第1199話 ベクリーヌ滞在⑮地龍
鑑定結果を知らせると、アダムは目を細める。
「ヤクト、さっきドラゴンから降りたやつだな」
ドラゴンから降りた? どんな動体視力してんのよ。砂埃もすごかったのに。
アダムは続ける。
「まずはあいつを捕らえないとだが、フランツが来るまでドラゴンの相手をしないと……」
「それはこちらで」
陛下が短く言って手を上げた。
あちこちから矢がドラゴンに向かって飛ぶ。
けれどドラゴンの固い鱗に突き刺さりもせずに落ちる。
ただそれは想定内というように再び矢が飛んでいく。
アダムが走りでた。え、見えなくなった。
どこに行ったんだろう?
土竜が首を振ったと思ったら、土が勝手に盛り上がりボコボコっと飛んでいき、土の家が崩れていく。
土魔法か。わたしは土竜を囲むように土の壁を生やしてコーティングした。
少しは時間を稼げるはずだ。
倒れた土の家に潜んでいた人たちが飛び出してきて、無事な違う家へと走る。
怒りの鳴き声が聞こえる。
すっごい音がしてるから、壁に土礫を当てたり、体当たりしてるんだろうな、見えないけど。
『リディアよ、どうする?』
「壁が破られたら、また壁を作るよ。そうやっている間に兄さまたちが帰ってくるといいんだけど……」
……なんで反撃してこないんだろう?
壁は作っているけどさ。ドラゴンには翼がある。飛び上がれば一瞬で、壁より上に脱出できる。
それに土魔法のスペシャリストが壁を壊すのに、時間がかかりすぎてる。コーティングをしているから、多少厄介になるだろうけど、ドラゴンに通用するとは正直思っていなかった。
「もふさま、土竜、変じゃない? 戦う気がない?」
『確かにやる気がないようだな』
そっか、自分の意思じゃないのはわかっているんだ。そんな鑑定結果。
だから人族のヤクトの考える、壁ができたら壊すしか行動しないんだ。
普段人族のヤクトは壁を飛んでやり過ごすなんてことをしないから。
あ。
壁が倒れる。
ドラゴンの目は赤い。透き通った赤さ。
またまた咆哮をあげる。
人族が操作するドラゴンだから、今こちらに利があるんだ。
騎士の一人が奇声を上げながらドラゴンに突撃してる。
さっきの矢でも通用しなかったのわかっただろうに。なんでそんな無茶なこと。
『リディア、耳を塞げ!』
耳を塞いだわたしと陛下の上に、もふさまがかぶさってくる。
耳を塞いでいるのに、ぐわんぐわんと体に音が響いてきて、キーンとなんか顎と頭に音が通った。
もふさまの重みがなくなる。目を開けると、もふさまが走って土竜に体当たりしていた。
超音波みたいな音?だったんだと思う。今まで存在していた家々が土の山になってる。騎士さんたちは地面に伏していて、耳から血が出ていた。
え、え?
横を見ると陛下の耳からも!
『地龍よ、攻撃をやめろ』
もふさまが言ったけど、土竜は咆哮を上げるだけ。
え? 地龍? 土竜じゃなくて? あれ、他ドラゴンと敵対していたのって地龍か。え、あれ、地龍と土竜は同じ? なんでわたし、鑑定で土竜って出たのに、他ドラゴンたちから聞いた敵対してる地龍と思い込んだんだろう? いや、そんな場合じゃない。
でもドラゴンは街を液状化して閉じ込めたり、翼をはためかせ人や建物を吹っ飛ばしたりはしなかった。街中を無造作に走り回り、傷つけたりも。
ただ簡単な土魔法で家を壊し、壁ができたらそれも壊して、音で攻撃しただけ。
それだけで……やっぱりドラゴンは街を跡形もなくしてしまうぐらいに圧倒的に強い。
タタタッと音がした。
走ってきたのは兄さまで、土竜に何かを投げた。
自分に向かってきたものをパクりとキャッチする土竜。赤いカケラがパラパラと土竜の口からこぼれた。
え? 食べなかったか??
「誇り高き竜よ。人族の思惑に乗るな!」
兄さまの凜とした声が響いた。目の色が暗い色に変わっていく……。
よかった、食べたみたい。
やっぱり赤き石より、赤き石により瘴気で暴走した魔物を仕留めると手に入る赤い魔石の方が効力が上なんだ。
そう、わたしは赤き石でいうことを聞かせているなら、赤い魔石で命令を上書きできないかと思ったのだ。鑑定したところ、土竜も自我はあり状態。体が支配されている?とイラッときていたから、効いたのかもしれないけど。
飛んできた剣をもふさまが払う。
もふさまに剣を投げた……頭にバンダナを巻いた茶髪野郎。
「おい、地龍、どうした? やってしまえ。ここにいる奴らみんなを……」
赤いバンダナ男が宙に飛ぶ。魔法に当てられたみたい。
出てきたと思ったらあっという間に戦闘不能になった男の首にアダムが膝で圧をかけていた。兄さまが駆け寄って、ロープでバンダナ男を縛った。
鑑定すると彼がヤクトだ。バッカス員。失敗を挽回するために、第一大陸制覇を夢見ているらしい。
鑑定でわかることは嬉しいけど、なんかがっくりくる。いや、鑑定にじゃないよね。彼個人の変な思い入れで迷惑行為をしてくることがね。
『地龍よ、正気になったか?』
『……聖なる大地の護り手か』
『そうだ』
『ここは……そうか。ドラゴンを育てる幼き人族がいると。その人族をやるから手を貸せと言われた』
『それで手を貸すことにしたのか?』
『いいや。嫌だと言った。呼び出しの供え物を食べたらこのザマだ』
呼び出しの供え物?
『では、お前はここを破壊する気はもうないのだな?』
もふさまが確かめる。
『イライラするからひと暴れしたい』
ヲイ。
『としたいところだが、大地の護り手が邪魔をするということか?』
『ああ、我の友がいるゆえに、我は友を守る』
『……空の護り手や守護者を呼ぶのか?』
『……呼んで欲しいのか?』
『いや、結構だ。……わかった手を引こう。呼び出した奴らはもらっていっていいか?』
『奴らということは、あの者だけではなかったか?』
『ああ、わらわらいたぞ』
と言ったとき、街の外から矢が降り注いできた。それは絶望的な本数で。
「風のカーテン!」
アダムも片手を出して、そこから光が迸る。
兄さまも火で矢を片っ端から燃やしていく。
『わ、我と護り手が話しているときに、邪魔をするなーーーーーっ』
すごい音量っていうか、また超音波みたいの。
耳を押さえると、みんなも耳を押さえて地面に伏していた。
あ、矢も落ちている。
土竜が足を一回鳴らすと、土がもぞもぞと生き物であるかのように動き出して、不気味さに固まっているうちに、軽装の人たちが山積みになっていった。みんな伸びてる。
『こいつらだ』
『全部か?』
土竜は鼻をヒクヒクさせて
『全員だ』
と言った。




