第1097話 駒にされた子供たち⑮親戚
ロサは城に着くと、目立たないようアダムと接触し、わたしたちを彼に預けた。
ダニエルを呼んで、これからの対策を立てるようだ。
わたしとさらに小さくなったモフさまはアダムに連れられて秘密基地に入った。
中にはアラ兄とロビ兄がいて、無事な姿を見て安心したと言って帰って行った。
さて。
ドラゴンの幼体と卵とご対面。
船で見たときは覗き込んだだけだったからな。
幼体はまだ眠っている。すぐこの閉じられた空間に運び込まれたから、ユオブリア特有の何かを感じて目を覚ますことはないはず。そして新たに眠らせるような魔法がかけられたそうだ。
卵も木箱に入ったまま置かれていた。
ドラゴンの卵っていったらもっと大きいんじゃないかと勝手に思っていたので、手のひらサイズの卵なんて不思議だ。鶏だってあの体に対しての卵を産むわけだし。インコの卵なんてほんとちっちゃいもの。ドラゴンの容姿からしたら、卵だって巨大サイズだと思うものじゃない?
銀龍のお母さんは街を壊すくらいパニックになっているのよね。
早く返してあげたい。けれど返すのもとても危険なことだろう。
だってお前が持ち去ったのかってなるもんね。
とりあえず、アオにフォンを入れ、レオに秘密基地に来てもらいたいことを伝える。アオは今はリノさまにひっついているようでお城にいた。公爵邸は総力をあげて、陥れようとしていた人たちが誰か調べていたようだ。
ミューエ邸に行き、子供たちについていたはずのアリと精霊、そして合流したクイの行方は実はわからない。屋敷にいるか、子供たちについて留置場に行ったか、その後学園へと移動したか。そこら辺を酌んで、もふさまにピックアップしてもらうことにした。わたしはお留守番。
集会はしばらく開かれないと思うのでクラリベルについているベアを回収するか迷ったけれど、カドハタ先輩の出方が気になるので、そのままついていてもらうことに。
公爵家を切り捨てると言った、ロクスバーク商会に来ていた怪しい人たち。公爵家は頭が硬いって話だったけど、どうしてそう判断したかが気になる。
今回のことで思ったんだけど、わたしがロサの側室になるって噂が出たら、セローリア家がわたしをどうにかすると思っていたんじゃないかな? 公爵さまは慎重にうちとその噂を調べた。それで思い通りになってないから、セローリア家を見限った?
もしレオとアオの諜報活動がなかったら、わたしたちは気づかなかった。結果、リノさまは怪我を負い、違法の子供の奴隷、そしてドラゴンの幼体と卵がセローリア家の積荷から出てくる。婚約は白紙に戻るだろうし、お家取り潰しとなっただろう。
そうなった後、どうするつもりだったんだろう?
実家が短気そうな新たな婚約者を出すつもりだったのかな? そして側室話を出して、公爵さまとは違って短気な実家にわたしを片付けさせる? そんな悠長っていうか。そこまで側室を引っ張ることはないし。引っ張るなら、正規の婚約者がいないんだもの、わたしを婚約者にするってなるよね。わたしに婚約者はいるし、そんなことにはならないけどさ。やっぱりズレがある。
ドラゴンの幼体や卵だって、親ドラゴンが暴れたらユオブリアは壊滅する。自分たちの住んでいるところを、祖国にそんなことする?
うーーーん、やっぱりやってることと、最終的な結末にズレがある気がする。
これは唆されてやっていることじゃないかって気がしてくる。
権力が欲しいという目的がある。そこをついて誘導される。でも差し出されているのはいつだって、わたしの窮地かユオブリアの破壊。
わたしを消すためにユオブリアごと破壊しようと思ってるわけじゃないわよね?
そんなバカな……。
でも逆なら? ユオブリアを破壊したい。けれどわたしも邪魔。なぜならわたしにはどこまで影響があるかわからないような聖獣と神獣の加護があるから。国をも守る力があるかもしれないから。
やだな。この仮定、一応当てはまるじゃない。ピッタリと。
「どうした、考え込んで?」
見上げると、アダムはニッと笑う。
もふさまもいないから、今は会話できないんだよね。
「みんなが戻るまで眠るか? 君のベッドをアランから預かっている」
わたしのベッド?
アダムがテーブルの上に置いたのはクッキーの空き箱を利用して作られた、トカゲ化したわたし用のベッドだった。母さまが敷布団と掛け布団を作ってくれて、エリンとハンナが飾り付けしてくれた、宝石つきのすごいベッド。
「君んちはほんとすごいね」
アダムはくすくす笑ってる。過保護だって言いたいんだよね? わたしもそう思う。
トカゲにさえ、こんなふかふかなお姫さまベッドを作ってくれてさ。
「今の君なら、ドラゴンと親戚みたいなものだろうけど、何か感じない?」
は?
アダムは何を言ったの?
わたしとドラゴンが親戚?
毛がないところは似てるかもね。でも大きさが全然違うじゃない!
「あれ? 怒ってる?」
わたしはテーブルに置かれた彼の手のそばまで行って振り返り、尻尾でぺちっと叩いてやった。
「もしかして、叩いてるの、今の?」
すっごい生暖かい目で見てる!!
この、このっ!
何度もペチペチと叩いてやった。ふんっ!
「ごめん、親戚にはなれないね。破壊力が違いすぎるね」
アダムはそう笑った。
ん? もしかして親戚とか言って、アダムはわたしに銀龍と話をつけさせるつもりだったとか? 確かにレオやホルクの言ってることはわかった。でもそれは人型でだったし。レオ、海の守り手さま、ホルクとしか竜とは話していないけど、トカゲだと精霊と話せたし、他のトカゲの言葉はわかった。もしかしてドラゴンとも通じるのかしら?