第1197話 ベクリーヌ滞在⑬緊急事態
兄さまが伝達魔法を飛ばした。
緊急事態だ。
カザエルとドラゴンが攻めてくる。
ここを拠点にしたいというのと、わたしのことも狙ってる。
人を集めた方がいいのか、被害が広がるのを防ぐのに、安全なところに逃した方がいいのか。
ハッシュの口ぶりだと、カザエルかカザエルの一部がバッカスって気がする。バッカス内ではわたしを捕まえると利点になるらしい。そう思ってしまうのは時期尚早?
アダムから返信が来た。
スパイはそのまま、他みんなで謁見室に来るようにとのこと。
兄さまとうなずきあって部屋を出る。もふさまのリュックの中のみんなとドラゴンちゃんたちも連れて行く。
廊下で守ってくれていた騎士さんに、謁見室に行くことを告げる。
わたしはドラゴンとカザエルへの対策を立てるのに呼ばれたと思った。もしくは決まっていて、それを伝えるために。
でも王さまは「調印を済ませよう」と言った。
え? ええ? このタイミングで?
神殿のことでいろいろとあり、4人組の中にスパイもいた。
だから王さまはアダムに尋ねたという、こんな国ではあるが、調印を結ぶ気はあるか?と。アダムはもちろんと言った。
グレナンとカザエルの本流が同じだったと知れたことは大きい。
それにグレナンの瘴気の研究結果を知識として知りたい。赤き石のこと、きっと詳しい。
覚悟を見せてくれたこともあり、第一大陸は間口を開くべきであり、全世界の情勢を知った方がいいと思う。変な利用をされないために。今回のこの調印がその一歩になれるなら、それほど嬉しいことはない。
けれど、今、ここはカザエルに狙われている。ドラゴンがやってくるかも知れない。そしてそれはわたしがいたからかもしれない。
それこそ、ベクリーヌ側から断られてもおかしくないところ。
それを、逃げるでもなく、対策を立てるでもなく、まず調印って……。
王の懐の深さに頭が下がる。
「わかりました。カードさん、お願いします」
アダムがうなずいて、カードさんを促す。
「調印より、安全な何かを……」
先に決めた方が良くない? やっぱりそう思ってしまって口を出すと遮られる。
「赤き石により意識をとらわれたドラゴンがいるのに、逃げ場があると?」
!
「捨て鉢になっているわけではない。我らは戦う。ここを守る。
でも其方らは客人だ。調印を終えてこの大陸を出てくれ」
陛下の覚悟を知る。わたしたちを無事に帰すために調印を急いでいるんだ。
そして、ここがこれからどうなるかはわからないけど、実績を作るため。
ベクリーヌ国が世界議会に承認された国であり、ユオブリアと友好を結んだ実績。
国を乗っ取られたとしても、調印を結んだのは乗っ取られる前の国。
世界から認められていた国があったこと、乗っ取る非道な国があったこと、それを歴史に残せる。せめてもそう知らしめるために。
民たちをどうにかしたい気持ちがまずあるだろうに。
そうだ、陛下はやることがある。でも他の人は……。
わたしは宰相であるアカさんに話しかける。
「アカさん、戦闘要員ではない人、高齢の方、女性、子供を集めてください。ノエル、無理のないところで、シュタイン領に転移で送って」
「わかった!」
「シュタイン嬢……」
「これくらいはいいですよね? 戦わない人は場所を移しても」
陛下は目を押さえた。
「すまぬな、頼めるか」
と言った。
アカさんが動く。
それを聞いたカードさんも動く。世界議会の転移の人に何かを持たせ耳打ちする。
陛下とアダムとカードさんは調印式を始める。
わたしは父さま、クジャクのおじいさまに伝達魔法を。
みんなもそれぞれ動いた。
ドラゴンとどう戦うか。
それもさ、ドラゴンは操られているわけでしょ? そのドラゴンを攻撃するのは嫌よね、やっぱり。
操られているのか、誰かの意識が乗っ取っているのかどっちだろう?
それってわかることなのかな?
瘴木から赤い石が取れる。それに核が入ると、完全に乗っ取れる魔石となるはず。
魔石となってない赤い石だと、いうことを聞きやすくなる、だったよね。
ってことは……。確かめないと。
忙しく指示を出しているアカさんに尋ねる。盗まれた赤き石は瘴木から取れたものか、魔石となったものかを。
そこまで知っているわたしに驚いたようだけど、アカさんは教えてくれた。
あれは瘴木から取ったものだと。
続けて魔の森に魔物は出るかを尋ねるともちろんと言われる。
赤き石を一つもらってもいいかと尋ねると、ちょっと変な顔だったけど頷いて、持ってくるように指示を出してくれた。
わたしはお礼を言って離れる。
「どうした、リディー」
わたしは兄さまに案を伝えてみた。
「なるほど。私がレオたちと行こうか」
わたしはお願いした。わたしは瘴気の多いここと相性が悪い。
リュックの中にお願いできるか聞いた。
小さなオッケーが聞こえる。
もふさまからリュックを外して、兄さまに預ける。
赤き石を持ってきてくれたので、それを受け取り兄さまは走り出した。
気をつけてと声をかける。
周りが騒がしくなってきた。
お年寄り、子供女性が集まってきている。
世界議会の騎士さんたちが誘導を始める。
ノエルが何人かを連れて転移した。そこには議会の転移の人も含まれていた。
一度その人もシュタイン領にいけば、次からはその人も戦力になる。
おじいさまがシュタイン領で待機していて、ノエルはおじいさまを連れてきてくれるはず。そしたら今度は3人が転移でシュタイン領に人を運べる。
そちらは任せよう。
攻めてくるドラゴンとどう戦うかだ。
……それにしてもカザエルにしては、やることが雑だな、と思う。
ってカザエルのことよく知らないけどさ。
だけど、聞いた限りだと計画性があって、とんでもないことをやってのけるからびびられていたわけで。
ただドラゴンを引き連れてって。いや、ドラゴンは脅威だけどさ。
たまたまわたしたちはハッシュからどういうことか聞けた。だからか?
そっか、何もわからず、わたしはハッシュに連れて行かれて、ここはドラゴンを引き連れたカザエルがきたら、向こうの圧勝となるか……。
筋道の立て方はあっぱれかもしれないけど、緻密ではないよね?
大雑把じゃない?
境界線は知らないけど、最初に思ったように、やっぱりカザエルじゃなくてはぐれバッカスじゃないの?
わたしを連れてきたら地位が上がるってバッカスっぽいもん。
それならわかる。カザエル民であることも確かなんだろうけど。
本来のカザエルみたいに、カザエルであることに誇りをもち、決死の覚悟のある人ではない気がする。
それがなんだって感じだけど。
心構えとして、敵がどんな奴なのか思い描いておくのは必要なことだと思うんだ。
うん、合ってる気がする。本当に心からカザエルに浸透している人なら、ここを乗っ取ることを「拠点としたいから」なんて言わないよね。使える魔の森のそばであり、「発祥の地とも言えるここを我が国とする」とかならわかるけど。
うん、ならずものだ。ならずものなら、やっつけても心の痛み方が違うから!
瘴気でまた頭がガンガンしてきた。このフラストレーションを晴らさせてもらおうじゃない。
ったく、いつまで人を引き合いに出してグダグダ言ってくんのよ、しつこいな。
わたしはいつになく交戦的になっていた。




