第1070話 真っ直ぐな子供たち①年長組
バンプー殿下たちが戻ってきたら伝達魔法で教えてと言っておいたのだけど、朝になっても青い鳥はやってこなかった。
登園すると2年生メンバー全員帰ってきていないことを知る。
殿下が自主軟禁状態っぽいから問題なく帰される、そんなふうに大丈夫かと思ったんだけど、捕まっちゃったの?と血の気がひくぐらいに驚いた。
けれど、2年生からロサ宛に「納得いくまで向き合うので、すぐには帰れなくなった。殿下も自分たちも無事」という伝達魔法が夜遅くに届いたそうだ。
彼らにはわからないように護衛もつけていて、害が及ぶようなことはないと聞いてほっとする。
納得いくまで向き合うとは何事かと思ったんだけど、護衛の人たちが忍び込んで、切れ切れに得た情報から推測すると……。
バンプー殿下はその家にいる人物の親の汚名を返上させたいと思っている。そう説得したいので帰らない。
もちろん大きなお世話だ、出ていけと言われているようだけど、それをきくような殿下じゃない。
普通ならこんな押しかけが来た場合、腕っぷしの強い人に追い出してもらったり、衛兵を呼んだりという処置をとるはずだけど、そうはできなかった。推測の推測だけど、事情を説明するだけで何が起こるかわからない際どいことだし、相手は王族だし、集会で発表しているのは公けにしたくないからなど、あちらは問題を抱えている。だからそういう手が使えず、放置プレイしていたんだと思う。
そこに迎えが来た。どうぞどうぞという感じだったらしいけど、殿下とお迎えメンバーたちの言い合いになる。そしてどうやらお迎えメンバーたちは、ミイラ取りがミイラになったようだ。そう、殿下に丸め込まれ、メンバーたちもそれは訴えて汚名返上するべきだ、手伝うと張り切っているそうだ。
「ど、どうするの?」
そう報告を受けて、朝一番に集まった木漏れ日の間で思わず尋ねてしまった。
「アハハ、バンプー殿下が帰らないとごねるのはあるかなと思ったけど、同調するは想定外だったな」
なんかわたし以外は弟の成長を頼もしく思う兄みたいな顔になっている。
いや、そうじゃないでしょ。
「何で嬉しそうなの!?」
想定外と言いつつ、絶対嬉しそうだ。
「迎えに行ってくれと言ったのは俺たちだけど、あいつら自主的に行動してるんだぜ? 頼もしいじゃんか」
とブライは笑った。
「あの子たち寮で慣れたといっても、メイドがいるわけでもなく食事だって出されてるのかわからないけど、多分一室にみんなまとめて入れられていて。そんな環境より〝納得〟できるよう模索したいって頼もしいよな」
イザークが含みわらい。
なんかみんな2年生たちの成長をマジで喜んでいる。
「で、どうするの?」
頼もしいのは頼もしいのかもしれないけど、6人で勝手に人んち居座ってるって、王族や貴族の子息が何やってんだって感じじゃん。
「そりゃ納得するまでやらせるのが筋だろう。彼らに任せたのだから」
それはそうなんだけど……。
みんなわたしとは器が違う。
それで何かあったらどうするのよって、わたしは〝心配〟に翻弄されてしまう。でも、みんなは信じて待つことができる。本当にそこは大きな違いだ。
と、フォンがなったので驚いた。
アオとレオからだ。
「リディア」
『リディア』
アオとレオの二重音声。
「ふたりとも大丈夫? 元気よね?」
便りがないのは無事の証拠。わかっていても悶々としていた。
グッと堪えて、連絡はあちらからの一方通行にしていたのだ。
「元気でち」
『私たちはな! リディア、王子の婚約者の家が〝ぴんち〟だぞ』
「セローリア家が?」
みんなにも聞こえるようにスピーカーにする。
「おいらはずっとここにいたでち。レオがロバなんとか商会についていったでち」
アオとレオは別れて行動していたようだ。
「ロクスバーク商会?」
セローリア公爵家にうちのことを吹きこんだ商会といったらロクスバーク商会だ。
「それでち!」
アオは嬉しそうに頷いた。
セローリア家に何度も訪れているロクスバーク商会。その度シュタイン家の話を出してくるので、ふたりはイライラした。それでレオはその商会について行くことにしたそうだ。
『商会に屋敷に入ってきてもローブを取らない怪しい奴がいたんだ』
レオの言葉をわたしがみんなに通訳。
『セローリア公爵は頭が硬い。シュタイン家や商会のことも調べてる、こっちは切り捨てることにするって』
切り捨てるですって?
わたしはまた通訳した。
『セローリア家には船で届く荷に仕掛けて、ハープ娘は転がして怪我を負わせるって!』
思わず立ち上がる。
「何だって?」
ロサに急かされると、アオが通訳してくれた。
「ロサ、今日はリノさまは? 城? それとも学園?」
「今日は城だ。母上の手伝いで褒賞会に出ると……」
「今から城に、馬でも時間がかかるな」
アダムが呟く。
『リディア・シュタインよ』
「はい、聖樹さま」
『ワシもミラーというスキルを見てみたい』
え?
雑談で城にもミラールームを作っちゃったって話はしたけど。
ドギマギする。そんな場合ではないし、聖樹さまが助けてくれようとしているのはわかっているけど、純粋に世界樹の空間にルームを作っていいということだと思うんだけど。それはかなり驚きなことで。
『聖樹さま、よろしいのですか?』
もふさまが真面目に確めてくれた。
『ワシはリディア・シュタインの魔力で本来の力を取り戻しつつある。魔力が馴染んでいるから、きっとできるだろう』
四の五の言ってる場合ではない。
「聖樹さま、ありがとうございます。友達を助けます。木漏れ日の間をルーム!」
あ、いつもより魔力を持っていかれた。
もふさまと隣に来ていたロサが支えてくれた。
フラッとしたのは一瞬でホッとする。
「木漏れ日の間、ルームに移動」
不思議。こちらは夜空のような空間だった。木漏れ日ではなく、宇宙空間。
「エルター」
呼びかけると、少し間がある。
『YES、マスター』
低音の色気のある音。
「繋がった!」
みんなに伝える。
「ロサはリノさまのところに。あとは?」
「公爵家の方は公爵さまに伝達魔法で知らせるか?」
ダニエルが案を出した。
「そうするとして、港にはウッド商会倉庫にルームがある」
伝えると、みんな驚いた顔。ロサは一瞬考える。
「では、私の方にはダニエル、イザーク、ルシオ、アラン来てくれ。公爵家の方は、アダム、ブライ、ロビン、リディア嬢、お遣いさまに任せていいか? もし可能ならエトワール嬢とノエルにも手伝ってもらってくれ」
そう言ってからロサは何かをアダムに放った。あ、ロサの花押だ。
そっか、アダムが何かを書いてその花押を押せば、第二王子殿下の言葉となる。
「聖樹さま」
ロサが上を向いてから、胸に手をあて、長く感謝の意を表した。
ロサ組はそれに倣い、口々に聖樹さまへの感謝を述べた。
そしてエルターへと渡っていった。
残されたわたしたちも聖樹さまに感謝し、アオとレオにも感謝を伝えた。