第1099話 駒にされた子供たち⑰出生図
総じて、わからないという結果が出た。もふもふたちのヒアリング終了。
ものの数分で、わたしのここにいる存在意義がなくなってしまった!
幼体も卵もどうするんだ、これ……。
もふさまの頭の上から並んだドラゴンたちを見て、こっそりため息を落とす。
「……奴隷の子たちはどうなったの?」
もふさまがアダムに通訳してくれた。
「何者かわからないから城に入れることはできない。神殿で手厚く介護を受けているはずだ」
「話はできたの?」
「衰弱からは脱したみたいだけど、怯えていて話せるような状態ではないみたいだ」
そっちもこれ以上進められないね。あとできることはなんだっけ?
「あ、スタンガンくんと、ガラットーニくんと、ロイター嬢は? 反応あった?」
「君の指示通り、ひとりずつ呼び出して、話が漏れているようだって僕たちが話し合っているのを聞かせた……」
問い詰めるのではなく、あえて聞かせるのがポイントだ。
そして「誰だ?」と鋭い声を上げる。
廊下で聞いてしまった子に「なんだ、君か」と瞳を和ませて。「聞いてしまったか?」と尋ねる。
3人とも「聞いてません」と答えたようだけど、それを無視して続ける。「聞いてないんならいいんだ。どうやら裏切り者がいるみたいだ。それをこれから確かめないとね。このことは他言無用だよ」
そう伝える。裏切り者だったら、バレたと焦るはず。そして指示を仰ぐはず。
そう見越していた。それで確証を得ようと思った。
ところが、そこで焦ったのはガラットーニくんただひとりだったそうだ。
彼は顔色を悪くしていた。そして他言無用と言われてコクっとうなずいたそうだけど、その30分後自首してきたそうだ。
「自首!?」
「第四夫人から家門を通して、試験に関係していることは全て報告するように言われたらしい。第四夫人から家門を通して言われたことには逆らえなかったって」
ガラットーニくんはここでリタイヤすると言ったそうだ。
わたしは誓約魔法をしたのに、報告をできたことが不思議だった。
そこを尋ねる。
誓約魔法。試験の内容について話したりすることはできない。話そうとすれば体に負荷がかかる、そんな誓約だ。だから直接、試験の〇〇を調べるためにこんなことをしたとは言えない。
それでとられたのが日記形式だそう。
書き留めるという方法で、なんのためにどうしたと書くのではなく、単に自分のしたことの軌跡を残した。その紙を自分の席の机の中に忘れて帰る。紙の回収はまた違う試験とは関係ない子を使っていたんだろう。
目的などを知っていて、それを読めば推測できる。
ガラットーニ家は星見を多く輩出する家門。幼い頃からネイタルチャートを読んできた。初め、試験のことを報告するのを嫌がったそうだけど、彼はあるネイタルチャートを渡された。それは彼が今までに見たことがない星周りだった。こんな星周りで生きていくことは可能なのか?と思ったらしい。
報告してくれたら、そのネイタルチャートが誰のものか教えるし、もっと面白いチャートも提供すると言われたそうだ。
王族からの依頼。断ることは難しい。生きている人のチャートだと思わなかったので、そそられたのも確か。他の面白いチャートというのも気にかかり、結局彼は第四夫人の依頼を受けた。でも、やましさから、推測しにくい書き方をしていたそうだ。
数日前、バンプー殿下がいなくなったとき。正しくはバンプー殿下が自分から乗り込んでいき、自ら軟禁状態になりに行ったとは知らなかったから、ものすごく怖くなった。それで、もう辞めるって言ったところ、その不思議なネイタルチャートの主を教えると言われる。
ちなみに、そうじゃないかなーと思ってたんだけど、そのネイタルチャートの持ち主はわたしだった。
そうして言ったそうだ。星見として尋ねよう。このネイタルチャートの主が生きる道を選ぶなら、それはどこだ?と。
彼は答えた。それは王家。
一般的に見て、わたしのネイタルチャートはとても変わっている。
生きていけるのが不思議なくらい薄幸に見えるようだ。
王族のネイタルチャートが出回ることはない。それは陛下と王族の星読みしか見ることのできないもの。
ただ王家のネイタルチャートに共通するのは強運。嵐のようなパワー。そのパワーで自分や周りを傷つけることが多い。
それを回避するためにやることは、ひとつ、名前に戒めを施す。
人が人生で一番聞く音は自分の名前だという。音は言霊となり、星周りを変えるパワーにもなるそうだ。
ひとつ、侍従や侍女、伴侶などの身近な者の星周りを加味して、星周りを均一に近づけるようにする。
王族ってのはぶっちゃけ、強運だけどその力を持て余し不幸になることが多いんだとか。だからわたしぐらい悲惨な星周りは王族とめっちゃ相性がいい。どちらのためにもなるそうだ。
第四夫人は試験のこと云々より、実はわたしの情報を得たかったのだと告白した。そしてさらに面白いといわれるネイタルチャートを見せてもらう。
2枚はアラ兄とロビ兄のもの。これが全く本人像と一致しないらしい。貴族の誕生日は隠されるから、近い日付でやるわけだけど。いくら正しい出生図でないといっても、そこまで外れるって珍しいそうだ。
そりゃそうだ。アラ兄とロビ兄は出生を偽っているから。
そして真ん中のわたしは、生きているのが不思議なくらいの薄幸さ。
そしてもっと不思議なのが下の双子。人としてあり得ないぐらいの力強さらしい。っていうか肉体が耐えられないはずの、災害のような凶星をいくつも持っているそうだ。彼はシュタイン家兄妹のネイタルチャートに興味を持ち、わたしたちを注視し、第四夫人のスパイを続けていた。
ガラットーニくんと第四夫人のことはリノさまに任せることにしたので、このことをリノさまに伝えてもらい、リノさまの思うところで裁いてもらうことにした。