第1144話 オーランド滞在①王子と王女
最初は第六大陸のカナリーの大国・オーランドに来ることになった。
メンバーは。わたしともふさま。もふもふ軍団と精霊ちゃん。それからドラゴン赤ちゃんたち。人族はイザーク、アダム、兄さまだ。わたしの護衛のガーシとシモーネ。それと幾人かの騎士たち。ここはすでにミラーハウスがあるので、ノエルは来ていない。使節団としてはアダムが指揮をとり、イザーク、兄さま、わたしの名が入っている。お遣いさまであるもふさまと、赤ちゃんドラゴンたちはマストだ。
外国に赴いた際、アダムの立ち位置をどうするかは話し合いが持たれたのだが、王子殿下として外交スキルも身につけたアダムはありがたい存在。わたしの護衛だとか、ウチの執事の立場だと、何かあった時覆すのに発言権がない。それに身分が問題になってくる。ということで、対外的にアダムは期間限定の公爵家の養子となっているようだ。
世界議会までは王宮の転移担当の人に飛んでもらい、世界議会のフォルガード本部から、カナリー大陸のオーランドに飛んでもらった。
第六大陸もいくつかの国で成り立っていて、その中でオーランドが一番大きい。オーランド国は銀龍たちの住む火山からは離れている。
雪は降っていないけれど、道は凍っている。けれど今は他の大陸と同じく気温は5月ぐらいで変わりなく、相変わらず脳がバグる。
転移の場所から王宮のある街までは少し離れていて、そこを歩いていたら、赤ちゃんの気配を感じた銀龍と、他の龍たちが集まってきて、なんだかすごい景観になってしまったのだ!
でもみんな赤ちゃんたちを見に来たのはわかったので、そこまで怖くはなかった。
髪の中に入った銀龍ちゃんを捕まえて、お父さん龍とお母さん龍の鼻の前に出すと、銀龍ちゃんはおっかなびっくりという感じで、お父さんやお母さんの鼻を手で触った。
他のドラゴン赤ちゃんたちの方が飛び回って、気軽に他のドラゴンたちの肩や頭に止まったりして親睦を深めている。
「リディア・シュタイン嬢でいらっしゃいますか?」
同じ年ぐらいの子供の声がした。
振り返ると、男女の身なりのいい子供と、その後ろに騎士を連れていた。
案内役の人たちがさっと膝をついたからえらい人のご子息、ご息女なんだろう。
所作も綺麗だし、関係ないけど美少年に美少女だ。
ふたりともまばゆい金髪の巻き毛で、瞳は赤い。真紅というやつだ。
わたしの前にさっと移動したのは兄さまとアダム。
「ようこそ、わが国へ。サイモン・カンボソス・オーランドと申します」
王子殿下か、こちらが!
ドラゴンが集まってきていて、案内役の大人たちでさえ腰が引けているというのに、その輪の中に自分から入ってきたのはあっぱれだ。
アダム、兄さま、イザーク、わたしの護衛であるガーシとシモーネも膝を折って礼をとる。
他国の王族だもんね。わたしはカーテシーでいいのよね?
わたしが王子殿下に向けてカーテシーをしていると、赤ちゃんたちが何事かとわたしのところに戻ってきた。
「うわー、動いてる。ドラゴンの赤ちゃんだ。みんな、顔をあげて」
王子殿下はまっすぐにわたしを見ていた。
アダムに促され、使節団のトップではないけれど、最初に挨拶することにする。
「ユオブリア国、シュタイン伯が娘、リディア・シュタインが、オーランドの第五王子殿下にご挨拶申し上げます」
付け焼き刃で頭に入れてきた情報だ。第五王子と第二王女は歳が離れていて子供だとあった。子供だから、赤ちゃんドラゴンに純粋に興味があって迎えにきたのかもなとわたしは想像した。
アダムと兄さまとイザークが続けて挨拶をする。
兄さまはフランツ・シュタイン・ランディラカと元の名を名乗る。
先日、バイエルン家から本当に出てきた。家宝のことも、侯爵から辺境伯に爵位が下がることも本当にいいのかと確かめたけど、兄さまは意思を曲げなかった。
王子殿下はにこやかにみんなと挨拶してから、隣の美少女を促す。
「セイラ・カーメル・オーランドです」
第二王女とわたしは同い年だったはず。
けれど、すでに胸が大きい。女性らしい体つきだ。
薄めのひらひらのドレスは、体の線がよくわかった。
ふたりともわたしよりひとまわりは大きい。
王女殿下にご挨拶すると、彼女は顔を赤らめている。
アダムと兄さまを気に入ったようで、二人の手を取った。
え?
城に案内すると、無邪気に手を引っ張る。
ドンマイと気持ちを込めて、イザークの肩を叩くと、わたしにご愁傷さまと言った。
??
わたしはドラゴンたちに、もう行くねと声をかけた。
ドラゴンたちが大きな優しい目で瞬きして、空へと飛びたった。
すごい風が吹いて、ガーシに押さえ込まれる。
「ありがと」
お礼を言って、歩き出そうとすると、目の前で王子殿下から手を差し出されていた。
兄さま、連れて行かれているし、これで断ったら不敬にあたる。
わたしはエスコートを受けた。
普段からエスコートされることがあまりないので、妙に緊張する。
「本当にドラゴンマスターのようですね」
王子殿下はいたずらっ子のような笑みをわたしに向ける。
「まさか。たまたま懐いてくれただけです」
ドラゴンちゃんたちは、初めて見る王子殿下を興味深そうに見ている。
「ドラゴンに懐かれたことでいろいろ言われただろうけど、オーランドはだからって君が何かするとは思ってないから安心して。各大陸に回るのは、不安がったふりして君を利用しようとする小賢しい奴らを牽制するための布石、なんだろう?」
この子の言葉を鵜呑みにするわけではないけれど、オーランドは友好的に捉えてくれているみたいだ。
「ありがとうございます。本当は外国に来るのは不安に思うこともあります。けれど、恐ろしいまでの力を持ったドラゴンと一緒にいるのですから、怖がる気持ちもわかっています。わたしも守りたい大切な人たちがいるので、わたしのできることで、軋轢を少しでも埋められたらと思っています」
「しっかりした考えをお持ちだね、シュタイン嬢。それに共用語だけでなく、オーランド語も勉強したんだね。驚いた」
うへっ。オーランド語も混ぜていたのか。
わたしは曖昧に笑って見せた。
翻訳のスキルが育ってきたおかげで、ある程度どこの言葉でもついていけるようになっていたから、気づかなかった。
共用語は、世界議会が設定したもの。各大陸で言葉は違うから、一応基準がある。ほぼフォルガード語。だからこれはマスターすることができた。
国ごとに言語があり、その大陸の中で重きを置いている国の言葉が大陸の公共語となる。ツワイシプ大陸ではユオブリア語が第二大陸の公共語だ。第三大陸の公共語はフォルガード語。他の大陸でも似ていたりすることはあっても、言語はそれぞれに違う。
いつオーランド語を使われたんだろう?
あちらがわたしたちに聞かせたくない話を母国語で話した時に、わからないフリをしなくちゃ。世界共用語ではない、とか、他言語はどこの言葉とか、わたしがわかるように対策を立てなくちゃ。
わたしはお城に案内される道すがら、そんなことを考えていた。




