第1142話 ダメージの話(後編)
ルシオが弓矢をひく。本物の弓矢ではない。神力で作り上げた弓矢だ。ルシオのステータスにはケンタウロスの弓、というスキル名が出るらしい。
光の矢は大きな厳つい鹿もどきに当たる。ノエルもメテオで鹿たちの上から隕石を落としていった。その隙間を縫って荒ぶり走ってきた鹿を赤ちゃん5頭が迎えうつ。アオは赤ちゃんたちのフォローにまわってる。
ブラックちゃんが火を吹き、稲妻ちゃんは稲妻を落とす。
緑龍ちゃんは植物の蔦を這わせて敵を足止めし、銀龍ちゃんが吹雪をお見舞い。
クリスタルちゃんが氷漬けにした。
カチンコチンになった鹿をもふさまがキックすると粉々になった。
おーーー、倒せたね。
「姉さま、楽かも」
ノエルがいうとルシオも頷く。
「うん、聖力で攻撃してからだと、断然楽に倒せるよ」
赤ちゃんたちも、何を言ってるのかわからないけど、ホーホー、ミャァミャア、ミューミュー、くりゅくりゅ、ピカピカはしゃいでる。
わたしがルシオに聞いてから立てた仮説を話すと、ふたりは咀嚼してから、それあってるかも!と嬉しそうに言ってくれた。
やっぱり、そう思う?
世界の7分の6を失うかもしれない終焉案件。
世界を守る神獣、聖獣の目を潜り抜け、ユオブリアを滅ぼす。
ユオブリアはツワイシプ大陸の地のほとんどを占める大国。
そのユオブリアが滅ぶ。
ドラゴンに属するものの一番弱いとされる紫龍、それさえにもわたしたちは歯がたたなかった。最後、幼体が生きていたことを知り、幼体を連れて帰ることをあの紫龍が選んだから、わたしたちはユオブリアを失くさなかったのだ。
もしあの紫龍が戦い続けることを選んでいたなら、大きな損害が出ていただろう。そこに消える命だってあったはずだ。
人族が暴れたって世界を傷つけることにはそうそうならない。逆に言えば、終焉案件は人族以外の介入があるのだ。だから高位の魔物と対峙できるくらいわたしたちは強くなっておかなければならない。
人族以外、それは堕神が力を貸した何かである可能性が高い。
神の力が宿るものなら、聖力、神力で戦うことが多くなりそうだ。
聖力で神力を拡大させる、この使い方は効果をもたらすことになるだろう。
ルシオはノエルやわたしの戦っているところの注意点をくれた。全員でダンジョンに挑んでいると戦い方において発言するのは戦闘能力の高い人になりがちだ。
アダム、ロサ、ブライあたり。それにルシオはそういう場であんまり発言したりしないからなんだか新鮮だった。
わたしも僭越ながらルシオやノエルに思ったことを言ってみたりして、ノエルにはもっと敵の弱点をつくように言われた。
確かに。
お昼にはダンジョンに来た全員で一度集まった。セーフティールームに入るとホッとする。
知ってたけど、誰も怪我することなく……体力が有り余っている。
ご飯はみんなでいただくよ。
お弁当を作ってきたので、それを配る。
中におかずを仕込んだ爆弾おにぎりとあったかいベーコンと白菜のミルクスープ。野菜のホットサラダ。
食後には果実の寒天。固まるかどうかの瀬戸際まで攻めているから、フルフルだよ。
赤ちゃんたちはこの頃なんでも食べてみたがる。固形物はまだ消化が難しいみたいでリバースしちゃうけど、スープは食べられるし気に入っている。わたしのお椀に顔を突っ込んでくるので、そんな時のための大きなスープ皿にスープをよそう。パタパタと5頭が集まってきて、頭をつけ合わせて食べている。
横目でその様子を見ながら、大きいおにぎりにかぶりつく。
うん、塩味がサイコー。動いた後にこの塩加減がさらに美味しく感じるのよね。
しばらく夢中になって食べた。
もふさまやもふもふ軍団はお肉多目のチャーハンたっぷりだ。スープは一緒。お皿に頭を突っ込むようにして勢いよく食べている。
「そうだ、ベルゼが誰かわかった」
お弁当を食べていたみんな口が、一旦止まる。
手紙はすぐにみんなに見せた。ベルゼというのは誰なのか総力をあげて調べてくれると言っていた。
「ってアダムがいうからには、何者だったんだ?」
ダニエルが勢い込んで尋ねる。
「セインの12番目の亡くなったと言われてきた王女」
セインの王女?
ってことはあのバカ王子の妹!?
「12人も娘がいるのか?」
イザークはそこが気になったらしい。
「現在、公式では王女は14人、王子が16人」
「……それ、惻妃を合わせて、妃が何人いるの?」
「公式には23人。あと認められていない子やその親の女性がゴロゴロいるらしい」
「じゃあ、元々メルヴィル家に入ったのも、ユオブリアに紛れ込ませるためだったわけ?」
もうそこから?
「そこら辺はどうかな?
20年前ぐらいは王妃が、惻妃にいちゃもんをつけて惻妃と子供を何人か亡き者にしたそうだ。それで名乗りを上げなかったものが何人もいた。王妃の癇癪が落ち着いてから、ご落胤だとゴロゴロ出てきたようだ。
その頃、ベルゼ王女はメルヴィル家に連れて行かれた。渡りに船だったのかもな。
忘れ去られていたけれど、セインは衰退した。ユオブリアに恨みを持ちながら。そこでユオブリアの貴族の子供になった王女のことが思い出されたのかもしれない」
実際はどうかはわからないけど、ベルゼは数奇な運命を歩んできたと言えるだろう。
みんなが自分の想いにふけったとき、アラ兄が変な動きをした。
「父さまだ」
アラ兄は指輪型のフォンを鎖に通して首からかけていたようだ。
振動するようにしていたのかも。
「なんで持ってきたんだよ?」
ロビ兄が意見するとアラ兄は憤慨する。
「そうやって、リーもロビンも取らないから、オレが持たされたんじゃないか。絶対取るように言われてるんだ」
と、ロビ兄に噛みついた。
わたしとロビ兄は目が合い、首をすくめる。
だって、父さまって見ているのかと思うほど、一番盛り上がっているところでフォンを鳴らしてくるんだもの。取りたくもなくなるってものだ。
アラ兄、真面目だな。長男のサガってやつかな。




