第1074話 真っ直ぐな子供たち⑤ロードショー(前編)
コビー氏の言葉に甘えることにした。
そう、荷がみつかれば難なくいくはずだった。
収納袋があれば大きいものでもなんとかなると思っていたのだ。
それがまさか命あるものだとは……。
最初は騎士団と馬車が来るまで、かくまってもらおうと思ったらしい。
けど、さらに都合がいいというか。考えてみたら、恐らく罠を用意した商会なのだろうから辻褄があうというか、当たり前というか。隣り合った5番の船がロクスバーク商会の船だった。
それもこちらもついたばかりで荷をおろしていない。
3番の船の出発所で荷をすり替えるか何かして、今ここで仕上げを見るためにきたんだろう。
レオがいつ聞いたかは正しくわからないけど、指示がある前からどこかで誰かを陥れるために、荷を運ばせていたのかもしれない。船便細工は最低でも(一番近い港から)3日前に仕込むことになるから。
あ、でもそんなこともないか。たとえば、違法のものを用意しておくつもりで船で運んできていて、元々は誰かに見つかることもなく運ばれ、そして改めて陥れる計画で使うつもりだったのかもしれない。
それが指令が降りた。時期がぴったりとあい、セローリア家の荷もあるというまるで奇跡のような偶然を好機と捉えたのかもしれない。船員を買収して、色テープに書かれた所有者の名前を書き換えればいいだけ。船から下ろすときになんらかのハプニングで中身が見えれば、密輸者の出来上がりだ。
本当の持ち主に荷を返すべきだと考えたアダムたちは、セローリア家の荷だった子供4人と、魔物2頭、それから5つの卵を、ロクスバーク商会の積荷の中に入れてきたそうだ。
子供たちにはロビ兄が持っていたポーションを体にかけて、水分を含ませた布で唇を湿らせた。そして騎士にロクスバーク商会が違法物を持ち込んでいると通報済み。
バッカス撲滅で顔がしれているエリンとノエルには眠ったわたしを任せて13番倉庫に。
真っ白の子犬はどこでウチのもふさま、お遣いさまと繋がってしまうかわからないから、ぬいぐるみまでのサイズになってもらって動いたそうだ。
ん、なんか外が騒がしい?
アダムともふさまとブライが見てくるという。
手伝ってくれたコビー氏は巻き込まれないかと心配だったけど、ロビ兄はウチとマグノリア家はお互い憎み合う存在と捉えられることはあっても、マグノリア家がウチ庇うような間柄とは間違っても思われないだろうと判断。
マグノリア家の令嬢を退園させたようなもんだもんね、ウチが。あの子もわたしの部屋に録画の魔具を取り付けたわけだし。違いに助け合うようには見えないだろう。
あの首輪のついた子供たちが心配だけど、すぐに騎士団にみつかるようにすると言っていたから、それを信じよう。保護されて手当てされることを。
と思ったら少しほっとできて、またまぶたが重たく……。
次に目が覚めた時、朝になっていた。王都の外れの家だった。ノエルが転移で兄さまを連れてきてくれて、人型に戻ることができていた。
正直、体の疲労感はまだ半端ないけれど、心配事が多かったので登園する。
なんて。ルームから木漏れ日の間のルームに移してもらっただけなんだけど。
昨日わたしたちは揃って授業を無断欠席したことになっている。
ロサ、ダニエル、イザーク、ルシオ、アラ兄組は褒賞会にて無事リノさまを助けた。例の試験で調べ物があり、そのメンツで城に来た。ロサが婚約者の姿をひとめ見ようとして褒賞会に赴き……ということになっている。
わたしたちは帰ってこないバンプー殿下のことを思うと授業どころではなく、ひたすら別棟にいたことになっている。からかさちゃんには、話せるようになった時点でこちらが連絡すると伝えていたのが、いい作用をもたらした。
敵がわたしたちが何かしてこんな結果になったのでは?と深読みされるかもしれないけど、授業を欠席していただけで、それ以上に掴めることはないはず。
本当だったらどんなことが起きたのか、話を聞き想像するのが当たり前のところだけど、みんなクラリベルの撮ってきた集会の映像に感化されたようで、各自録画の魔具とチップを買ってきたんだよね。売られているものは固定して置くのが前提だ。持ってきてウチの魔具みたいにして欲しいっていうから、それぞれの魔具にプラスしてみた。そしたらリノさまの方はダニエルとアラ兄が、港くみの方はアダムが映像を録画してくれてたの!
それで、木漏れ日の間でそれぞれの働きをロードショーを観て確認しようとしゃれ込むことになった。聖樹さまもこういう情報お好きみたいだし。聖樹さまのおかげでわたしたち動けたし。
木漏れ日の間なので、兄さまも来ている。兄さまは元学園生なので聖樹さまが特別に許してくれた。
最初はダニエルが撮ってくれたリノさま組の方だ。
「ロサ、裏から回れ!」
ダニエルの切羽詰った声から映像は始まった。
こんな場所は始めて見る。開放的に外で式典をやったりするのね。二枚貝の片方のような形の会場で、殻頂に向かったゆるい階段で成り立っている。楕円形で殻頂が一番高く、そこがスポット的な狭いステージとなるようだ。
わたしは今まで部屋の中でしか録画されたものしか見たことがない。
そう、外での録画は初めてだ。
わたしのプラスしたカメラワークのプロフェッショナルモードは、空からの視点もあるものだから、会場全体が見渡せたりして、至れり尽せりだった。
そういえば王宮を録画しちゃまずいんじゃないかと疑問を口にすると、この試験が始まる時に、全体的な注意として、証拠を得るため録画の魔具を使用すると記載したという。だから織り込み済みという認識だと。陛下からのオッケーは聞こえてないけど、先に知らせてるからいいという感覚らしい。
ステージの上には第二夫人とリノさまがいらした。
その少し下に司会かな? お手伝いの侍女たちがその下に控えている。
第二夫人はマーメイドラインの深緑のドレスを着てらして、リノさまは晴れた日の空のような水色のドレスだ。