第1078話 真っ直ぐな子供たち⑨見もの!(後編)
感情なく見つめていたグループは、唖然とした顔をしてお互い目を合わせてから眉を怒らせた。
なんていうか自分は完璧にやっているから、自分以外のところで誰かが手筈を間違えたと考えている傲慢さが見て取れる。
相手が悪かったね。次代のブレーンたちだから。そして知恵だけでなく、それを事実にする手段とやり遂げる行動力も備わっていたりするんだな。
アダムたちが敵でなくて本当によかった。
上に報告するつもりか、お互い睨み合いながら桟橋を戻り始めた。
すでにひとつ向こうの5と6船着の桟橋は混雑していた。騎士たちが船員に何かを見せながら突進している。
このグループは、セローリア家が陥れられるところを高みの見物決め込もうとしていた人たちだろう。騎士たちに気づいて足を早めた。
「副会長!」
気づいた船員さんは助けを求めるように、集団のトップに呼びかける。
「この船の責任者か?」
ジェイお兄さん! ブライのお兄さんだ。
いつもの優しい感じとは程遠い、威圧的な問いかけ。
「これはこれはユオブリアを守ってくださっている騎士の皆さま。ご苦労さまです。はい、ロクスバーク商会のこの船の責任者は私でございます」
「この船に違法物が積み込まれていると通報があった。よって、中をあらためる」
書状をジェイお兄さんが突き出す。
映像は一瞬だけ書状にクローズアップ。
判子みたいのも押してあったけど、どこのだろう?
こういう国の仕組みをよく知らないので騎士団が出すものか、他の機関から許可が降りたのかはわからない。ただ、そんなわたしでも超スピーディーに手続きが進められたのはわかる。
だって、ロクスバーク商会の船が隣にあったことに気づいたのも、コビー氏に聞いてから。そしてロクスバーク商会の船に荷を置いてきたわけだけど、その後に連絡したわけでしょ? 通報してからこんなすぐに事が運ぶものなの?
それに他の騎士たちは港に近い騎士団の詰所から来たと思うけど、ジェイお兄さんは王都から来たのだろう。港までどんな手段で来たんだろう? 転移門があるのかな。
「王室御用達の商会ですぞ、正気か?」
商会の副会長は見下した笑みを浮かべた。
「そういったことは一切関係ありません。民から通報があったのです。私たちはそれに応える義務があります」
「恐れ多くも第四夫人が懇意にしてくださっている商会です。そんな通報に踊らされて、笑い者になる覚悟はおありか? いや、第四夫人の顔に泥を塗るも同じ。あなたは騎士団長のご子息でしたな。親子共々、罰を受ける覚悟はおありか?」
「陛下が民たちの声を大切にするようにとおっしゃられました。その言葉に従うことがどうして夫人の顔に泥を塗ることになりましょう?」
ジェイお兄さんは鋭いまなざしのまま、口だけ微笑んでいる。
よくブライが兄貴は怖ぇんだよって言うけど、あれは本当のことなのかもしれない。ジェイお兄さんも敵じゃなくてよかった。
「副会長さま、違法物など我が商会は持っておりません。それを騎士の皆さまに確認していただくのも潔白の証明となります」
後ろに控えていた人がいいことを言った。
それもそうかと思ったのだろう。
「今日は積み荷が少ないです、よかったですね」
副会長は馬鹿にしたように笑う。
「後ろにあるのは商会の荷物ですか?」
「そうです」
「ご協力、感謝します」
挑発に乗ることなく、ジェイお兄さんは騎士たちの半分を船の中へと、自分はもう半分と残って、桟橋に置かれた荷を見て回るつもりのようだ。
身軽な人が木箱の上に登り、天井部分を外す。
「こちらは布です」
他の木箱にも騎士が登り、天井部分を外して中を見て報告している。
「こちらはガラスのような……」
「気をつけて扱え! 高いんだからな!」
副会長が吠える。
ガラスは高いもんね。ウッド商会の運び方は見たことがある。収納袋を進呈してからは、壊れ物はそれに入れて運んでいるから廃棄がなくなったと喜んでいた。この商会では壊れ物対策はどうしてるんだろう?
「ジェイさま!」
騎士の一人が鋭い声をあげた。
「どうした?」
「中を見てください」
ジェイお兄さんは呼ばれた木箱の上に上がり、眉根を寄せた。
「商会の関係者を一人残らず捕縛せよ!」
「な、何?」
「神官と医者を呼べ!」
船員たちがひったてられ、神官と医者を呼ぶためだろう、馬が走っていく。
何かがあったのは伝わるようで、みんながこちらを注目している。
「木箱を壊せ」
「はっ」
木箱が展開図のように解体され、中にピクリとも動かない首輪をつけた子供4人と、イグアナのような魔物が2頭。そして小さな木箱が5つが見えるようになった。
捕縛の指示が出ているし、なんか嫌なものを感じたんだろう。ざわざわが醜悪めいたものになる。
「なんだあれは? あれはうちの積み荷ではない! これは罠だ、ハメられたんだ!」
大正解! でも返しただけだよ、わたしたちは。
ロクスバーク商会の人、船員さんたちはお縄になった。
子供たちの首にあったのは隷属の首輪。つまるところ奴隷だ。
ユオブリアにも犯罪奴隷と借金奴隷がいる。借金奴隷は親が借金を返しきれないときに子供が自分の借金じゃないのに返す義務が生じてしまう。それを逆手にとって、自分は逃げて子供を置いていくとか。孤児の子供を自分の子供だと言い張って借金を負わせるとか、そういうひどい輩がいて、ユオブリアでは子供に借金を背負わせないという法律ができた。子供の奴隷からまずなくそうという動きがあったのだ。
彼らはどう見ても子供の奴隷。外国から連れてきている。
魔物は鑑定したところドラゴンの幼体2頭と、ドラゴンの卵5個だったそうだ。
その卵のひとつは第六大陸・カナリーのアトスラン山より持ち出された、銀龍の卵でないかと思われる。
ドラゴンの種族によっても性格がまた違うらしいんだけど、銀龍は親子の情が深いんだって。温めていただろう卵が目を離した隙になくなってパニックになり、アトスラン山の近くの国でものすごい被害となっているという情報を得ている。
これ、銀龍の卵だったら、ヤバイことになるのでは?
バタバタと商会の人たちが捕らえられ、ロードショーは終わり。
レオとアオのコンビからセローリア嬢とセローリア家に危機があると聞いて、急いで動いて、なんとかなった。ミッションクリアだ。
捕らえられたロクスバーク商会から、何か少しはわかることがあるだろう。
えっと、その前って何してたんだっけ?
ああ、そうだ。今は殿下たちの試験中で、集会についてわたしたちは調べていたのよね。
それでもって、バンプー殿下がひとりで集会にアタックし、その中のひとりに固執して訴えるべきだと唱えながらついて言った。それを迎えに言った2年生たちもミイラとりがミイラになって、訴えるまで僕たち帰らない!と居座っているんだっけ。
もうそろそろ本気で引き上げさせた方がいいと思う。
「こっちは片付いたから、そろそろバンプー殿下や2年生を迎えに行った方がいいんじゃない?」
わたしがいうと、みんな「あ、言ってなかった」という顔をした。
「えっと、殿下や2年生は……帰ってきてるよ」
「あ、そうなの? それならよかった」
「城の留置場にいる」
「留置場?」
わたしの声が無駄に響いた。