第1140話 簡単に消されないで
ひよこちゃんへ
私の正体ぐらい、もう調べはついた?
いえ、さすがにまだかしらね。
だと思うから手がかりをあげる。
レベッカと呼ばれるようになる前は、ベルゼと呼ばれていた。
あなたは私に聞きたいことがあるんじゃないかしら?
あなたになら私の「理由」を話してあげてもいいわ。
知りたいのなら、追っていらっしゃい。
本当に大した14歳ね。してやられたわ。
あなたには気をつけるように言われていたけれど、それは周りが間抜けだからだと思っていた。恵まれた家に生まれて、愛されて育ったひよっこだもの、何もできない腑抜けたお嬢さまだと思ってたのよ。
でも、見事に潰してくれたわね、私の計画を。ユオブリアごと悪夢に沈めてやろうと思ったのに、まさかすでに懐柔しているドラゴンがいるとは思わなかった。
完敗だった。だからあなたにささやかな贈り物をあげる。
あなたに、あなたの敵を教えてあげる。
あなたはあなたを嫌うのはバッカスだかカザエルだと思っている。
それもある意味あっているけど、元々あなたに執着して、あなたを嫌う存在がいるの。
なぜ嫌われたのか、その理由は知らないわ。
でも、耳を傾けそうな人に力をあげまくっている。
私もその一人。いいえ、力をもらった人に組み込まれたの。
とにかくあなたを消すことに執念を燃やしているんですって。
何をしたらそんなに憎まれるのか、不思議になるくらいだわ。
北の聖域に行きなさい。
そうしたら、あなたを憎む存在と、どうして憎まれたか知ることができるでしょう。
簡単に消されたりしないでね。
あなたのことは私が踏みにじってあげるから、それまで無事でいなさい。
ベルゼ
何度読み返しても、じわじわと腹の立つ手紙だ。
それにユオブリアを守れたのは、わたしの力じゃない。
いくつかの種族のドラゴンと敵にならないよう少しは貢献できたけど、いつだってそんな危機に気づいたのは周りのみんなだ。
わたしを過大評価しているけれど、ここに記された教えは〝嘘〟ではないだろう。わたしを憎み、執着して、力を与えている存在が北の聖域にいることは……。
『リディア、みんなが揃ったようだぞ』
モフさまの声に驚きがてら時計を見た。
「ええ? まだ約束の15分も前よね? みんなどんだけ楽しみなの?」
シュタイン家の兄妹と、兄さま、ロサ、アダム、ダニエル、ブライ、イザーク、ルシオ。もふさまにもふもふ軍団、ドラゴン赤ちゃん’sで休息日は空っぽダンジョンアタックをしている。みんな忙しいはずなのに、だ。
ダンジョンはゲットできるものがあるのも楽しいし、もふさまや高位魔物であるレオたちと戦いを一緒にできることは、とてもためになることだそうだ。
王太子の儀で格段に魔力の増えたロサは特に、遠慮なく魔力を発散できることが有意義らしい。
というわけで新しい階層もどんどん突破して、135階を攻略中だ。
ロサたちが卒業してから2ヶ月が経った。
アラ兄とロビ兄は5年生、最上級生となり、わたしも無事4年生になれた。
アダムは学院を辞めた。
そしてなぜかわたしの護衛兼ウチの執事になった。終焉案件が終わるまでの期間限定だけど。お給料はそこもなぜか王宮から出ている。
ドラゴンの赤ちゃんたちが人目を憚らずわたしにくっつき、もう隠すことは諦めた。淋しがるんだもん。切ない声で鳴かれると、もう降参するしかない。
もちろん議会は沸き上がったようだ。シュタイン家が力を持ちすぎていると。わたしに懐いている5頭の赤ちゃん。わたしを守ろうとするだろうからね。国を潰せるというドラゴンの赤ちゃん5頭をわたしが手なづけているわけだもの。わたしやシュタイン家がよく思わない個人をドラゴンを使って潰すなんて簡単なことだというわけだ。
そこででた反対意見は、あの持ち込まれた卵。赤ちゃんたちが孵り、もしわたしに懐かなかった場合、親ドラゴンたちにプチッと国ごとされたわけだけど、それを望むのかと。
結果論ではあるけれど、赤ちゃんたちが育っているということは大きい。
それに人に広まるより前に、ドラゴンたちにその話は広まった。ドラゴン同士で卵を攫ったものがいたと注意喚起をしたときに、わたしの話がセットで流れたらしい。
まあ誰だって、攫われたんだって聞いたら、その後どうなったの?って興味持つよね。ドラゴンたちはもちろん答える。それが5つの卵が全て孵り、元気に暮らしていると。聖なる歌を糧として、生まれないドラゴン、そしてすぐに死んでしまうことが多い中、人族の娘に預けたドラゴンたちが元気に育っているのだと。
それを聞いた他種族のドラゴンたちは卵を持って、わたしの元を訪れた。
ある時は王都に。ある時は領地に。
ドラゴンが飛来すると、警鐘が鳴り響き町を守る城壁がせりあがった。
結界が張られるけれど、高位の魔物の頂点であるドラゴンには痛くも痒くもない。
降り立てるところに降りてきて、わたしを呼んだ。赤ちゃんドラゴンの気があるから、わたしの居場所は近くにくればわかるらしい。
ドラゴンたちは話があるわけだから何も壊さなかった。壊さないよう気をつけながらわたしの元にきて、産み落とされたばかりの卵を祝福してくれと言った。
よく聞いてみると卵に向けて、聖歌を歌ってほしいとのことだった。
歌が特別上手いわけではないので恥ずかしいが、切に願われて、わたしは歌った。
それから、ドラゴンたちが訪れるようになった。まだ小さな子とか卵を産みたい雌が来た時もあった。なんか願掛けに近くなっているけれど。歌うだけなので。
ドラゴンたちはお礼を持ってくる。鉱石が一番多いかな。金の塊とか。価値ある鉱石だとかだ。大したことはしてないからいらないって言ったんだけど、人族はこういうものを喜ぶはずだと譲らず、……諦めてありがたくいただくことにした。
珍しい鉱石は王室に献上したりした。面倒なことから守ってもらってるからね。
そう、国内は落ち着いたけれど、外国から「聖獣神獣からの加護があるだけでなく、ドラゴンを手なづけた人族など危なすぎる」と非難轟々だ。
赤ちゃんドラゴンを一頭でも差し出せとうるさい。もしくは、わたしがツワイシプ大陸だけでなく、他の大陸、国をまわるべきだと。
わたしは婚約していて助かったけれど、兄妹たちの縁談の量が半端ない。
そんな背景もあって、よりわたしの守りを固めるために、アダムが護衛になってくれた。王室からの要請で。
ドラゴンを引っ付けているから、わたしは目立つ。
父さまたちはわたしが目立てば、人の目に入りやすく、わたしが安全になると思ったみたいで、ドラゴンたちが急にやってくるのは未だに驚くけれど、良かったと思っているみたいだ。




