第1098話 駒にされた子供たち⑯種族
もふさまが帰ってきた。
レオとアリ、精霊、クイも一緒だ。
「みんなおかえり!」
みんなに抱きついていく。みんなもハグを返してくれた。
「リディアは誰かに呪いをかけられたのか?」
トカゲになっていたから、そう思ったんだろう。
「いいえ、これは違うの。見つからないよう逃げるためにトカゲに変化したの」
トカゲになってからの安全な移動手段があれば、逃げるのになかなかいい方法だと気づいてしまった。パターン化しないといいんだけど。
トカゲのわたしは人の目に止まりにくくなるサイズになるだけで、パワーはないし魔法も使えない。収納袋も使えなくて弱っちいのだ。精霊の言葉がわかるという特典があるだけ。っていうか、なんでトカゲになると精霊の言葉がわかるんだろう。世の中のトカゲはみんな精霊の言葉がわかるのかな?
なんて考えが脱線していったので、頭を振る。
わたしはみんなが諜報活動してくれたおかげで、子供たちが無事でいることを伝え、お礼を言った。
「もふさまも、みんなを連れてきてくれてありがとう。
どこにいるかわからないから、大変だったでしょう。ミューエ邸にいたの?」
『いや』
「じゃあ、子供たちと学園に戻ってた?」
ダニエルたちが留置場に子供たちを引き取りに行ったはずだから。子供たちについて行ってたなら、学園にいただろう。
『いいや』
え? では?
『転移のじいのところにいたぞ』
もふさまが尻尾をパタンとする。
転移のじいってことはクジャクのおじいさま。
な、なんだってそんなところに?
「どうしてクジャクのおじいさまのところに?」
『コイツが子供たちを連れていく奴らを嫌がって』
〝コイツ〟とは精霊を指している。〝子供たちを連れていく奴ら〟とは騎士のこと?
『転移のじいの魔力の感じがしたから行ってみたら、ご馳走くれた!』
ミューエ邸は9区。クジャクのおじいさまの家と近い。それで魔力を辿れたのだろう。そこでご馳走になったのね。おじいさまとおばあさまはもふもふ軍団のことをご存知だからね。
『我も肉を馳走になった』
迎えに行った、もふさまにも! ああ、今は字が書けないからお礼の手紙が書けない。忘れないようにして、後でお礼を言わなくては。
「精霊ちゃんは、どうして騎士について行くのが嫌だったの?」
みんなとは言葉は通じないから、嫌ってそぶりをしたんだろうな。
『私を使役していたものと同じ匂いがする者がいた』
精霊ちゃんを使役したってバッカスよね? バッカスと同じ匂いの人が?
騎士に?
「それは怖かったね。もう大丈夫?」
尋ねたけど、精霊はダンマリだ。
玉の中で宙返りした。?? どうした!?
そのままわたしから視線を外し、玉の中でたゆんでいる。
……理由を答えてくれて十分だし、もう話したくなくなったってことかもしれない。
わたしは精霊ちゃんの言葉をみんなに伝え、その前のみんなの会話もアダムに通訳してもらった。
アダムは一瞬だけ表情を削ぎ落とした。
バッカスが入り込んでいる。ユオブリアの騎士の中に。それも王都のだ。
集会を扇動していた真の黒幕はバッカスだったのかな?
『アオと師匠はどうしたんだ?』
「アオはリノさま、ベアはクラリベルについてもらっているの。まだ不安要素があるからね」
『そうか。私たちを呼んでいると主人さまから聞いたけど?』
レオが小首を傾げてる。
あ、そうだった。
「みんな。特にレオ。幼体や卵を見て、どんなドラゴンの子かわかる?」
『ドラゴン?』
レオだけでなく、クイとアリも反応し、精霊ちゃんもチラッとこっちを見た気がする。
「リノさまの実家、セローリア家の荷に仕掛けるって言ってたのが、奴隷の子供と、ドラゴンの幼体と卵だったの」
その卵のひとつは第六大陸・カナリーのアトスラン山より持ち出された銀龍の卵だということも付け加える。
情の深い銀龍のお母さんは、近隣の街を破壊したようだとも。
『ぎ、銀龍!? そりゃまずいよ。相手が悪すぎる。破壊なんて可愛いもんだ。
もし身内が誰かにやられたとしたら徒党を組んできっちりお礼参りする奴らだ。
それに特に人族を嫌ってる。住処を追われたそうだから』
「住処を追われた?」
『銀龍は本当は真っ白のドラゴンだったんだって。最北の山の上、一年中氷で覆われていたところに住んでいた。女神さまからその氷で覆っているものを守るように言われていた。
それを人族がある王族の命令により、魔法で千年氷を溶かしたって。氷の山は溶けてしまった。陽の光を浴びたドラゴンは真っ白だった体が錆びたような色になり、それは女神さまから任務を果たせなかったと突き放された罰だと思っている。
陽の光を浴びて銀色に美しく輝くから銀龍って呼ばれるようになったって話だけど、奴らにとっては女神さまからの願いを守れなかった足枷のように思っている。
自分たちでも己を罰していて、冷たいところが好きなのに、火山に今は住んでいるんだ。だからいつもイライラしているし、人族も、自分たちの種族以外は大嫌いなんだ』
Oh,Noーーーーー!
詰んだ。その自分たちしか信じていない種族の卵がなくなり、ユオブリアにその卵があったら、もう完全に潰しにかかるよね。1頭だけでも国を全壊できそうなのに、徒党を組むって……。
めまいのする思いだ。
『……幼体に特徴があれば、わかるかもしれないな。けれど、卵は無理だ』
「そっか。できるならせめて、同種族に返してあげたいけど……」
幼体も卵も秘密基地内の体育館に置いているという。
特徴って……よく見てないからかもしれないけど、イグアナみたいにしか見えなかったな。
幼体を見てレオは一言。
『ごめん、わからない』
と即答した。
他の子たちも、じっくり見て、匂いを嗅いだりもしたけれど、わからないらしい。
だよね~。そんな都合良くいくわけない。
一応卵も見てもらったけど、やっぱりわからないとのことだ。
真っ黒の卵だけはブラックドラゴンかもしれないと言った。
アダムが眉を押さえた。
「ねえ、レオ。卵って温めなくても大丈夫なの?」
気になって聞いてみたら、温める種族もあるし、放置の種族もあるそうだ。
ちなみにシードラゴンは、海藻でゆりかごを作って、そこに入れておくらしい。。
銀龍の卵は雪の中に埋めるのかしら?
でも、今火山に住んでいるんじゃそんなはずないよね?