第114話 名も無いダンジョン⑤湧き水
わたしたちはアオを通してひよこちゃんと話し合った。
アオに危険だから人に各自にくっついているように言い含めてもらった。ブーブー文句がでたので、虫が来たら退治をお願いすることにする。それでなんとか納得してくれた。……コッコって喧嘩早いというか、闘争心が強いんだね。まだ生まれてそうたってないひよこちゃんに見えるのに。自分より何倍も大きい〝虫〟に向かっていき倒した。わたしより、強いかも。
そうしてまた湧き水を目指して歩き出した。この階にラッキーマウスちゃんがウヨウヨいるはずなんだけど、見かけない。マウスっていうぐらいだからネズミっぽいんだろうなと予想はしている。
石造りの通路を歩いていると、何だか単調で、ぼーっとしてくる。探索のおかげで危険はわかると油断しているのかも。わたしはそっと自分の手の甲をつねった。父さま抱っこでお昼寝したのにな。短かったのかな?
油断しちゃダメってわかっているのに、意識すると眠かったんだと気付いてしまい、歩いているのに眠れそうだ。
ダメだ。それはさすがにアカン。何か考えごとをしよう。
サブハウスは不思議だった。メインハウスと双子ハウスだ。サブハウスと森とダンジョン、これは〝どこ〟に存在しているんだろう? メインルームみたいにどこかの空間ってのもありそうじゃない? どこまで魔使いさんの魔力はすごいんだ。
ハウスさんとアオの違いも面白い。アオには実体があるのが一番不思議。
タボさんが習得したことはそのままわたしのスキルになるみたいだけれど、ハウスさんの〝仮想補佐網〟というのと〝創造〟はわたしのステータスに書かれているのに、こちらはハウスさんのマスターという域を出ないみたいだ。
一瞬、転移ができるようになるんじゃない?と思ったんだけど、少し考えてハウスさんたちが使っている転移は縛りのあるものだと気づいた。仮想領域にルームという空間があり、そこになら移動ができるだけだと思うのだ。だからどっかに転移させることができるわけでなく、ルーム間の移動なんだと思う。十分すごいけど。
空間なのか、ちゃんとした地上のどこか場所なのか、まず調べたいな。
そして攻略ノートのまんまなので入って進んできちゃっているけど。ここのこともよく考えなくちゃね。
ハウスさんのマスターになったとき、わたしのスキルにハウスさんの能力が追加された。わたしが使えるようになるわけではないけれど。先ほどわたしはアオのマスターにも容認されたみたいだけど、スキルにアオのことは追加されなかった。これもメインとサブの違いなのかな? よくわからない。
あの1階の砂糖は凄い。でも売ったら、どこでとってきたという話になる。それはまずいから、領地で育てて……。品質が良すぎて目立つよね。ってことは砂糖は売らないほうがいい。あ、あの極上の砂糖を使って作ったお菓子はおいしいんじゃないかな? だとしたら、加工したものを売ることに考えをシフトしておいた方がいい。何もないところから砂糖が現れるのはやっぱり変だから、小さい村で育てて欲しい。大きい村は米をメインにしていって……。砂糖を作っているカモフラージュがいるね。人が出入りしてたら、何育ててるんだってことになるよね。シュタイン領自体、人の出入りはないけれど、小さい村はモロールに近いから、気をつけないと……。
何も使ってない地はいっぱいあるから、お風呂とか作ってもいいかも。それで人が集まっているんですよというふうに。本当は温泉がいいけど、掘ったからって沸き出てくるわけでもないし。
そういうさ、休養地作るのどうよ? んーでも警備がしっかりしてないウチの領地に誰でも人を呼び込むのは危険か。でも、領地の人のためのそういう施設があってもいいんじゃない?
お風呂はみんな喜ぶよね? 魔石は幸いいっぱいあるし。設計士と付与師がいないのに魔具を作っているとバレないようにそこは考えないとだけど……。
鉱石もこのダンジョンあるんだ……だったら……。
「マス……」
父さまの胸にしがみついて寝ていたようだ。
「おはよう、お姫さま。眠くなったのなら、言って欲しかったぞ」
「急に倒れて、びっくりしたよ、リディー」
「アオが叫ばなかったら、完全に倒れてたよね」
「声に気付いてもふさまが、滑り込んでくれたんだよ、リーの下に」
「もふさま、アオ、ありがと」
ふわぁーーとあくびをすると、ひよひよ声が大きくなる。
「なんて言った?」
アオに尋ねると、アオは目を逸らした。
「なんて、言った?」
もう一度尋ねるとアオは渋々言った。
「あたしたちより赤ちゃんねって言ってるでち」
うーーーーー。ひよこに赤ちゃん呼ばわりされた。
みんな顔を背けて笑うのを我慢している。
ふと目を向けると、湧き水が流れている。
「湧き水?」
尋ねると頷いた。着いたんだ。危険はなさそうだし。
わたしはシートを広げた。
「本格的に寝るの?」
「違う! おやつ食べよう」
お昼を食べ損なったんだ。お腹が空いた。おやつというかわたしにはご飯だが。飲み物とおにぎりと揚げ物。それからパンの塊を出した。
ひよこちゃんには浅いお皿にお水と、パンの塊を砕いてお皿の上に置く。
みんなに爆弾おにぎりを配る。
「おいらもいいんでちか?」
アオが首を傾げたので、もちろん頷く。
やっぱり、食べられるんだな。あの部屋〝人〟用ではあったけど、板がいろんなところに設置されていた。不思議だったんだけど、アオが部屋を自由に使えるように板が渡してあったんだ。キッチンがあって、お皿が洗ってあったから、どうにかして〝もの〟を食べているんだと思ったんだ。ハウスさんのように魔力がエネルギーではないんだと。それともハウスさんも食べ物食べるのかな?
みんな嬉しそうにぱくつき出した。ひよこちゃんも。庭に時々放しておけば地面をつついて自分で食事を取るでしょうって言われた。だから庭にも放すし、部屋ではお皿にパンくずやお米を入れたものと水を用意して、いつでも食べられるようにしている。庭に放せば地面を突き、飽きれば部屋に帰ってきてもふさまの下に潜り込む。パンやお米も気まぐれに啄んでいた。ひよこちゃんたちは昨日1日ですっかり慣れたみたい、まだひよこなのに大したものだ。
「アオ、いつ、目覚めた?」
ご飯を食べながら尋ねると、アオは口の中いっぱいに頬張っていたものを慌てて飲み込んだ。
「メインさまと同じだと思うでち」
「アオ、サブルーム離れても、サブルームのことわかる?」
アオは頷いた。
「何かあったときはわかるでち」
「前のマスターは、このダンジョンの何階まで行ったの?」
ロビ兄が我慢しきれずに尋ねる。
「地下23階まで行ったでち。それ以上は魔物が強くなって危険だと判断したでち」
「23階かー」
ロビ兄が夢見る瞳になっている。
「お前たちに言っておく。子供だけでくるのは禁止だ。来るときは父さまの許しを得てから。それから新しい階には子供だけで行くのは禁止だ」
はーいとわたしたちは良い子の返事をしたが、もふさまが一緒でも子供だけはダメだからなと先回りされた。