第1151話 オーランド滞在⑧なんでも壊す
「それは世界議会がお願いしていたんですよ」
カードさんの言葉に王さまの眉がピクッと反応。カードさんが助けてくれた。
「彼女は重要な証人となったことが幾度かありましてね。身に危険が及ぶこともありました。それで他国をまわる時はそういった魔具を身につけてくださいとお願いしたんです。
ただこの国は友好的に見えたので、何かあったときはとお願いしたのですが、違うところで作用したようですねぇ」
王女が顔を赤らめる。
恥ずべきことという自覚はあるみたいだ。
「カードさん、わたくし不安になってきました」
一人称を〝わたくし〟にするところがポイントね。
顎に手を添えてそっとため息をつく。
「どうされました、リディア嬢?」
カードさんは心配そうにしているけれど、好奇心の目。わたしのお芝居を楽しんでいる。
兄さまはちょっとハラハラしてて、イザークとアダムは静観してる。
もふさまやリュックの中のもふもふ軍団からは、〝やっつけちゃえ〟と檄が飛んできて、〝そうだそうだ〟の声も聞こえる。
「友好的であっても、獣憑きと呼ばれ、奴隷に落ちろと思われるんですもの。不快ですし、恐ろしいですわ。
元々、わたくしはドラゴンの赤ちゃんたちを連れて、他大陸にご挨拶に行くのは必要なことなのだろうか?と思っておりましたの」
「ええ、事前に挨拶にまわれば軋轢が起きにくいかと、世界議会が提案させてもらったことです」
ナイスアシスト!
「はい、ご協力しようと思ってきましたが、相手側から見下されたり、あらぬことを言われたりするぐらいなら、もう行かなくても……」
転移で他の大陸に渡れる旨みがあるから、おいしーんだけどね。
「令嬢、考え直していただけませんか?
第六大陸には来て、そこで辞めたとなったら、人々はあなたとオーランドで何かあったのだと思うでしょう」
そこまで言われて王さまはハッとしたようだ。
ドラゴンの赤ちゃんに懐かれているわたしが大陸行脚をしなくたって、本当のところ問題はない。ただ友好的ですよとするための、建前を本当っぽく見せるための行動なのだ。
だから途中でやめたってわたしは構わない。転移で他の大陸コンプリートしておきたいけど。ま、でも降って湧いた話だからおじゃんになるのなら、それはそれでいい。
だけど、他の大陸の小国、いちゃもんつけたがりはつけるだろうね。
それもやり始めて途中でやめたら、何かあったんだと思うだろうし。
他の大陸の人たちからオーランドだけじゃなく第六大陸全部バッシングしてくると思うよ。わたしはそれでも全然構わないから。
「む、娘のしたことを心より謝罪する」
王さまが片膝をつく。
悲鳴のような声があがる。
「お父さま!」
「お前も誠心誠意、謝りなさい!」
「わ、私は悪くないわ! 悪いのはキュアだわ!」
はー、もうどうしようもない王女さまだね。
「お前の顔なんか見たくないわ! 城から出ていきなさい!」
と、うわーんと泣き出した。
本当に同い年か!? これはいくらなんでも甘やかされすぎでは?
侍女たちがひたすらオロオロして、王女を慰めようとしている。
「リディア嬢、あの奴隷をどうなさっても構いません。それで王女のしたご無礼を許してくださいませんか? 何卒他の大陸にも……」
王さまからして、こうなの???
そりゃ王女がそう育ってもおかしくない。
侍従から鞭を渡された。
突き返そうとして。あれ、でも待てよ。
「こんなふうに追い出されたら、奴隷商人に安く買い叩かれるしかないわね」
ひっそりと交わされたそんな会話を耳が拾う。
「この子はこれからどうなりますか?」
わたしは王さまにキュアのことを尋ねた。
「王女がいらないと言っているので、城から出します。
ですから、シュタイン嬢が鞭でどれだけ打っても、蹴ったりしても構いません。好きなようになさってください」
「……では、わたしが連れて行ってもよろしいのですね?」
「え? あ、はい、構いませんが……」
「あなた、いらっしゃい」
わたしは自分の元に呼び寄せた。
「あなたの身元はわたしが引き継ぐことになりました。とりあえず、今はそれで我慢してください」
カードさんを見上げる。
「困らせてすみません、これからも他大陸に行きます」
そう告げればカードさんはニヤッとしてから表情を慌てて引き締めた。
「考え直してくださってありがとうございます、リディア嬢。始めたものを途中でやめたとなったら、それ相応の抗議が出るでしょうから。助かります」
ありがとうございます、カードさん。ナイスアシストです。
わたしたちは王族にさらっと挨拶をして広間を出た。
「キュアさん、こちらに家族は?」
「いません」
「そう。友達や親しい方とは連絡を取れる方法なんとか考えようと思います。
ごめんなさい。あなたを物のように扱ってしまって」
少女は激しく首を横に振った。
「このままここにあなたをおいておくと、あなたが辛い目に遭いそうな気がしたから。大陸も違くなってしまうけど、わたしと一緒に来てくれる?」
「連れて行っていただけるのですか!?」
うなだれたり、不安そうには見えず、いいことと捉えているよね?
「では、決まりね」
わたしは収納ポケットからクラッシャーくんを呼び出した。
クラッシャーくんはなんでも壊せる。
首輪にクラッシャーくんを近づけると、その首輪はカチッと音をさせ下に落ちた。
第六大陸とユオブリアは繋がったとしても、こことシュタイン家が繋がることはないだろう。
キュアは首に手をやって驚いている。
「行きましょう」
わたしは少女に手を差し伸べ、世界議会のスタッフの転移でこの国を後にした。
わたしを一度怒らせたことは、この国にとって醜聞になると思ったので口を閉ざすと踏んでいたんだけど、他国からの来賓が暴露したようで、「ドラゴンマスター、奴隷を救う」といった見出しで新聞に取り上げられていたのを後から知った。




