第1190話 ベクリーヌ滞在⑥隠し事
ふっと王は口元を綻ばせた。
「策士よのう。友好を結ばないというならそうしてくれというところだが。やめない、全てを詳らかにするときた。それじゃあ言わないわけにはいくまい。
が、言えばただでさえ厳しい地で生きている民に、なんて言ってやればいいかわからぬ」
そう言って頭をガシガシとかいた。
一国の王にそういわせるほどの秘密って何!?
「リディア嬢、盗聴防止の魔具をよろしく」
わたしはその前にもふさまに目で尋ねる。
誰か聞いてる人はいないよね?と。
『少し離れたところに門番以外の人族がいる。でも人の耳では聞こえないだろう』
もふさまが教えてくれた。
わたしは頷いて、魔具を発動させる。
それをみてからアダムは問いかける。
「お答えください、何を要求されたのです?」
「最初は物資だった。国の繁栄を祈ってやるから見返りを寄越せとな」
ルシオから怒りが迸る。
祈りに見返りを要求するのは、おかしなことだものね。
そういった行動は、神官全ての人を侮辱することにもなるはずだ。
「この地では食料は貴重。他大陸より物価が高い。神殿の予算だけではなんともならなかったのだろう。だから融通してやった。それが良くなかったのだろう。
だんだん要求が大きくなり、目を瞑っていられなくなった。渋ると言われた。やっぱり全世界の嫌われ者だと」
全世界の嫌われ者?
アカさんが王の隣に寄り添い、肩に手をやる。
「我々の祖先はグレナンです」
ゴクっと誰かの喉がなる。
わたしたちは次の言葉を待った。
陛下とアカさんはわたしたちを食い入るように見ている。
「驚かないのですか?」
アカさんが言った。
「それは……祖先はグレナン民だと民にいうぞと脅されたということですか??」
「? 民にというより全世界に向けて言ってやると……」
わたしたちは顔を見合わせる。
「グレナンが滅びたのは200年前。国が第一大陸にあったことはわかっています。あの、なんて言っていいのかわかりませんが、第一大陸で生まれたすべての人がとは言いませんが、ほとんどがグレナンの子孫だと、言わずとも我々はそう思ってきました」
え?という顔をしている。
「我らがグレナン民と知っていた?」
「純粋なグレナンの血だけという方は少数かもしれないけれど、何かしら血縁関係はあると思います。第一大陸にその時あったのはグレナン国だけ。他大陸と貿易を始めた途端、伝心というスキルを羨み、怯えた国が乗り込んで虐殺した。そして全てを焼き払った。主に第三大陸と第六大陸の国が徒党を組んだんでしたね。
グレナン民の多くが命を失ったけれど、他大陸に逃げたもの、それから危険な森に逃げ込んだものもいた」
陛下とアカさんの顔は青白い。
「第三や第六は第二大陸よりは厳しい地だったものの、第一大陸よりは住みやすいところだった。第一大陸を乗っ取る目的でやってきた人々も、旨味がないことに気づきほとんどの者が制裁を下したことにして、元の大陸に戻っていった」
アダムはまるで見てきたことのように語る。
それにしてもなんて自分勝手なんだろう。
土地を奪えると思ったから、言いがかりをつけて乗っ取る。けれど、厳しすぎるこれなら、今までのところの方がマシと戻ったということだ。命を奪って土地をせしめておいて。酷いと思うけど、略奪というのはそういうものなのかもしれない。大なり小なりはあるだろうけど今まで繰り返されてきた。わたしたちは落ち着いてから生まれた世代に過ぎない。
「そんなことがあったから、第一大陸は再び閉ざされた。残った人々は恐らく前から第一大陸にいたグレナン民でしょう。よそ者が帰ったことに気づいた者が危険な森から住居を移した。
他大陸が侵略するために虐殺したことを知りながら、我らは止められなかった。そのことも含めて恥ずかしいことだと思っています。それゆえに、ベクリーヌ国が話したくないことはわざわざ言って回ろうとは思っていません。ですが、それは周知されていることです」
「神殿は周知されていることを知りながら、それに気づいていないベクリーヌをゆすっていたわけですね」
兄さまが痛ましい顔をした。
ひどい。人の弱みにつけこむなんて。
暗い目をして、あの研究好きの人はなんて言ったっけ?
そうだ〝悪夢を繰り返さないため〟。その悪夢とは……グレナン民虐殺。
彼らはグレナン民だとバレたら、また歴史は繰り返され、大虐殺が始まると思った。悪夢を繰り返すわけにはいかなかった。だから要求をのんできた……。
「我らはグレナンの子孫。なんとも思わぬのか?」
「伝心がスキルだとしたらそういうものもあるだろうと思います。似たようなスキルはありますしね」
そうか、第二大陸は魔の保有者が多くスキルも持っている。だからグレナンを脅威としなかった。だって隣の第二大陸の名は上がっていなかったから。隣なのに第二大陸の名があがらないから変だと思ったのだ。そう羨んだのは大地も厳しく、魔の保有者も少ない大陸の国ばかり。
「それにあれは瘴気の木からとった結晶を砕いて口にし、取り込んだ結果と聞いています。未開の森を絶えず研究していたこの地の民であり、瘴気の扱いがうまい、呪術師に劣らない瘴気の使い手がいる。それがグレナンという認識です。私たちユオブリアでは」
「なんていうことだ。他大陸に知られていたということか?
それなのに我らは隠し通さなければと思って、あいつらに屈していたというのか?」
「私は神官です。あの者たちは本日除籍いたします。目が届かず神官がとんでもないことをしていたこと、心よりお詫び申し上げます」
ルシオは片膝を床について、胸に手をやり頭を下げる。
王は許せないというより、状況に驚いているようだった。
「我が怒りを覚えるのはこの地の神官のみ。貴公とは違う。頭をあげてくれ。あいつらがこの地より去るなら何よりだ」
その言葉に並々ならない思いが感じられた。
そしてすくっと椅子から立ち上がる。
「この地は祝福なき地。受け継いできた故郷でもある。だから恵まれた地に住むものと話が合うとは思わなんだ。ゆえに他大陸と積極的に国交を結ばずにいた。その結果が、みくびられ、騙され、いいように搾取され続けていた!」
そして歩き出す。
「貴公らに見せたいものがある」
「……陛下」
アカさんが切なげに王を呼んだ。




