第1106話 Mother⑥翼
「あ、起きた」
ルシオが子供らしい、嬉しそうな声をあげた。
黒い子だ。真っ黒な子が目を開けた。
「ミャアーーー」
大勢に囲まれていたからか、不安そうな声。
その目がロサに止まり、手のひらの上のわたしを見た。
え?
翼あったの? 黒い子が小さな翼をパタパタ言わせて飛んでロサの手のひらに、もとい、わたしの横にきて、わたしに体を擦り寄せる。
これはこれでキュンとくるけど、わたしよりずっと大きいのよ。
あ、黄色の子が目を覚ました。やっぱり声をあげ、わたしをみつけると一目散にロサによじ登ってきた。次々と赤ちゃんたちが起きてきて、わたしを持ったロサに擦り寄ってくる。
「これはなんというか、嬉しいな」
「殿下、パス!」
イザークがそう言って、ロサにわたしをねだる。
わたしがイザークの手に渡ると、赤ちゃんたちもイザークに群がった。
イザークがくすぐったいと言いながら喜んでいる。貴重なショットではある。
みんなドラゴンからわちゃわちゃされたかったみたいで、わたしは、イザークからルシオ、ルシオからダニエル、最後にアダムへと引き渡された。
アダムは顔をわちゃわちゃされたかったらしく、わたしを頬に張りつかせるようにしたもんだから、顔周りが大変なことになった。
「銀龍ってどの子だろうね?」
ルシオが楽しそうに聞く。
「この煌めいてる子か白い子だろうね」
ダニエルの推測にわたしも頷いた。
赤ちゃんたちはとにかくわたしに触れていたがる。けどわたしの面積は赤ちゃんたちの3分の1だし、5頭につんつんされていると結構しんどい。
「もふさま」
支えがないままつんとされれば転がってしまうので、もふさまが横にゴロンとしたお腹のところに居させてもらう。
赤ちゃんたちが追いかけてきて、そんなわたしに群がる。
見ようによってはもふさまが5頭にお乳をあげているように見えるだろう。
わたしをつんつんしているんだけどね。
わたしが安定した体勢になると赤ちゃんたちも安心したようで、同じようにだらっと寝そべって、体のどこか一部をわたしに押し付けてくる。
つ、疲れる。
赤ちゃんたちが静かになったところで、みんなが卵が孵った経緯を聞きたがったので話して聞かせた。もふさまの通訳だけどね。
「へー、聖歌か。それは聞いてみたいな」
みんなはわたしが魔力を多いのを知っているから、赤ちゃんたちがわたしから魔力を吸い取っているとでも思っていたようだ。
「その姿の時は魔法が使えないんだったよね?」
ダニエルに言われてうなずく。
「そうか。だったら、そのスキル磨くといいかもね」
ダニエルが笑った。
「磨くって?」
わたしの代わりにルシオが聞いてくれた。
「攻撃の歌みたいなこともできるんじゃないかな、リディア嬢のスキルは特別だから」
「それはすごい! 魔法が使えない時でも歌で攻撃ができたら強みになる」
「防御もできそうだね」
「回復もできるようにしておくといいよ」
「確かに、魔法が使えなくても魔法と同じようなことができる手段があるって、かなり凄いことだ」
兄さまが重たく言った。
「リディー、せっかく変化しているうちに、スキルを磨いておこうね」
とにっこりと笑った。母さまを彷彿させる笑みだ。
みんなが帰ってから、特訓となってしまった。
もとよりレオは修行系大好き、もふさまも体育会系のところがある。
歌を歌えば赤ちゃんも喜ぶので、食べてる時と眠っている時を除き、わたしは歌を歌い続けた。
戦う歌って何さって思ったけど、まず思い浮かんだのが、前世で小さい頃CMで流れていたやつ。エナジードリンクの走りかな? 滋養強壮だとエナジードリンクは違うのか? ま、リーマンに向け、24時間戦えるか?とした応援ソングがあった。その商品名のところで強そうな魔法攻撃の名前を当てはめたらできちゃった。
トカゲの姿だからか、小さな火魔法だったけど。わたしはレオに向けて攻撃したんだけど、赤ちゃんたちがその火を食べてた。みんなで驚いたんだけど。喜んで食べに行くんだよね。別状はないみたいだから好きにさせておいた。
12月末にあるコンサートにもよく演奏される某歓びの歌。あれも攻撃名を入れて歌ったら、なかなかいい具合に魔法みたいに発動してた。
ってなふうに、気分で歌詞に魔法名を込めると、それらしきものが発動することがわかった。魔力が減らない。ってことは〝歌〟では魔力は使ってないってことだ。
今は赤ちゃんドラゴンが食べられるぐらいの魔法っぽい攻撃しかできないけど、これを高めることも可能なんじゃないかな?
歌で回復をすることが可能なら、エリア回復ができるってことになる。防御も攻撃もエリアでってことだ。……これがトカゲの時限定だったら笑うけど。
赤ちゃんたちがお腹を空かせてない時は無駄になるかと思って、玉に歌をこめてみた。玉はルームを使ってショウちゃんのところにいっぱいあるので、兄さまに持ってきてもらった。
歌という現象?になってしまっているから、込めるのは無理かなと思っていたのだけど、結果からいうと込めることができた。なぜだかはわからないんだけど。
ということで、都合のいいことに、わたしが眠っている時も赤ちゃんがお腹が空いても大丈夫な用意が整った。もし人型では聖歌が歌えなかった場合は、仕方ないから変化するしかない。
わたしがいない時の赤ちゃんのご飯問題も解決しておいてよかった。
陛下の判断は早かった。
明日の朝、クレゾール侯爵の転移で第六大陸に行くことが決まった。
ルームを作るのには魔法を使うから人型にならないといけない。
できるだけ歌を玉に込め、赤ちゃんはレオと誰か助っ人を寄越してくれるというので任せ、わたしは人型に戻り、多分眠ったままになると思うので、兄さまに連れて行ってもらうことにした。
第六大陸に行くのは、クレゾール侯爵、アダム、兄さま、わたし、もふさまだ。
クレゾール侯爵はまともな人だったようで、ローブに包まれたぐったりしたわたしを見て、死体を捨てに行く気では?と一悶着あったようだ。
陛下からの命がくだったことではあったけれど、若造と一緒にいたのが、お遣いさまと一緒にいるのだから、わたし。それもわたしは療養中と言われているが、一部では行方不明と話が出ていることもあり、ものすごく葛藤があったらしい。わたしが眠っているだけと聞いて、やっと納得したそうだ。
わたしが不治の病にでもかかり、わたしの加護の力で第六大陸にしかない何かでだけ治ることができるとでもいったシナリオでも描いていたようだとアダムが苦笑していた。なんかすみません。




