第1148話 オーランド滞在⑤陰口
まだ回るの? わたしこれ以上は目が回っちゃうよ。とアセアセしていたら、兄さまがスッと寄ってきて、わたしを抱きあげた。舞台の上でわたしを抱っこしたまま一回転くるっとして、そのまま礼をする。
退場しますの合図だったようで、もふさまの隣まで連れて行ってくれた。おろしてもらってホッとする。
「兄さま、ありがとう」
「どういたしまして」
兄さまは隣に座って、果物を取ってくれた。
もふさまにもお肉でも取ってこようかと尋ねたけど、もふさまはいらないと言う。珍しい!
ドラゴンの赤ちゃんは銀龍以外踊りを楽しんでいる。くるっと回った時に太っとい手だけで肩にガシッとしがみついて、遠心力を感じるのが楽しいみたい。はしゃいでる。
銀龍ちゃんにみんなのところに行って遊んでくればというと、首を伸ばし、ちょっとどうしようかなと悩んでから、飛び立った。イザークの頭の上に止まってる。
あはは、あそこじゃイザークが回ってもあんまり動かないよ。
赤ちゃんたちは、ずいぶんこちらのいうことがわかってきているようだ。
ピチャっと音がしてえ?と振り向いた時には、水がわたし目掛けて飛んできたところだった。そのままいけば頭から水を被りそうだったけれど、シールドによってつまずいて桶の水をわたしにかけそうになっていた首輪の少女が水をひっ被っていた。
「リディー」
『リディア!』
いや、わたしは大丈夫と手で止める。
「大丈夫ですか?」
少女は茫然自失となっている。
わたしはバックから出すフリでタオルを少女に差し出す。
少女は我に返ったようで、びしょ濡れのまま同じく水のこぼれた絨毯の上に土下座をして、額を打ちつけるようにした。
「申し訳ありません。お、お客さまに、なんてことを。な、なんとお詫びして良いか」
「いえ、わたしは水がかかっていませんし……」
「お客人に何をやっているのキュア!」
王女殿下だ。セイラ王女殿下が立ち上がってやってきて、鞭でキュアと呼んだ少女をビシバシと打った。
ええっ。
音が鳴るたびに、少女の身が大きく震える。
「王女さま、わたしはなんともありませんので!」
思わず言っていた。
セイラ王女は冷たい目でわたしを見る。頭から足の先まで。
王女はわたしから少女に目を移し、また鞭を鳴らせた。
「お前は、こんな簡単なこともできないの?」
わたしも身が縮こまる。
わたしの感情に呼応するようにもふさまがスッと身を起こしそばに来て、赤ちゃんたちもわたしを目指して飛んできた。
「セイラ、お客さまの前で何をしている!?」
王太子も飛んできた。
「お兄さま。キュアがお客人に失礼なことをしたので、仕置きをしたまでですわ」
「仕置きは後にしなさい。お客さまの前でやることではないだろう?」
ふんと王女はそっぽを向いた。
「すまなかったですね、大丈夫ですか?」
声をかけてもらったので、これ幸いとお願いする。
「この通り、わたしは水もかかっておりません。
王太子殿下、王女殿下にお願い申し上げます。どうか彼女に慈悲を」
わたしは胸に手をやり礼をした。
「でも不思議ですわ。水はなぜ令嬢にかからなかったのかしら? なぜ手を滑らせたはずのキュアが反対に濡れているのかしら?」
「わたしは素早くないので、防御魔法のようなものがかかっているんです。何かあった時はそれが跳ね返るように」
そう伝えれば大きく納得している。
「そんな魔法もあるのね。ユオブリアは進んでますこと」
実際はちょっと違うけど、詳しく語る必要はないだろう。
他の侍従たちが絨毯の水を拭き取り、少女もわたしに何度も頭を下げて出ていった。
あれ以上怒られないといいけど……。
それからも宴は続いたけれど、その時点で疲れてしまったし、せっかくわたしたちのために開いてくれたものなので、それからのステージも見て楽しんだフリはしていたが、早く部屋に戻りたくて仕方なかった。
何度かもふさまに付き合ってもらってご不浄に行った時、耳にした内容のせいでもある。
会場の扉の前ではガーシが控えていて、護衛付のトイレ行脚となる。
赤ちゃんたちは兄さまたちに見てもらった。
もふもふ軍団は申し訳ないけど、部屋にいてもらってる。ご飯をたんまり置いてきた。
息抜きに会場の外でダベるのはどこも同じなようだ。
タボさんに言語に置いて細かくお願いごとをしたので、言語はオーランド語とアナウンスが入る。
息抜きしている人たちはオーランド語で話していた。わたしに気づいた人もいたけど、言葉がわからないと思ったんだろう、そのまま続けている。
この宴に呼ばれたこの国の偉い人たちだろうね。
彼らはドラゴンを連れた行脚に思うところはなかったみたいだ。
ただ、その使節団があまりに若かったので、馬鹿にされたような気になっているみたい。みんな10代だからね。アダムなんかはかなりの切れ者だけど、ぱっと見ではそこまで掴めないし。
さて、その奥にいた女性たちの団体、わたしを見て愛想笑いをしているけれど、悪口勃発。
民族衣装が似合わない嘲笑は、その通りねと思った。でもあんたたちの国の人がこれを選んで渡して来たんだけどな、とは思った。
そして、なぜわたしが疎まれているのかの理由がわかった。
「ドラゴンに懐かれるなんて、本当におかしなことよね」
「絶対、獣憑きだわ。だからお仲間だと思って獣が寄ってくる」
「呪われて獣に変わったことがあるって話だったけど、元々獣憑きだったのよ、絶対!」
「あの国は獣憑きを奴隷にしないのね」
「奴隷を使節団として送り込んでくるなんて笑えるわ」
「でもあの獣憑きを得られれば他国からの脅威はなくなるでしょうね」
「だから第五王子はペットにしたいんじゃないの? いいアクセサリーになるわ」
オーランド語をわからないと侮られたもんだわ。
って、スキルが発達してなければ、きっとオーランド語までは勉強しないだろうから、わからなかったけどさ。
ドラゴンたちに懐かれたのは、わたしが獣憑きだからと思われていたのね。
2年前、呪われて猫になったと外国にも伝わっただろうから。
あれは呪われての一回ってことにしたけれど、わたしだけがドラゴンを懐かせることができたことと相まって、それはわたしが獣憑きだからに違いないってことになったのね。なるほど。それでわたしは格下に思われているのか。
聖歌を栄養にした子たちだから、わたしに懐いたんだと思ったけど、本当のところトカゲにもなれるから通じる何かがあるのかしら? うーむ、謎だ。
この国だと、獣憑きは奴隷にされるみたい。
あの褐色の肌の少女たちもそうなのかな?
あ、ドラゴンの赤ちゃんたちと一緒に積み込まれていた子供の奴隷の子。体は起こせるようになったみたいだけど、全然話さないと言っていた。……そうか獣憑きって可能性もあるのか。




