第1192話 ベクリーヌ滞在⑧睡眠
瘴気の森。字面だけで腰がひける。
わたしは部屋から飛んで領地にいることにした。
起きたドラゴンちゃんたちは、みんなと行くそうです。
アオも行きたいみたいなので、ルシオに託した。
兄さまは剣を振るうだろうからね。
もふさまには悪いけどわたしについてきてもらう。
ホコリ虫1号にまたお願いして、領地へ。
ちょうど朝ごはんの時間だ。
エリンとノエルに抱きつかれて、倒れそうになる。
ノエルは食事をしてから、時間で世界議会のカードさんと合流するようだ。
「リディー大丈夫ね?」
母さまとは夜中に別れたので、父さまから聞いているとは思うけど、心配をかけたみたい。
ご飯を食べるかって言われたんだけど、みんなは食べずに森に行ってるから悪い。もふさまにはご飯をたっぷり用意してもらうことにして、わたしはひと足さきに、ひと眠りすることに。1時間したら起こしてとタボさんにお願いして、自分のベッドにダイブ。
ふかふかだ。ハンナはわたしの不在時もいつも手入れをしてくれているんだろう。
一瞬グレナン、カザエル、神だか神に準ずるもののことを考えそうになったけど、今はとりあえず眠ろうと思って思考をシャットアウト!
いつの間にか眠りに落ちていた。
ん? ここどこ?
シュタイン領? 領地の家のそばだ。
小さなわたし。真っ黒の服を着ている。引き摺るような長いワンピース。サイズの合ってない大きなもの。
空ろな目。
「ねぇ、あなた、リディア・シュタインでしょう?」
小さなわたしはのろのろと振り返る。
体にあった黒い可愛いワンピースを着た、ピンク色の髪の女の子。
小さいアイリス嬢だ。
「お母さんが死んじゃったんでしょう?」
また一歩近づいてくる。
小さなわたしは怯え始める。
なぜ、近づくんだと。何をする気だと。
「悲しい?」
とアイリスは首を傾げ、笑みを浮かべて問いかけてくる。
「でも、全然だいじょーぶよ。あたしもお母さんいないの。お父さんもいなかった。新しくお父さんが今はできたけどね」
屈託なく少女は笑う。
「友達になろう! ね、お母さんなんかいなくたって、だいじょーぶだから」
何を言っているんだと小さなわたしは思ってる。
なんでそんなことを言われなくちゃいけないんだと思ってる。
出口がなくて渦巻いていた思いが、胸の中でゴーゴーと音を出していた。
母さまがいなくたって大丈夫ってなに?
大丈夫じゃない! 全然大丈夫じゃない!!!!!!!!!!
小さなわたしの中からでた何かが突風となり、草や花や木を割き、大地を抉る。
! 魔力の暴走。
「きゃーーーーーーーーーーーっ」
アイリス嬢の悲鳴。
「痛い! やめて!」
アイリス嬢が自分を庇って手を前に出すと、そこから魔力が出て、小さなわたしは後ろに吹っ飛ぶ。意識を失ったわたしからいくつもの色の風が出て取り巻き、わたしを上にあげていく。
「破!」
第三者の声がする。ちびアダム!
ロサと同じ明るい金髪に紫色の瞳。
手を前に突き出し、放出した魔でわたしを取り巻いていた色が消えた。
地面に落ちる前に、ちびアダムはわたしを捕まえる。
「おい、そっちは大丈夫か?」
「そっちって、あなた失礼ね!」
「助けてやったのに礼のひとつも言えない方が失礼だと思うけど?」
アイリス嬢は頬を膨らませて、ずんずんと歩いてくる。
「リディア嬢はどうしちゃったの?」
「魔力の暴走だ」
「魔力の、暴走?」
「おい聖女」
「聖女? 誰が?」
「お前、聖女だろ? さっき力を使った」
「何言ってるの? あたしは聖女なんかじゃないわ。それより、どうしたらリディア嬢は起きるの?」
「体が回復したら起きるだろ。あとはよろしく」
「ちょっと、待ってよ。あたしじゃ運べない。ねぇ、待って、あなたは誰?」
「名乗れる者ではない。親のしたことがどんな結果になったのか、気になっただけだから」
ちびアダムは暗い目でそう告げた。
『リディア、リディアよ』
ん? もふさま?
「もう1時間経った?」
『いや、何やら暗い色のもやに包まれていた。大丈夫か? 何があった?』
え? 飛び起きたけど、異常はない?
頬が冷たくて手をやると……涙?
『何があった?』
「え? わからない。悲しい夢でも見たのかな?」
『どうする?』
「え?」
『もうひと眠りするなら、再びもやが出たら起こしてやろう』
大きくあくびをする。
「そう? じゃあお願いして時間ギリギリまで眠る」
もふさまを抱きしめて目を閉じる。
そう、これこれ。こうしていれば、怖いことなんか何もない。
わたしは再び眠りについた。
今度はタボさんに起こされて、大きく伸びをした。
すっきりした。体から瘴気が抜けたって感じ。
やっぱりもふさま、最高。
時間を見れば、世界議会との約束の時間が近づいていた。
それに合わせて、みんなも帰ってきてるだろう。
服を着替え、身だしなみを整え、皆に挨拶をしてから仮部屋に。ホコリ虫1号に部屋に誰もいないかを聞いて、部屋へと戻る。
おお、瘴気。
そういえば4人の中の一人か、4人全員か、神殿と繋がっているのよね。それも確かめなくちゃ。
わたしが応接間に出ようとするとノックがあった。
兄さまだ。
「どうだった?」
「手応えがあったから、瘴気の木も堕神具のようなものだと思う」
アダムの魔法でも瘴気の木を傷つけることはできたそうだ。
あ、そっか。いつだったかダンジョンで見たあの不気味な赤い木を思い出す。
あれはシンシアダンジョン。あの木と同じものはかわからないけど、ダンジョンの木は火で燃やせた。
火でも燃やせるということは……兄さまの剣で切れたとしても、堕神具とは言い切れない? いや、兄さまは手応えを感じてる。
堕神の関与。カザエルは利用したのかされたのかわからないけれど、神が力を貸してきたんだ。
このことを世界議会にいうかは考え中で、今は神殿を裁くそうだ。
そうだね。彼らは自分のしたことと向き合うべきだ。




