第1124話 暴く①準備
ドラゴンの赤ちゃんは隠しておかなくてはいけない。
もう生まれていて、種族オッケーもらえているのは敵の切り札を覆せる案件だからね。バレたらまずい。こちらの隠し玉なのだから。
ゆえにドラゴンの赤ちゃんは外には出せない。
わたしは作戦に参加するために、玉に歌を込めている。
わたしの不在時に赤ちゃんたちがお腹を空かせても大丈夫なようにね。
玉に歌をこめながら、朝がた入ってきた情報を頭の中に叩き込む。
まずは第六夫人のこと。22、3歳だと思っていけど25歳だった。
10年前の15歳で婚約し王宮入りし、16歳で第六夫人に。
レベッカ・メルヴィルさま、メルヴィル侯爵家の末っ子のお嬢さまだ。
メルヴィル家は学者を多く輩出している。記憶力に優れていて、一度見るだけで覚えるという羨ましい能力をお持ちだそうだ。もちろんレベッカさまも。
メルヴィル家は学者として研究に没頭するのが好き。お金儲けのことはあまり考えていないみたい。ただその記憶力は重宝され、働き手に欲しいと絶えず思われている。メルヴィル家は侯爵の地位があるけれど、生活のことはこちらに任せて好きな研究に打ち込みたまえといわれたら、そうさせてくれる人のところに行きそうなところがある。それは国家の損失であると議会の総意。この国に留まらせるために王室と縁続きとなったようだ。
歳の離れたレベッカさまのお兄さまやお姉さまは、他の側室さまたちの少し下ぐらいのお年で、適齢期には女性の権力争いが凄かったからそんな話は出なかったようだ。
上の王子さまたちが少し大きくなられたところで、そんな話が持ち上がったらしい。ちょうど末のお嬢さまが婚約にいい年だということで。でもレベッカさまと陛下は結構離れているから、いくら王さまに嫁ぐといっても葛藤はあったんじゃないかな。って親からそうしなさいと言われたらそうしかできないのが現代の令嬢の基本ではあるけどさ。政略結婚なら家同士の利益に重きが置かれるから、本人の意向はあってないようなものだし。
陛下との仲は……普通だそうだ。
ちょうど嫁がれてきた時は、第三夫人と陛下が仲が良かった。アガサさまをみごもられ、寵愛は第四夫人へと。ハイドさまを見ごもられ、次は第五夫人へと移る。フローリアさまを見ごもられ、それから第六夫人への寵愛が始まる。一時期かなりべったりだったそうだけど、お子さまにはまだ恵まれていない。その遍歴にイラッとくる。
だって子どもを身ごもり大変な思いをしている時に、パートナーは気が移り他の人とイチャイチャなんてさ。あーヤダヤダ。側室さま方は心が海のように広いね。
第五夫人、フローリア王女のお母さまは、アグネスさま。ココン侯爵家の長女。ほわわんとした可愛らしい女性だけど、ダンスがとっても上手いそうだ。ココン家出身の方はみんなダンスが上手いみたい。陛下もそのダンスに魅了されたひとりだという。
おふたりともセインとの接点は今のところ見つかっていない。
それが覆されたのはお昼が過ぎてから。
発端はブライ。唐突に舞い込んだブライへの婚姻の打診。
お相手はダナ侯爵家。ルイーズ・ダナ令嬢。
わたしはブライをみくびっていたようだ。
演技、特に男女に関しては奥手なイメージがあり、ブライがオタオタしているところしか想像できなかったんだけど、彼は職務に忠実な人であり、そのレベルも高かったのである!
噛み砕いていうと、何が目的かを調べるために顔合わせまでを最短にし、お相手を引っ張り出してきた。
ブライの縁談相手の16歳のお嬢さまはツンツンした箱入り娘。学園にも通っておらず、家の中で蝶よ花よと育てられた長女。自分は美しく可愛く賢いということを知っていて、常に周りからもそう思われているのを知っている。
令嬢は憤慨していた。ダナ家ではいつも自分の意見が通るのに、今回はなんとかブライに気に入られろと一方的に言い含められたことに憤っていた。
最初からツンツンしていた。いや、ブライの言葉通りでいうとトゲトゲしていた。
ふたりになったとき、ブライはフツーにエスコートをした。
ブライは令嬢が話してくれないので会話が成り立たず、自分の生い立ちをひたすら話したようだ。
ブライがいつも背中を見ている相手、ジェイお兄さんのことを話した時、令嬢の心が動いた。令嬢はブライにお兄さんがいて羨ましいと言ったそうだ。
自分は長女として顔を立てられているけれど、兄弟たちが自分を心の中で馬鹿にしているのを知っている。威張り散らすしか能がないと。だからその通りにしてやっているんだと嗤った時に、ブライは令嬢の孤独を感じたという。
「第二王子殿下の側近を辞めたんですって? 喧嘩でもなさいましたの?」
話しすぎたと思ったのか、令嬢はブライに尋ねた。王子殿下と喧嘩するってどんな強者だよと思いつつ、ブライは話を合わせた。
自分の立ち位置を見直しているところだと無難に答えると、ルイーズ・ダナはブライの手を取った。
ルイーズ嬢はブライのことが気にいったようだ。
ダナ家はこの婚姻に乗り気だけど、自分はそうでもなかった。でも兄弟に馬鹿にされたり、殿下に馬鹿にされて悔しい気持ちはわかる。王室に固執することはない。エイウッド家の武力、そしてダナ家の人脈があれば、たとえユオブリアに何があっても道は開けると言ったそうだ。
ルイーズ嬢の我慢ならないポイントは〝馬鹿にされる〟ことのようで、ブライの兄をいつまでも追い越せないもどかしさとか、ロサと距離を置いたことを聞き、自分フィルターにかけてみて、ブライは兄からもロサからも馬鹿にされて嫌になっていると思ったらしかった。その勘違いを正すのは骨が折れそうだと思ったブライは話をそのまま続けた。
水を向け、さらに得た情報は……
・ダナ家と志を共にする家門はいくつもある
・ある方を慕っている。その人は自分を馬鹿にしない。女性と推測
・これからしばらく外国に行くことになっている
この特に外国に行くことになっているというのは、潰されるユオブリアから逃げるためだと思われるから、この婚姻はエイウッド家をより確かに王家から切り離すためにあがったものではないかと思われた。
それからセレクタ商会にも、これからよろしくといった手紙を届けたところ、お近づきになったご挨拶にと高価な品々が贈られてきたそうだ。
この時ダニエルは第六夫人とからかさちゃん、もとい、ロイター家の繋がりを調べていた。
そしてブライの報告により、ダナ家とロイター家が懇意にしている貴族の中に共通する伯爵をみつけた。それがウラジー・キリロフ伯爵。その子供はセインへと留学していた。現在、早急にキリロフ伯を調べているところだ。
ちなみにアダムはミューエ氏がメイダー伯の転落事故の何かしらに関わっていると睨み、詳細を調べていた。
ブレーンたちが立てた計画。まだ詳細をつかめてなかったから、エアな部分が多かった。わかってくると、パズルのようにエア空間にピースがはまっていくのは見事だった。