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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
3章 弱さと強さと冬ごもり
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第112話 名も無いダンジョン③アオ

「案内するでち。でもその前に。マスター、メインハウスから靴を移動させる許可をくださいでち」


 !

 メインハウスにあるものなら、サブハウスに物を移動させることもできるの?

 わたしは勢いよく何度もうなずいて見せた。


「それなら、それぞれの装備と、靴、コートも頼む」


 父さまが願いでる。


「メインさまをその度に通すのも大変でちから、みんなの仮想補佐と繋がってもいいでちか?」


 わたしたちは顔を見合わせて頷く。


「おいらはサブハウス管理人・アオでち。マザーチップの交換を要求するでち」


 わちゃわちゃ声がする。わたしが聞き取れたのはタボさんの声だ。


『マスター・リディアの仮想補佐のタボです。マザーチップの〝交換〟を願います』


 ガガガガガガガガガガガガーガガガガガガガガガガガガー

 恐らくそれぞれの仮想補佐がアオと繋ぎをとったのだろう。

 鳴り出した音は唐突に止み、一瞬目の前が揺らいだような気がした。


 さっきまでの引っ越してきた時と同じだった寂しげな玄関が、現メインハウスと〝同じ〟になっている。

 クローゼットを開けるとみんなのコート、手袋、マフラーもある。下駄箱には靴がある。

 おおーーーーーーー。家から家の移動なら、こんなこともできちゃうんだ。

 みんなコートを着て、マフラーをし、手袋をポッケにしまう。父さまの剣はクローゼットの奥から出てきた。

 

 身支度が終わるとアラ兄がひよこを抱き上げ、みんなも真似をして抱き上げる。ひよこたちはすぐに手から肩へと移った。肩乗りひよこですか、羨ましい。

 アオはひよこちゃんより2回りは大きいので、肩に乗ってもらうのは無理そうだ。もふさまとわたしが先頭になり、わたしたちはダンジョンに向かって歩き出した。


 枯れ草や枝を踏みしめて歩く。獣道よりは道になっているだろうけど、やはり歩きにくい。足の下で、ギュギュ、パキと音を立てた。


 父さまがアオごとわたしを抱き上げる。

 父さまの肩にいたひよこちゃんが、わたしの髪の中に入ってくる。首にピタッとくっついてきた。ふわふわ。あったか! ラッキーとわたしは思った。


 わたしが抱き上げられたことにより、みんなの歩く速度が上がる。ついたのはパックリ口を開けた洞窟の入り口だった。


「ここが、マスターが通っていたダンジョンでち」


「アオ、このダンジョン、入ったこと、ある?」


「あるでち」


「ラッキーマウス、いる?」


「……ラッキー……マウス……でちか? それは知らないでち」


「マスター以外の人にあったことある?」


 アラ兄が尋ねると、アオは首を横に振った。


「こちらでは中でも外でも、マスター以外の人を見たことないでち」


 わたしたちは顔を見合わせる。

 ということは300年くらい、誰も入っていない状態。魔物が溢れたりもあったかも。


「父さま、どうするの?」


 ロビ兄がワクワクを抑えきれない声で問う。


「主人さま、どうでしょうか?」


 父さまがもふさまにお伺いを立てる。


『我より強いものはそうそういない!』


 もふさまのドヤ顔だ。

 伝えると、伝える前から言ったことは想像ついたみたいだけど、ニヤッと笑って、気を抜かないようにみんなに言った。そしてアオにひよこちゃんたちに絶対離れないよう言ってくれとお願いした。

 もふさまが魔石を出してみんなに守護補佐を発動した。

 そしてライオンサイズになった。


『リディアはその青いのと一緒にいろ』


 もふさまに言われてわたしは頷く。

 父さまにおろしてもらい、しっかりとアオを抱え込んだ。ひよこちゃんは父さまの肩で前のめり。


 ん? と思って他のひよこちゃんたちを見ると、みんな前のめり。

 なんかダンジョンを楽しみにしているように見えるんだけど、気のせいだよね


「父さま、コッコって魔物?」


 父さまはふっと笑った。


「コッコは魔物じゃないぞ」


 そうだよね。


「さ、気を抜かずに行こう」


 隊列は、もふさま、父さま、双子、兄さま、わたし、アルノルトさんだ。広いところでは、双子と兄さまはわたしの左右にいくように指示が出る。




 入っていくときに少し暗めに見えたから、灯がないと厳しいんじゃないかと思ったけど、それは杞憂だった。5、6歩で、その先が明るくなっていることに気づいた。そこには攻略ノートに書いてあったのと同じ景色が広がっていた。


【麦のような穂が道の左右にどこまでも続いている。穂は真っ白な何かを包み込んでいて、その割れ目からは白さが溢れ、あたりをさらに明るくしていた】


 まっすぐに続く道、その左右に薄い枯れた色の麦のような植物が首を垂れている。重たい穂先は白い何かを包んでいてしなっているみたい。風に揺れ、包み合わせの割れ目から眩しい白が顔を出し、あたりを明るくしている。


 何なのだろう? 鑑定をかける。


マルサトウ:穂の中にある白いものはショ糖の結晶。甘味。食用。


「どうしよう」


「どうした、リー」


 わたしはぐりっと首を捻り、みんなを見る。


「これ、全部、砂糖」


「え?」


 ロビ兄が穂を捕まえて、穂先を手に取る。手の中にこぼれ落ちた白い粒を口の中に入れた。


「ロビン!」


 いくら鑑定で砂糖と出たからといって、いきなり躊躇いなく口に入れるのは危険すぎるだろうのアラ兄の呼びかけにも、何だ?という感じでわかっていない。


「甘い。今までの砂糖よりさらっとしてて、混じりけがない気がする」


 みんなも手を出し、わたしも手にこぼれた白い結晶を口に入れた。

 砂糖だ。ロビ兄の言うとおり、混じり気がない感じ。気のせいか甘味は強い気がする。


「これって、これだけでお金持ちになれちゃうね」


 呆然としたようにアラ兄が呟く。きび砂糖のような植物から砂糖を抽出するのも工程はなんだかんだあったはず。このマルサトウはそこまでを全部自分でやってくれちゃってるってこと? この穂の部分を収穫して、包んでいる穂を取れば……。穂は軽く握りしめると簡単に割れる。そして篩にかければ、砂糖だけが落ちるだろう。

 ショ糖から結晶化する作業がいらないわけだし、おいしい気がするし、今までの砂糖より、物価価値があるんじゃないだろうか。


「これ、小さい村、育つかな?」


 父さまがハッとする。


「まずは庭で育ててみましょうか」


 アルノルトさんが地面を短剣で掘り返し、根っこからマルサトウをいくつかとってくれた。わたしはそれをバッグに入れるフリをして収納ポケットに入れた。

 その間、みんなせっせと砂糖を集めていたようだ。袋にどっしり入っていた。それを渡され、それも収納する。


「あ」


 兄さまが小さく声を出したのでそちらを見ると、アルノルトさんが取ってくれたマルサトウの一角は土が見えた状態だったのに、もう何事もなかったかのように穂が揺れ復活している。ダンジョンの果物と同じだ。全部収穫しても、一定の時間が過ぎると元どおりになってたんだよね。


 ってことは砂糖取り放題!?

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