第1200話 ベクリーヌ滞在⑯3つの条件
なぜだかどうしてだか、そしてそんな方法をどうして知っているのか、全ては謎だけど、とにかくバッカスは地龍を呼び出した。ベクリーヌを制圧するのを手伝ってもらおうとするが断られる。了解したとしても、断られても使うつもりだったのだろう、呼び出しのお供え物に赤い石を入れていた。
それを食べた地龍はヤクトに言われるまま、この地にやってきた。
わたしはもふさまと地龍の会話でわかったことをみんなに説明する。
「ベクリーヌ王、彼らはあなたの国の民ですか?」
陛下は山積みになった人たちの顔を繁々と見てから「違う」と断言した。
「肌の色がまず違う」
そう言いながら顔を上げた。
やっぱり。
「リディア嬢、ドラゴンに、事情を聞くまでこいつらの身柄を預からせて欲しいと頼んでくれないか?」
怒ってるみたいだから、難しそうだな。
こほんと喉を整える。
そしてドラゴンを見上げる。
「わたしは人族のリディア・シュタイン。彼らが言っていたドラゴンを育てる幼き人族とはわたしのことだと思います。
もふさま、えっと大地の護り手さまは地龍と呼ばれていましたが、鑑定では土竜と出ています。どちらでお呼びすればいいでしょうか?」
暗い色の縦の瞳が大きくなる。
『土竜とはまた古風な呼び名だな。土の中から生まれた低級なドラゴンだと馬鹿にされていた時の名だ』
げっ。そんな謂れなの? 血の気が引いたけど、地龍はヘソを曲げたわけではなかった。
『いかにも、我は地龍であり土竜である。今は地龍と呼べ』
「わかりました。先ほどの会話で……」
『待て、人族の幼子よ。お前は我の言葉がわかるか?』
「はい」
地龍がぽかんと口を開けている。なんか仕草が人族っぽい。
土竜でもあり地龍でもある。ってことは正真正銘、他ドラゴンと敵対したドラゴンだ。ちょっと身構えたのに、拍子抜けした。
っていうか、なんで土竜って鑑定で出たのに地龍とごっちゃにしたんだろう? 土色っぽいって勝手にイメージしてたからかな。
「先ほど護り手さまとお話をされていて、呼び出した奴らをもらっていってもいいかとおっしゃっていましたが、彼らはベクリーヌに挑んできました。わたしのことも捕らえると言っていました。それで、そのことを詳しく聞き出したいのです。
連れていくのはそれまで待ってもらえませんか?」
『どれくらいだ?』
わたしはアダムに説明した。
アダムは陛下とアイコンタクトをとり、3日と言った。
「3日猶予をいただきたいです」
『………………』
地龍は何か言おうとしたけど、もふさまにじろっとみられてそっぽをむく。
そして思い出したようにこちらを見た。
『ところで娘、お前はドラゴンを育てることができるそうだな。今も小さきドラゴンを身に忍ばせている』
忍ばせているんじゃなくて、ドラゴンちゃんたちが怖くて髪の中に逃げ込んでいるだけなんだけどね。
『我と取り引きをせぬか?』
取り引き?
『地龍も生まれ育つ赤子が減った。地龍が生まれた時に3頭育ててくれるというなら、3日待つ』
どうだ?とぎょろっと大きな目を向けてくる。
………………。
「3つの条件をのんでいただけるなら考えます」
『なんだと? 3つの条件? はっ、人族とはなんと欲張りな』
「3頭育てるのなら、3つの条件。何も欲張っていないと思いますけど? 取り引きとは対等で、そういうものでしょう?」
地龍は少し考えた。
『いいだろう、その条件とやらを言ってみろ』
「ひとつは、この者たちを連れていくのを3日待ってください」
『それは、いいだろう』
「現在5頭のドラゴンの赤ちゃんを預かっていますが、育てる方法を知っているわけでも、わたしに力が備わっているわけでもありません。ドラゴンの赤ちゃんたちの生きる意思が強くて、たまたまうまくいっているのかもしれません。
お預かりした時、わたしは誠意を持って接しますが何が起こるかは分かりません。赤ちゃんだから突然、言いたくないけど死んでしまうこともあるかもしれません。
預かるのは構いませんが、何かあった時の責任までは持てません。それを了承していただけなくては預かることはしません」
『うぬぬ……まぁ、我らが育ていてもそういうこともあるのだから……3つ目は?』
「他のドラゴンに喧嘩をふっかけると聞いたことがありますが、本当ですか?」
『それは、お前なぞの気にすることではない!』
すごい鼻息で転がりそうになった。
「あのですね、わたしはこうして、ブラックドラゴン、クリスタルドラゴン、銀龍、稲妻ドラゴン、グロウィングを預かっています。ここに地龍ちゃんが加わったとしましょう。赤ちゃんたちは仲良しです。種族を超えて仲良しです。
それがですよ、親たちは仲が悪いと知ったらどうなると思います?
地龍ちゃん孤立しちゃいますよ? それでいいんですか?
これ、関係ないことですか?」
『いや、それは。ええと』
「やんごとない理由があるのかもしれません。けれどせめて、預かった赤ちゃんたちが道理をわかるようになるまでは、他の種族と仲良くしてください。最悪でも喧嘩は吹っ掛けないでください。赤ちゃん同士が仲良しになれるかもしれない未来を奪わないでください」
脳裏にルチアさまの泣き顔が浮かぶ。
「もしわたしに地龍の赤ちゃんを預けるというのなら、わたしの出した条件3つ全てをのんだことになりますので、ちゃんと考えてください」
『わ、わかった。娘の言うとおりにする』
勝った、とわたしは思った。
地龍はまた3日後戻ってくるのがめんどうなので、ここで3日待つと言って土の中に潜っていった。おおお、地龍というだけあって、うん、地のスペシャリスト!
それを見送ってから、アダムが陛下に尋ねた。
「陛下、心は決まりましたか?」
そういえばみんな耳から血が出てたけど、大丈夫なのかな?
みんな疲れた様子ではあるけれど、普通に動いているな。
「お前の見立てではアカなのか?」
「他の誰が、こうして被害が最小限なところで事を回せるというのです?」
その言葉で陛下が目頭を押さえた。
「……なんの話?」
本気でわからなくて、アダムの服を引っ張る。
「君も思わなかった? 作戦にしては雑だと」
え。あ、それは思った。
バッカスだとしてもカザエルだとしても、行き当たりばったりじゃないけど、本当に計画していたのか?って。
「その雑な作戦がつつがなく動く。協力者がいるってことか……」
兄さまが父さまのように腕を組んで顎を触っていた。
協力者がいるって……それが宰相のアカさんってこと?
「裏切り者がハッシュだけなのは弱すぎる。それに戦う地にここを選んだアカさんの思いはわかる。敵にしても城を乗っ取るなら城は壊したくないというのは筋が通っているように思うけれど、揃ってこの地に降り立つのは変だろ? 前もって誘導してたんだ。
……教会とのことだって、いろいろやりようはあったはずだ。でも言われるままになっていた。それはそう誘導している者がいるはずだ」
アカさんが、陛下を、この国を、裏切っていたってこと?




