命を断つような人なんじゃないか、宰相は」
アダムがため息とともに言う。
「え、それじゃあ」
「ルシオがついてる」
あ、それでこっちの作戦にルシオがいなかったのか。
「いつわかったの?」
「諜報員がハッシュひとりとは思わなかった。それもやりたくなかった感満載。それで成功してるなんて変だろ? 魔石がなくなったのを公けにしていないのも気になった。わざと黙っているのかもしれないけれど。
それから、王が僕たちを地下に連れて行った時、彼は深く絶望していた。
だから、彼には何かあるって思ったんだ」
わたしたちは急いで城に戻らなくていいのかと思ったけど、アカさんの問題はこの国のことだから、できることは少ないとアダムは口にする。
そっか、そうだね。この国の問題だもんね。
赤き石を魔石にするのに、みんなが活躍してくれたとのことなので、兄さまをはじめみんなにお礼を言った。もちろんもふさまにも抱きついてさすってお礼を言った。
もふさまは特に何も言わなかったけど、尻尾が左右の地面を叩いて土埃が舞った。
3日もらうことになっているけど、わたしたちはのんびりとこの国にいるわけにもいかないので、ヤクトを強制的に起こす。
顔に水をかけると、ビクッとして目を開けた。
「起きたか?」
アダムが嫌味ったらしくフォルガード語で尋ねる。
「お、お前ら! 地龍はどうした!?」
キョロキョロして開口一番それだ。
「心配しなくても後でたっぷり会えるよ」
アダムのいうことは事実だ。会えた後どうなるかはわからないし想像したくないけど。
「お前、バッカスだな?」
ヤクトの目が動く。自分の足を見た。靴、履いているって思った感じ。
足首にバッカスの刺青があるのかもね。
「なんでバッカスが、第一大陸を乗っ取るんだよ? 俺はカザエルだ」
「ヤクト、お前が話しているのは共用語ではなくて、本来のフォルガード語だ」
「な、なんで本当の名前を知ってる!?」
アダムが突きつけると、ヤクトの顔が青ざめた。そうか、偽名か通称で悪いことをしてきたんだね。
「そんなことはどうでもいい。バッカスのいいや、お前の目的はなんだ?」
アダムはバッカスのひとりとしてではなく、彼がただ一人相撲を取っていただけと考えているみたいだ。
なぜそう思ったか……雑だから、だろうな。
バッカスは各国に支部を置けるほど大きくなるまで、人々の目を掻い潜ってきた人身売買組織。運が味方をしたとしてもそこまで表に出なかったのは、彼らが細心の注意を払い、存在を気取られないようにしてきたからだと思う。
それをカザエルを隠れ蓑にして、大胆に考え知らずに突っ込んでくるとは。
ドラゴンが味方につけば、そりゃあ楽勝と思ったのもわからなくもないけど……。
それにこちらも生粋のカザエル人は褐色の肌だとわかったから、その判別で確信がより持てたってところもある。
アカさんはカザエルが自分たちの祖先だと知っていたわけだから、こいつらが名を語っているだけなのは気づいていたと思う。
うーーん、カザエルと名乗る人たちは、犯罪集団の名義としてカザエルを名乗っているのかな。カザエル民ってことではなくて。
残念なことに犯罪組織のカザエルに崇拝してついている人たちもいるだろうしね。
シンシアダンジョンで初めて会ったカザエルの人たち。あのふたり組も褐色の肌ではなかった。
「俺たちはカザエルだ。ここに住む権利がある。なぜなら、我らカザエルは同胞であるグレナンに追い出されたからだ」
諜報員としてここで暮らしていた男女。彼らは亡くなったけれど、その息子と作戦をたてたのだとペラペラ話す。
そう言うよう台本があったように。だって、なめらかすぎる。一応筋が通っているようにも思えるけど、なんだか違和感が。
「なぜ今なの?」
思わず尋ねる。
「え?」
「200年も前からあなたたちは分かれたのよね、カザエルとグレナンは」
なんで知ってるんだ? そういえばこいつら驚いてなかったと思い当たったみたい。
「そ、それは……」
と今度は口をつぐんだ。
「地龍から聞いた。お前たちが呼び出してきたと。断ったのに供え物を食べたら、言うことを聞いていたとな」
「嘘だ、ドラゴンの言葉を……リディア・シュタイン……ドラゴンを育てる……話もできるのか……」
顔がどんどん青ざめていく。
「ハッ」
といきなり笑いだした。
「そういうことか、なるほど、俺は騙されたってことだ」
責任逃れでもするつもり?と思った時、アダムが鋭い声をあげた。
「おい!」
ヤクトの周りに黒いもやのようなものがある?
身を縛ったロープ。その不自由ながんじがらめの先に出した手で、カザエルの決死のポーズをとっていた。
「俺はまんまと騙された。捨て駒だ。あばよくばあんたを捕らえられればめっけもんぐらいに思ってたんだろう。俺を嵌めたのは紫煙のアグロ」
名を言った時、苦しそうに顔を歪ませた。
「地龍の呼び出し方の書いてある古い書記を探させ、魔の森を献上したら一気に格があがると話していた。俺に聞かせるためだったんだな」
体がおかしな震え方をする。意識してできる動作じゃない。
「おい」
アダムが異常な様子に手を差し伸べたけど、ヤクトは続ける。
「そしてあんたを捕らえれば、神の封印を解くことができて、我らは力を得るだろうと」
目を見開いて、ゴフッと大量の血を吹き出した。
「きゃーーーーー」
兄さまの胸に顔を押しつけられ。
ハッとして、光魔法と思った時には、ヤクトは事切れていた。
アダムは「呪詛だ」と呟いた。




