第1086話 駒にされた子供たち④現実逃避?
「リディアさまと話していたら、心が軽くなりました」
そういってくれて嬉しいけど、それは嘘でもないけれど、本当でもないだろう。
リノさまは少しハッとした表情になった。
「そういえば、リディアさまと私は敵対しているのですよね。今更ですけどお見舞いに来てくださってよかったんですか?」
背筋がピンとしている。弱い自分を見せてしまったと思っているのかもしれない。多少、浮上していたとしても心が弱っているのは変わりはない。
ただ、水を向けてくれたので、ここ何日かのダイジェストをリノさまに伝えた。
そして実は、利用された子供たちが誰なのか、利用しているのは誰なのかを見極めるために今日は仕掛けに来たんだと告白する。
「まぁ、そうでしたのね。それなのに、私ったら自分のことばかり話して申し訳ありません」
恥じたリノさまは、いつもと同じように見えた。わたしは慌てて言った。
「いえ、お見舞いに来たんです。お城に来られていい機会だったので、ちょっと仕掛けさせてもらいましたけど」
リノさまは微かに首を傾けた。
「でも不思議です。なぜ私たちの対立のことを第二夫人に相談したいなどと、妃殿下を絡めたのです?」
ああ、それか。
「例のロクスバーク商会からウチがエリンの縁談を断った件、そして巷で流れたわたしが側室入りするという噂の件、これは第四夫人がかかわっていると思うんです。
けれどこの噂が出たからといって、第四夫人かバンプー殿下の益になることが思いつかないんですよね」
「第四夫人が黒幕として……シュタイン家とセローリア家の仲が悪くなるだけですものね」
その通りなのだ。この噂を爆誕させたのが集会バックなら、わたしを嫌ってやることだから、回り回ってわたしやウチの評判が落ちるのを望んでいるのかと思うことができる。でも第四夫人の狙いは?
彼女はバンプー殿下を王太子にすることが一番の願いだと思う。
王太子になるのは婚約者がいることが条件。それでエリンを望んだところは百歩譲ってわかる。親戚すごいし、血筋はいいみたいだけど伯爵でいいんかい?とは思うけど。
でも〝エリンは断るはずだ。なぜならウチは姉妹の仲がよく姉と争わないため。姉は第一王子の側室を狙っているのだから〟となるのがわからない。
その噂のどこがバンプー殿下が王太子になるのに有利なことになるの?
だから第四夫人が噂を流した黒幕とは思わず、今まできたのだ。
「もしかして、騒ぎが大きくなってリディアさまが側室にならないと知らしめるために、エトワールさまが承諾すると思ったとか!」
え、そんな馬鹿な。
わたしとリノさまは顔を見合わせた。
そしてお互いに目を逸らす。
まさかねぇ。いくらなんでも。
「どう考えてもわからないので、自白してくれたらなって思ったんです。
思ったようにコトが運ぶと安心するけれど、意味のわからない要素が入ってくると筋道が見えなくて慌てるかと思ったんです。
第四夫人は、わたしとリノさまが例の噂に踊らされ、敵対していると思っている。一般的に考えて、リノさまは第二夫人派、ウチは第四夫人派枠に捉えられると思うんです」
「そうですわね。私は第二夫人の王子であるロサ殿下の婚約者。噂ではリディアさまが側室になられるのではと言われていますけれど、実際のところは第四夫人の王子であるバンプー殿下の婚約者にエトワールさまへ打診があり、お断りしたという事実があるだけ。第四夫人もそれはご存知のはず。
その噂の渦中であるリディアさまが、仲違いしているような私のお見舞いに来て、妃殿下とも合流するようなことがあったら……」
「「わたし(リディアさま)の側室話が動き出したのかと思う!!」」
わたしとリノさまの声が重なった。
もしわたしがロサの側室になるとしたら、エリンはその相手の兄弟に嫁ぐなんてことはあり得なくなる。
第四夫人はエリンをバンプー殿下の嫁にほしかったわけじゃないのかな?
だって、この噂はマイナスだけはあるけれど、どう行き着いても家からバンプー殿下の嫁が出ることはないもの。
どうしても公式で発表するまで秘めておきたい婚約者がいて、目くらましに噂を広げたかったんならわかるけどね。
「ロサ殿下にシュタイン家とセローリア家の後ろ盾ができると思ったら、第四夫人は焦るでしょうね。噂が現実味を帯びてきたら」
目を細めてそう推測した横顔は、いつもの冷静なリノさまだ。
「焦った第四夫人をどうされるつもりだったんですか?」
「出たとこ勝負です」
正直に言った。
「あの噂をどういう意図で流したのかそれを知りたいのと。
子供たちを利用したなら。見聞きしたことを報告させるならまだしも、もし騙していたら。嫌がらせをしようと思います。
なんて、わたしが特別何かをしなくてもこれからロクスバーク商会のことでお忙しくなると思いますけどね」
そういえば、ロクスバーク商会だけでなく、バンプー殿下のこともひとっことも出なかった。
「リディアさまのおっしゃることは本当ですね」
「え?」
「私、ガラットーニ子息と第四夫人の繋がりをはっきりさせるのにどうしたらいいか考えていたら、怖いのがどこかにいってしまいました」
いや、それは現実逃避ではないかなーと思ったんだけど、リノさまが嬉しそうにしているので、なんとなく言いそびれる。
「それに同感ですわ。私とリディアさまを仲違いさせるようなことをしたのはどうしてなのか知りたいし。
子供を騙して利用したならもってのほかですわ」
ちょっと頬が膨らんでいる。
「リディアさま、第四夫人のこと、私に任せてくださいませんか?」
リノさまの目の奥を探る。
「体調は大丈夫ですか?」
リノさまは力強くうなずいた。
「それではお任せします。実はとても助かります」
子供たちの繋がりと、どうしたいかを聞かなきゃいけないし。
やることは本当にいっぱいあるから。