第1067話 放課後の影絵㉕Good Job!
「ミューエ氏を探らせているよね?」
尋ねればアダムが頷く。
ミューエ氏の居場所は、わかっているということだ。
「アリ」
『なんだ?』
「ミューエ邸を探ってきてほしいの。お願いできる?」
アリの真っ黒な瞳がわたしを映し出す。
『合点承知!』
どこでそんな言葉を覚えたの?
『わ、わっ』
リュックが動いたみたい。アリはその上に座っていたから動いて驚いたようだ。バランスを崩しそうになって耐えた。中を覗き込む。
『リー、精霊が騒いでる』
「精霊が?」
リュックの中からコロコロと転がって、精霊の入ったピンポン球が出てきた。
ピンポン球はテーブルの上に軌跡を描いて、わたしの前で止まる。
「精霊がどうした?」
立ち上がったみんながわたしの後ろに立って、成り行きを見守っている。
精霊は腰に手をあてて、わたしを真っ直ぐにみる。薄い水色のようなキラキラ光る羽がパタパタ動いてる。
「どうしたの具合が悪い?」
フルフルと首を横に振る。
「意識がしっかりしたのか?」
イザークに言われて思い出す。
「そうなの! あのね、トカゲの時に精霊の言ってることがわかったのよ」
「え?」
「どういうこと?」
「精霊とトカゲって通じ合えるのか?」
「えっ、えっ?」
わたしはトカゲになった際、リュックの中で精霊と話せたことを伝えた。
精霊がこちらの声は聞こえるし意味もわかり、だけれど彼女が話しても誰にも気付いてもらえなかったのだと。
「トカゲじゃないと何を言ってるのかはわからないけど、Yes,Noで意志を伝え合うのはどうかって話はオッケーもらってるの」
「これはなんて言ってるんだ?」
「ブライ、今、わたしは人型なの」
「俺にもそう見える」
「何か訴えてるようだけど……」
わたしとブライが言い合っていると、横からダニエルが言う。
『ひとりになるのが嫌なんじゃないか?』
「ええっ?」
「「「「「「「どうした?」」」」」」」
「アリが、ひとりになるのが嫌なんじゃっていうから」
「でも、案外そうかもしれないぞ?」
わたしは尋ねてみることにする。
「あなた、ひとりになるのが嫌なの?」
精霊は首を横に振り、それから頷く。
ん? どっち?
「あ、ついていきたいんじゃない?」
ルシオが声を上げると、精霊は嬉しそうにうんうん頷いた。
なんでわかったの?とルシオにみんなの目が集まる。
「首を横に振るは〝いいえ〟そしてその次に頷くは〝はい〟だ。
ひとりは嫌じゃない。でもひとりになるのは嫌。
騒ぎ出したのはアリが探りに行くのを引き受けた後。ということは、ひとりは嫌じゃないけど、アリが探りに行ってひとりになるのは嫌。つまり一緒に行く、そういうことかなって思ったんだ」
なるほど〜。
「ひとりになるのが嫌なら、もふさまやわたしといる?って言えるけど、ついていきたいってことになら……。アリ、精霊のことお願いできる?」
アリは精霊の玉を何度か目をパチパチさせながらみたけど
『うん、いいよ』
と請け負ってくれた。
わたしはバンプー殿下の行方を知りたいのが第一で、運営側ならユルゲンと何かしら繋がっている可能性が高いこと。集会のこと。訪れる人のこと。できたらカドハタ嬢と繋がりなど耳にしたことは全部教えて欲しいとお願いする。
リュックの上のふたりは力強く頷く。
アリがもふさまにリュックを借りると言って、アリの背中サイズにシュシュっと縮まった時は驚いた。もふさまの姿に合わせて大きくなったり小さくなったりはしていたけど、万能なリュックだな。リュックの中に精霊玉を入れている。
アダムにミューエ氏の居場所を尋ねる。9区ロンナイ邸の近くだった。あのあたりはスタンガンくんが詳しかったので具に聞いた。アリも聞いていたこともあり、その情報だけで行ってみると言った。
ミュール氏にしても布を被ったところしか映像でみていない。本人を見ていないということは、魔物には判断の材料がほぼないってことだ。
それでもアリは大丈夫だという。
行ってくると空間から飛び出て行った。
さて、わたしたちはどうするかだ。
まずバンプー殿下の捜索のメンバーはどうするか話し合った。
このメンバーでいくか、それとも試験のメンバー全員で挑むか。
このメンバーだけに挙手したのは、ロサ、アダム、ルシオ。
多数決で試験メンバー全員で挑むことになった。
各班の班長がメンバーに伝える。王家の裏切り者の話、それからマハリス邸の真実は伏せておくことにした。
立場上、集会の会場を知ったバンプー殿下は単身で集会に乗り込む。そこで会の矛盾点をついた。会はお開きになったが、殿下が帰ってきていない。集会の潜入者が当日の告白者のひとりを追いかける殿下らしき人を見ていて、そこで情報が途切れている。
今のところその情報しかない。だから今は動くに動けない。
次に情報があったらわたしたちも動くことにして、授業に出ることにした。
そうしてアダムと教室に向かった時、もふさまが言った。
『リディア、ベアが話したいようだ』
わたしはアダムに断ってトイレへ。
誰もいないのを確かめると、ベアが突然現れて、わたしの首にまとわりついた。
「ベア、久しぶり! いつもクラリベルを守ってくれてありがとう」
『ふふ、あの声の大きい娘についているのも、なかなか楽しいですよ』
『クイはあの娘についているのか?』
ベアは首を横に振った。
『いいえ、今日は珍しくあの娘が直接チップとやらを渡したから言えなかったのですが、クイは今別行動をしています』
そう。今回は夜にクイやベアがチップを渡しにきたのではなく、朝クラリベルがミュージカルさながらに食堂に歌い踊りながら入ってきて、みんなに挨拶をしてまわり、その時わたしの手をとって挨拶してそこでチップをもらったのだ。
朝から騒々しいという顔をした人もいるけど、歌声ものびやか、そしてくるっとまわったりして良きエンタメとなっていて、ほとんどの子が楽しんでいた。
っていうか。
「別行動? どうしたの、何かあった?」
驚いて尋ねる。
『集会の様子は見ましたか?』
「うん、見たよ」
『集会に子供の王族が来てました』
わたしはもふさまと目を合わせた。
『クイはその王族の子供についていきました』
「グッジョブ!」
思わず力を込めて言ってしまった。
ベアともふさまはぽかんとしてる。
「ああ、ごめん。いい仕事してるって意味。彼は第三王子殿下で今行方不明なの」
『行方不明!? そうですか。でもクイがついているから、害されるような真似はさせないと思います』
クイの師匠は力強くそう言った。