第1112話 Mother⑫ドラゴンの加護
『して、お前は複数の種族のドラゴンの赤子に懐かれているように見受けるが、それはなにゆえだ? そのうちひとつは我が種族と思えるが?』
「その通りです」
わたしはピカピカ言ってる稲妻ドラゴンの赤ちゃんを、スカートから剥がして手の上に乗せた。遊んでもらえたと赤ちゃんが喜ぶ。
「この子は稲妻ドラゴンの赤ちゃんです。
話は長くなりますが……。
少し前にわたしの友達の家が、ある者たちによって嵌められそうになっていることを知りました。その家の船荷に違法物を紛れさせたとのことでした。悪さをした人がいる証明をする時間がなかったので、わたしたちはその積荷をなんとかしようと思いました。船に忍び込むと、荷には子供の奴隷とドラゴンの幼体と卵があったのです。
幼体も卵も鑑定しても種族がわからず保護していたのですが、つい先日、卵が孵り、その時近くにいたのがわたしだったため、お預かりしていました。
そして卵が孵り、赤ちゃんの種族がわかりました。この子は稲妻ドラゴンと鑑定されております。
人族が大切な卵を攫ったようです。申し訳ありませんでした。人族がごめんなさい」
わたしは頭を下げる。
『頭を上げろ。
ガルゴに問う。その人族にひっついている赤子のひとつは銀龍ではないか?』
『その通りだ。この2頭がその赤子の親』
『なぜ、罰していない? それに赤子はこの娘にひっついたままだが?』
『赤子がその娘を〝親〟と思っていて、引き離せなかった。
今は赤子がもう少し大きくなるまで預かってもらう話がついている。
罰してないのは思うところがあるからだ』
あ、許されてはいないのね。そりゃそうか、卵をさらったんだもの。
『思うところ、とは、預ける必要があるからか?』
『違う、そうではない。我はそんな姑息な考えは持っておらぬ』
銀龍が憤ると、周りの気温が五度は下がった。うっ、寒い。
『預けることにしたのは、赤子が懐いているからというのもあるが、見てみろ、5頭とも元気いっぱいだ』
『……ああ、そうだな』
『ドラゴンは卵も生まれにくいし、その中で育っていくのも難しい』
卵も生まれにくいし、育つのも少ない、少数ってことか。
『そうだな。我が巣では生まれてからは一族みんなで育てていく。お前のところのように親を名乗らせ、任せたりはしない』
『それは種族により違うだろう。我が言いたいのは、赤子はこの者の聖歌により元気に育っているということだ』
『聖歌だと!?』
大きな声。空気が響く。
『娘、ドラゴンの赤子になんたることを!』
と多少短い手をこちらに出した。
そこに生まれる光の玉。
アダムと兄さまに庇われたわたしごと、もふさまがわたしたちを抱く。そのもふさまの前にレオがいて。
光が手のひらから離れた瞬間、わたしの胸から赤い光が出たと思ったら、前方に赤い光で描いたような魔法陣が現れ、そこから飛び出してきたのは赤い竜。
ホルク!?と思った時はホルクが稲妻ドラゴンから出された攻撃の光の玉を飲み込んでいた。
『英雄ホルクか?』
『生きておられたか!』
『どうやって現れたのだ!?』
稲妻ドラゴンたちがわさわさしてる。
『我はマルシェドラゴンのホルク。我が加護を与えし者に同ドラゴンからの攻撃、危機を感じ、馳せ参上した』
……ホルクだ。
みんなに庇いまくってもらったのにもかかわらず、足がガクガクしてる。
ひっついてる赤ちゃんたちが肩の上に乗ってきて、心配げに鳴いてくる。
兄さまとアダムが立たせてくれた。ふたりにも、もふさまにもレオにもお礼を言う。
「ホルク、ありがとう」
声をかけると、ホルクはチラッとわたしに目を走らせる。
『久方ぶりだな、リディアよ。いつ呼ばれるかと楽しみにしておったが、初めての呼び出しはドラゴンから攻撃を受けているとはな』
そう言って、稲妻ドラゴンの長マロンに向き合う。
『我の加護する者に攻撃するというなら、我が相手になろう』
ホルクがいい声でそう言ったとき、急に辺りが真っ白になった。
な、何事? 今度は一体何?
赤ちゃんの呑気な
「ピカピカー」
という鳴き声がイヤに反響する。
『我の領域で誇り高きドラゴン同士が喧嘩とは、なんの冗談だ?』
家一軒の大きさはあるドラゴンたちがさらに見上げるほどのどでかい真っ白のクジャク。いや、足元はブルー。
この大きさは初めてだけど、これは……
『フレデリカさま!?』
クジャクは下の方にいるわたしに視線を合わせる。
「微かだが人族の気配と、聖なる気。好ましい魔力の気配もあると思ったが、リディアではないか。
……お主はマルシェドラゴン……ホルクだったか? 英雄がこんなところで何をしておる?」
大きな大きなドラゴンたちは、借りてきた猫のようになり、おっきなクジャクの前にひれ伏す。
『我の庭である空の領域で何をしようとしておった? 4つの種族のドラゴンが!』
『空の守護者もあの人族の娘を知っているのですか?』
稲妻長のマロンがフレデリカさまに尋ねた。
『ああ、我が弟子とリディアは縁があってな。それにより我もマブダチじゃ』
マブダチって、わたしフレデリカさまとマブダチだったの?
っていうか、マブダチってこっちの言葉? 誰もわからないのでは?
みんながおとなしくなると、足元のブルーが下にさがっていく。ちょっとホッとする。