第1143話 囲まれた!
再び訪れた第六大陸カナリーで、わたしは多くのドラゴンに囲まれていた。
銀龍はもちろんのこと、絶対違う種族も混じっている。
銀龍はわかる。目当てである銀龍の赤ちゃんは、わたしの髪の中に逃げ込んでいる。興味はあるようで顔だけは出しているんだけどね。
わたしたちを招いた大国、オーランド国の案内をしてくれていたユンさんは「すごいですなー」と言いながら顔を引き攣らせていた。
同大陸にドラゴンの巣があるのは知っていたけれど、こんな街の近くに現れたのは初めてだそうだ。わたしたちはドラゴンたちはただ赤ちゃんに会いにきただけだからと、安心させた。
ダンジョンでアラ兄が取った父さまからのフォン。あれは受けて正解だった。
ダンジョンに出かけたメンバーは、王都のシュタイン家に遊びに来ていることになっている。ほら、空っぽダンジョンのことは言えないからさ。
何気にドロップのお土産品の出どころに、みんな苦悩していたらしい。ウチが前にダンジョンに行った時に得たものという触れ込みにしたようだ。だからウチこそ各家からお礼とすごい返礼品が来て、とんでもなくありがたいことになった。
自分たちで得たドロップ品なのにウチがお礼までもらうのはと当人たちに相談したところ、普通なら絶対行くことのできないダンジョンに行ける、その通行料だとでも思ってと。太っ腹!
話すを戻すと。父さまからの連絡というのは、王宮からの使者がウチに来て、ロサ、アダム、わたしを呼び出しているというものだった。あ、父さまも呼ばれていた。
で、慌ててダンジョンを出て、王都の家で父さまと合流して(ノエルの転移で王都の家に来たことにするそうだ)、お迎えの馬車に乗り込んだ。ドレスに着替えるのは時間がかかり過ぎるので、制服に着替えた。正装のひとつではあるからね。
陛下からの要件は……。
赤ちゃんドラゴンのことは世界中に伝わっていった。その懐かれているのが、神獣、聖獣からの加護を持つとされるわたしだと。
意見はいろいろあるようだけど、どこも公式とするとしょうがなくねー?としかならなかった。
なぜ赤ちゃんドラゴンが貴族の家に?って探っていけば、それは卵が子供の奴隷や紫龍の幼体と一緒にみつかり、どうやら立太子妨害を仕組まれたようだと聞こえてくる。
ドラゴンの卵が孵りにくい、赤ちゃんも育ちにくいとはドラゴンから聞いたこと。人族はそんなことは知らない。だからその含みはない。
国としては幼体が起きないように魔法をかけ、卵は生まれるまでにまだ時間があるからと、然るべき場所で保管をしていた。
で、それを聞いた人は、卵はもちろん盗んだものと思うわけだ。だってドラゴンがウチの卵です、どうぞ、なんて渡すわけないもんね。
とすると、ドラゴンは怒っているだろう。誰だって自分の卵が取られたら怒る。それもドラゴンと比べて話にならないほど弱っちぃ種族に取られたとなれば尚更だ。
取ったのがコイツだと思われれば、国ごと潰されるのが関の山。そう想像できるのだから、卵を置かれたユオブリアは卵を取った国ではない。だって持っていたら国は潰れるだろうから。
ユオブリアを無くそうと仕組まれたのだ。けれど、どの国と特定できないからユオブリアは言わないだけだ。
普通なら卵が孵り、その魔力に親が気づき国が滅ぼされるはずだった。
ところが奇跡が起こった。
ドラゴンの赤ちゃんが人族に懐く珍事が起こり、なぜかドラゴンたちが怒りもせず逆にわたしに服従しているような素振り。
ドラゴンたちから敵意を向けられたゾッとした場面もあったんですけどね。みんなはそれを知らないから、無条件に赤ちゃんに懐かれ、親たち、種族たちもわたしにいい感情を持って、さらに卵など見せに来ていると思われてる。ははは。
どのドラゴンさんも頼み事があるから低姿勢なだけで、服従とか絶対そんなことないからねって世界に向けて拡声器で言っておきたい。
そんなふうに想像すればある程度のバックグラウンドは見えてくる。
ここでわたしがドラゴンを使って何かをすれば、わたしがやったってバレるし。(しないけど!)
逆にドラゴンを操れる人がいたら、わたしとかその背後のユオブリアのしたことにできるってことよね。
ま、そういうことが見えているから、そうなってしまったものは仕方ないという趣きなんだけど、キャンキャン吠えるのは他大陸の小さな国だ。ドラゴンに何かされるんじゃないかと気が気じゃないみたいで。何を言い出すかわからない。
それを抑えるには先手必勝で、ドラゴン付きでわたしが大陸を周り、わたし&ユオブリアには敵意がないから他大陸にも行けるよと実績を作ることになったのだ。
そうじゃないと、そうさせないための人質の話が出てくるかもしれない。わたしが行けないというなら、わたしが大切にしている家族、だね。エリンとかノエルとかを結婚相手に連れて行けば、ドラゴンで潰そうなんてことは考えまいとか、頭悪い人がいかにもいいそうでしょ?
多分そんな動きがありそうだったんだと思う。それで至急、呼び出された。
とりあえずどこかに行って、敵意ありませんを実施することにした。
突っぱねることも難しくはなかったけれど、こちらにも思惑がある。
世界議会が仲介に入ってくれるので、それぞれの大陸に転移で連れていってもらうことができるというのだ。ノエルを一緒に連れていけば、今後はノエルに連れていってもらうことができちゃう。瘴気を捨てるのに、他の大陸でもミラーハウスを作りたかったから、それが本当にありがたいというわけ。
わたしが学生ということも考慮してもらって、他大陸に訪れ、泊まるのも大体1日。休息日を使って、訪問することになった。
敵意はないし、赤ちゃんを預かっているけど、それ以上にドラゴンに何かをさせたりはできないってことを、各大陸の大国に知らしめるのが、今回の行脚の目的だ。




