第1066話 放課後の影絵㉔お開き
「そして最後のあなた。10年前の国一番身分の高い女性は王妃さまだ。元王妃さま、廃妃と言った方がよろしいか? 今は廃妃であるし、いくらこれが小さな集会といっても、言っていい事と悪いことがある。あなたはとんでもないことを言っている。自覚はおありか?」
ズサっと殿下は切り込む。
事実を知った映像を見ているわたしたちは黙り込む。
「何も知らないくせに!」
「覚悟があるならいい。君の正義は君なりに貫けばいい」
その言葉は、おそらくマージ氏子息のユルゲンに突き刺さったみたい。
彼はわたしと同い年、14歳のはず。
「けれど、それなら余計に調べただろう? 君が軽く口に出したシュタイン家は本当に関わりがあったのか?」
!
マハリス邸の真実を知らない殿下。
それでも、客観的に聞いて、真実はどうだとしても、ウチに飛び火しているのはおかしいと言ってくれた。それはわたしに勇気をくれる。
ユルゲンはそれには答えなかった。
「君は君の正義を振り回しているのだろうけど、会を無茶苦茶にしたかったとしか思えないよ」
そう呟くように意見したのはミューエ氏だった。
「ではいつも、話を聞くだけで、質問や意見の言い合いはないのか?」
バンプー殿下はいつも無駄に堂々としているのが、ここではいい効果を発揮していると思えた。
誰も答えない。
「君たちは話を聞くだけなのか? そんな覚悟で本当に終焉の先に行けると思うのか?」
その言葉は刺さっている。
バンプー殿下やるーぅ。
「確かにおっしゃることに一理ある。皆さま、心に留めましょう。そして今日はお開きに」
ミューエ氏が言った。
よくわからないけど、みんな我先にと出ていこうとする。
人の波に乗って出て行こうとするユルゲンくんを、バンプー殿下は追いかけた。
映像にバンプー殿下が映っていたのはそこまで。
クラリベルたちは最後に近くなってから、会場を出た。
カドハタ嬢と、ミューエ氏はすれ違ったけれど、知り合いというそぶりは見せなかった。
「台無しね」
馬車の中でカドハタ嬢はプリプリ怒っている。
「なんだったんでしょう?」
ニーナ嬢が呟く。
「会が大きくなってきたから妨害する輩が出てきたのでしょう」
カドハタ嬢は冷静に言う。
「そうでしょうか?」
「何よ?」
「いえ。よっぽどまともだって思いました」
カドハタ嬢がまたクラリベルに手をあげるんじゃないかと思ったけど、そうはせず、特大に「ふん」と言って腕を組み、そっぽを向いた。
それから三人三様の表情を映し出しながら一言も話さず馬車は止まり、映像はそこで終わった。
ひとりで勝手なことをしたこと。
ひとりで敵とはいえるかはわからないけど、そんな集団の中に乗り込んで行ったこと。
よくない行いだけど、クラリベルの〝一言〟はまさに言い当てていると思う。あの集団の中で、殿下が一番まともだった。
洞察力もあるし、やるなーと思った。
さすがロサの弟、王子殿下、だね。
でも今も戻られていないということは、捕まってるよね。
白い布を取れば、金髪に紫の瞳。王族ってわかるはずだ。
この集会は捕らえられるような決定打となることはしていない。だから王族が現れても問題はないはず。なのになんで捕まえちゃったの?
「潜入者はバンプーを追いかけた。
そこで3番目の告白者に話しかけているのを見たそうだ。けれど見失い、その後、あの華奢な男性を追ってみたところ、ミューエ氏だとわかった」
「3番目というと、ユルゲンに直接話しかけたんですね?」
「まだ帰ってきてないということは捕われている可能性が高いってことよね?」
わたしが口にすると、みんなロサの目を気にしている。
「でもさ、白い布を取れば、金髪に紫の目。すぐに王族ってわかると思うんだけど。なんで捕らえちゃうかなー」
もふさまを撫でて心の安定をはかる。
「ユルゲンが主犯だとして、廃妃を恨んでいるとしたら、王族というくくりでバンプー殿下に復讐しようと思ってもおかしくないさ」
アダムの言葉に血の気がひく。
そっか。廃妃のお子様は亡くなった第一王子殿下だけだけど。
王族という括りには違いないものね。
「……復讐って何をするつもりだろう」
「それは考えてもわからないだろう。バンプーを見つけ出さないと」
「主犯かどうかはわからないけど、ユルゲン、そしてミューエ氏が関わっていることは確か、ふたりの潜伏先に殿下がいる可能性が高い」
映像は今見たけれど、殿下がいなくなった報告はとっくにあがっているはずだ。
わたしたちがユルゲン、そしてミューエ氏の潜伏先を探るのは時間をかけているけど、騎士やら何やらなら一発なはず。
どうして陛下はそうしていないの?
もしかして、バンプー殿下奪還を子供たちに?
あの息子第一の第四夫人をよく黙らせているなぁ。
陛下は殿下が捕まったとしても命をとられるような、そういうことはないと思ってるのかな。そうじゃなきゃ、さすがに騎士たちを総動員するはずだ。
陛下が命令を下したいのを飲み込んで、飲み込んで、口を出してこない理由なら一択。オオゴトにしたくないから、だろう。
王が動けば罪はより重くなる。
集会をすることはなんでもなくても、バンプー殿下を捕らえたりしたら、それは罰せられることにもなり得よう。
なんて王さまの考えていることを慮るなんて、おこがましいね。
わたしではわからない、何かがあるんだろう。
わかってもわからなくても同じ。
わたしたちのすることはひとつ。
仲間の救出。
バンプー殿下を取り戻さなくては。