第1194話 ベクリーヌ滞在⑩雷
「面目ない」とカードさんが頭を下げる。
「いえ、土地勘のない地です。逃げ道は元々用意していたでしょうから。それでも7人捕まえていただき、感謝します」
そう。逃げ道が用意されていたようで混乱の中、神殿の長と副官に逃げられたのだ。
森に逃げ込んだと思われる、長くいられるわけがないからそのうち出てくるとは王やアカさんの意見。
民からも嫌われているから、協力者はいないはず、だから待っていれば自らでてくるだろうとのことだ。
神殿はそうでもなかったけど、その奥に建てた神官たちの住居は立派で、長の部屋は特に豪奢だった。神官長とルシオは呆れていた。
レオたちから聞いた通り、その奥の応接間3つに、城から徴収された人々が詰め込まれ、具合を悪くしていた。
わたしも瘴気でキツくなってきたので、部屋で休ませてもらうことに。
兄さまに部屋まで送ってもらい、今度はクモ1号に留守番をお願いして、仮部屋のルームでもふもふ軍団から神殿の調査をきくことにした。
まずは順番にすりすりしてもふもふを味わう。
ドラゴンちゃんたちが自分も自分もと身を捧げてくるので、大変至福な時となりました! もふさまはそういうとき混ざってはこないけど、わたしの足に足を乗せたり、お尻を乗せてきたりするので、そのあとずっと抱っこして撫でさせてもらう。
労うのに食べ物を出そうとして、既製品ばかりなことに気づく。第四大陸で食べ物放出しちゃったからな。その後作りだめする時間がなかったので、ウチにあった領地のお菓子やらストックしてある食べ物をとりあえず入れておいたんだった。
作りだめしたいなー。そんなことを思いながら、領地で売り出した菓子類を開けてテーブルの上に出す。みんなが手を出すと、ドラゴンちゃんたちもツンツンお菓子を突っついている。食べたいのかな?
『夜、ベッドの上でピカピカの板を数えてたぞ』
クイが教えてくれる。金版だろうな。わかりやすく私服をこやしていたのね。
『リーを引き込めばドラゴンも勝手についてくるってゲラゲラ笑ってた』
とアリが教えてくれる。
『主人さまがいるからリディアを連れてこられないだろうとは思ったけど、もし連れてこられたら助けられるように神殿に残ってたんだ』
レオたちは賢い! それに比べて神殿の神官たちは賢くなさそう。
「どうやってわたしを引き込むとか言ってた?」
撫でる手を休めると、もふさまが微かに動いて手に頭を当ててくる。
まだ撫でてほしいみたいだ。撫でるもいいけど、この白い毛の中に顔を埋めたい。
でもそうしたら「ヤメレ」ってなるんだろうな。
『神託があったといえば、喜んで従うはずだと言ってましたよ』
ベアは上品にお菓子を口へと運んだ。
やっぱり全てを「神託があった」で済まそうとしていたのね。
そんなのに喜ぶのは神官ぐらいだ。第一大陸の閉ざされた場所にいて(どれくらいいたのかは知らんけど)視野が狭くなっちゃったのかしら。
「クモ1号が騒いでるでち。ドアを叩いてるやつがいるって」
え?
兄さまたちならわたしが仮部屋に行ってると気づいているはずだから、ドア越しに話しかけるはず。それがないということはお城の人。それも応接間を通り越して、ピンポイントでわたしの部屋に?
「みんな……」
リュックの中に入ってという前に、テーブルの上のお菓子はきれいに平らげ、リュックの中に収まっていた。残されたドラゴンちゃんたちが、何がどうした!?という感じでみんなをテーブルの上から探してる。
「素早い! もしかしたら敵かもしれないから、気を引き締めていくよ。ドラゴンちゃんたちは安全なところにいるのよ。もしわたしに何かあったら、兄さまたちのところへ行ってね」
もふさまを抱きしめて、みんなごと元の部屋に戻る。
トントン、トントンとノックは続いていた。
「はい、どちらさまでしょう?」
ドア越しに問いかける。
「城の者です。昨日ドラゴンの質問にもお伺いしました」
ああ、あの時の。
……神殿からの侵入者がわたしの部屋に入ったのは、スパイがいたのだと思っている。あの時隣の応接間にいた質問に来た4人が怪しい。4人ともみんなか、そのうちの誰かが、わたしの部屋の情報を神殿の人に流したと思っている。
その当人がこのドアの向こうにいる。
「ああ、昨日の。どういったご用件でしょうか?」
「我らの王がお会いしたいと言っております。ご足労をおかけしますが、おいで願いませんでしょうか?」
さて、どうする?
「アオ、アリ、兄さまたちにこのことを知らしてくれる?」
小声で言うと、すぐに返事が返ってくる。
『わかった』
「ガッテン承知でち」
「開けるよ」
深呼吸をしてからドアを開ける。
目の前でにこやかに笑っていたのは、昨日本来は料理人だと言った人だ。
褐色の肌。髪は白く目の色は暗い色。
鑑定をかける。
ハッシュ 24歳 カザエル民
焦っている
カザエルか。元カザエルじゃなくて、カザエル。紛れ込んでいたということね。
何を焦っているんだろう?
わたしは申し訳なさそうな顔を作る。
「すみません、使節団といえどわたしは貴族で女性です。わたし一人で行動することは許されていません。他の使節団の者が戻りましたら、一緒に参ります」
そうドアを閉めようとすると、片足が滑り込んできた。
「足をどけていただけますか?」
「お嬢さん、手荒なことはしたくない。黙ってついてきてくれないかな?」
わたしの手にカチッと何かをはめる。魔力遮断の何かだ。
「クイ、雷を」
男は咄嗟に下がる。部屋に〝クイ〟という名の誰かがいると思ったんだろう。
ガガガガーンと音がした。ハッシュというカザエルの人は崩れ落ちる。
まだクイはリュックから出ていない。
小さな雷を落としたのは黄色いドラゴン。
「ピッカピカ!」
稲妻ちゃんは褒めてと言いたげにわたしの前に飛んできた。




