第11話 友達
本日投稿する2/3話目です。
「父さま、呪い、誰にでもかけられるの?」
「呪いをかけたい者の一部を手に入れて、媒体をその者に触れさせることができればな」
そういえば日本の昔から語り継がれている呪い話でも媒体が必要だったな。髪の毛とか爪とか。
『呪いにかけられたなら、媒体を持つ者と接触したはずだ』
「接触?」
「リディー、主人さまはなんと?」
「媒体を持つ者と接触したはずって」
接触したのか……。
「もふさま、呪い叶わないと気づく?」
『呪いが成就すれば媒体は壊れるという。媒体の状態でわかるだろうな』
「媒体他の人が壊す、呪った人に返る?」
父さまがハッとする。
『その通りだ。……お前は本当にへんな子供だな』
「へん?」
『子供らしくない考えだ』
まぁ、子供が思いついたら確かに嫌だな。わたしの場合、小説でそんな話を読んだことがあるだけだけど。
「母さま無事知る。きっと探りにくる」
「どういうこと?」
ロビ兄が首を傾げる。
「母さまを呪った。成功したら道具が壊れる。なかなか媒体の道具が壊れなかったら、おかしいと思って母さまの様子を確かめに来ると言ってるんだよ、リーは」
アラ兄が説明すると、ロビ兄に賢いぞと頭を撫でられた。
「だから、母さま、寝とく。すっごく具合悪くて寝とくことする」
「媒体が壊れないのは同じだよ?」
兄さまが具合悪いふりをしていても成就してないからわかってしまうだろうと危惧している。
わたしは頷いた。
「呪い成就しない。なんで?思う。調べなきゃ思う。でも最初、噂知りたがる。いきなり接触、危険しない」
「確かにそうだな。うちがどんな状態なのか探ろうとするだろう。うちを嗅ぎ回るやつを特定するんだな?」
わたしは父さまに頷いた。
「首謀者、突き詰めとく、大事。媒体もいる」
見かけが5歳児だからか、みんな微妙な顔だ。
「母さま、変な人と会った?」
「引っ越し前は挨拶でいろんな人きてたもんな」
双子が頷き合っている。時期としてもそこらへんで接触したっぽいよな。引っ越しの挨拶だったら母さまの例えば髪の毛一本服から払うふりして手に入れたり、触れることも目を引かなそうだ。
「母さまと父さまは呪った人に心当たりがあるんじゃないの?」
兄さまが言うと、ふたりは目を合わせた。
え、あるの?
「誰?」
父さまは顔をこわばらせた。
「確かではないから、先入観を持たない方がいいと思うんだ」
あの顔は、まだ言わないな。
「母さま聖水で回復しながら、父さま光持ちみつける。周りには具合悪いことする」
まとめると、みんなが頷いた。
「うちを嗅ぎ回る人はどうやってみつけるの?」
兄さまが父さまに尋ねる。
「町長に相談して」
「ダメ」
却下だ。
「どうして、リー? 町長さん怪しいの?」
アラ兄が不安顔だ。
「違う。大人巻き込む、大人しがらみ大変。だから子供協力いい」
ちょうど3人の子供と知り合ったし。
「子供?」
父さまが目を丸くする。
「子供ちょろちょろする、気にならない」
「でもな、危険があったら」
「聞き出すとか、何もしない。ただちょろちょろ、聞き耳立てるだけ」
そういうのは子供の方が向いていると思うんだ。大人は大人しか視界に入れないからね。
「みんな、母さまのためにありがとう。でも絶対に危険なことはしないで」
母さまが心配そうだ。
わたしは兄さまたちと目を合わせてから、しっかりと頷いて母さまを安心させた。
そうと決まったら兄さまたちと相談して、子供たちに協力してもらう算段を立てなくては!
『なぁ、お前はまだ魔力が通ってないのか? 属性はなんなのだ?』
「まだ通ってない」
もふさまは少し考えて言った。
『調べてやろうか?』
え?
「もふさま、水飲みたいって」
『我はそんなこと一言も』
椅子から飛び降りて、テーブルの上のもふさまに手を伸ばし抱え込む。
「煮沸したのを瓶に入れてあるわ」
「はーい」
もふさまを抱え込んだまま、キッチンに入る。ドアを閉めて、もふさまを椅子の上に下ろした。
「もふさま、調べられるの?」
『まぁな』
ふっと、もふさまは笑った。
「もふさま凄い、魔力にも詳しいんだ!」
もふさまの鼻が上にあがっている。
「ぜひ、お願いします。でも、まだ魔力通してない」
『我は凄いからな、魔力が通ってなくてもちゃんと見ればわかるんだ』
おおーー、それは本当に凄い!
『知られたくないのか?』
「光、期待してたら、がっかりさせる」
『……強気かと思えば、本当にへんな子供だ』
はいはい、へんな子供でいいですよ。
………………………………。
「あのね、もふさま」
『なんだ?』
「わたし、前世のこと思い出したの。ここでない世界で大人だった記憶ある」
もふさまの紺を奥にたたえた深緑の瞳にわたしが映る。
『そういうことか』
もふさまは何か合点がいったようだ。
『お前は、おもしろい子供だ』
もふさまはそれだけ言って、椅子の上から身を乗り出して、わたしの鼻に鼻を近づけた。匂いを嗅いでいるみたいだ。
そして額あたりもふんふんと匂いを嗅いで、わたしの額を舐めた。
「わかった?」
もふさまが八の字眉だ。
「属性、なかった?」
『いや、逆だ。全属性ある。それに魔力量も、のきなみ外れてバカ高い』
全属性? それはなんか凄いことなんではないでしょうか?
え? 全属性ってことは、光ある?
「もふさま、光ある?」
もふさまは頷いた。
『魔力が通って、光を扱えるようになれば、その魔力量ならいけそうだな』
「もふさま!」
わたしはもふさまを抱きしめた。
『な、なんだ暑苦しいぞ!』
「もふさま、ありがとう! これで母さま助けられる。聖域連れてってくれたのも、水浴び許してくれたのも、これも、全部全部、ありがとう!」
もふさまがいてくれなかったら、今わたしは笑っていられなかっただろう。
「もふさまのピンチの時、駆けつけるから!」
『ぴんちとはなんだ?』
「ええと。窮地には助けに行く!」
『赤子のお前がか?』
「そりゃ、ちっちゃいし、できること少ないけど、窮地には駆けつけるのが友達だから!」
『お前は、我の友達?』
あ、森の主人さまにおこがましいかな?
「もふさまはなんの見返りもなく、わたし助けてくれて、わたしの家族も助けた! 友達だよ、いや?」
もふさまはブルブルと首を振った。
『友達になってやる、リディア』
もふさまが初めて名前を呼んでくれた。
「仲良くしようね」
わたしはもう一度ぎゅーっともふもふを抱きしめた。