第1053話 放課後の影絵⑪放出
七色に煌くハウスさん。ひれ耳の美女ホログラムにみんな目が釘付けだ。
『ようこそ、皆さま。私はメインハウス管理人、ハウスです。お見知り置きを』
「はじめまして。よろしくお願いします」
みんな礼儀正しくハウスさんに挨拶をしている。
『皆さまの仮想補佐と繋がってもよろしいでしょうか?』
あ、その問題があったか。
「仮想補佐って? え? 僕たちのって?」
ルシオがキョロキョロしてる。
「ステータスボード見たことあるよね? ボードを起動させて魔力があれば育ってるはずなんだけど」
「ど、ど、どういうこと?」
イザークが両肩を掴みゆすってくる。イザークが興奮しているのは珍しい。
う、どう説明すれば。
「兄さま、みんなに説明を」
ヘルプオーラで丸投げしてみた。
兄さまは痒いところに手がとどいている説明をしてくれた。
兄さまたちの仮想補佐はレベルアップだの警告音などは鳴らすけど、わたしのタボさんみたいに話したりはしないらしい。
メインハウス管理人であるハウスさんと個人の仮想補佐が繋がっていれば、シュタイン領ならどこでも、あとは各ルームから連絡を取れる。各ルームにも管理人がいて、それぞれ繋がっておくと、移動が楽なんだけどと持ち掛ければ、みんな繋がることを選んだ。
父さまに事情を話して来てもらうよう、ハウスさんに頼む。
すぐにやって来た父さまは、みんなに向かって胸を手にやり挨拶をした。
本当にシュタイン領の外れの家かみんな確めたいだろうから、父さまの許可を得て、本来の家に移動する。母さまとハンナが出迎えてくれた。エリンとノエルが出てこないので出かけているのかと尋ねれば、どうやらお仕置き中らしい。各自部屋でマナーのおさらい&外国語のマスターというペナルティーがついたようだ。お茶会&試験ではエリンのマナーにハラハラしたから……兄さまの報告からそうなるんじゃないかと思ってた。ノエルはトバッチリかと思ったら自主的にらしい。エリンが外国語マスターして自分ができていないと何か起きそうという配慮らしい。
みんないまいち信じ切れてないような顔だったけど、だんだん実感してきたみたい。廊下に出て外へと続くドアを開ければ、……真っ暗。いい時間になっちゃったからね。さわさわと森の木々の音がして。シュタイン領だと目では確かめられないけど、王宮とは風の温度が違うから肌で感じられたかな?
それぞれのルームには行けるけど、町の家は何も知らない使用人たちなので、その点で却下。
サブルームは今アオがいないから登録できない。
サブルームからはダンジョンに行けるんだといえば、目を輝かしている。
後から聞いたんだけど、わたしたちのよく話すダンジョンとはどこのことだろうと思っていたみたいだ。
父さまたちに挨拶をして、今度は王都の家に。フリンキーに挨拶だ。
こちらはアルノルトに伝えてもらったから、本来の家の方にも渡ることができ、アルノルトを見て疑ってはいなかったけど、玄関を開けて景色を見、完全に納得したみたいだ。
秘密基地に戻っても興奮冷めやらぬ、だ。
それで、これから一定で瘴気を排出して問題ない量を調べるつもりなことを話した。
どうやって調べるのだというから、ミラー空間のどこかで実験しようと思っていることを伝えた。目指すはわたしが具合の悪くならない量だ。
瘴気の影響を受けやすいわたしが大丈夫な量なら、普通の人は気づかないぐらいに違いない。量も何もかも気をつけるから、外国にある別荘地があったら、ルームを作らせてもらえないか、再度お願いしてみる。
「ウッド家は各地に支部があるよね?」
ダニエルに言われて頷く。
「ウッド家は第二のツワイシプ大陸、第三のエレイブ大陸が主で、第五のキメリア大陸と第六のハバーツ大陸は少ない」
「第一と第四は閉鎖的だから、伝手もなさそうだな」
ブライが言うと、ルシオがちょっと反応した。
「どうした?」
イザークがルシオに尋ねる。
「教会はあるよ、第一大陸にも第四大陸にも。でも、閉鎖的だから、神官以外がいたら目立つ」
「第六の南に先祖が買った別荘があったな」
「第五の北に魔法士繋がりの……」
さすがお金持ち! 違う大陸に別荘を持ってるなんて。
だいたい共和国でなければ土地を買うのは難しい。別荘として現地の人に管理を頼む。商業ギルドを通して斡旋してもらうのが、一番間違いがない。住んでないのに維持費はかかるので、お金持ちの酔狂だ。大陸が違えば移動費もすっごくかかるし。
ロサはこの点であまり力になれないからと、瘴気の排出量とか、全体のことをみてくれるという。コリン殿下が計算に強いみたいで、そこらへんを手伝ってもらうかもと言っている。わたしの丼勘定より、ずっといいはず!
パァっと霧が晴れていくかのようだ。やっぱりみんなの力は凄い。
「リディーは玉に込めるには限界があるから、それ以外の方法も考えていたんだね」
「やってみないとわからないことってあるから。わたしが玉に瘴気を込めるのはできないことだったけど、瘴気部屋ごと排出させるようにするのは問題ないとか、やってみてわかったんだ」
部屋を作るのは、そんな魔力も使わないし。
「たとえば、いくつかの瘴気部屋を作ってみて、もし聖女さまの未来視が変わってくれば、道は間違えてないってことだよな?」
ロビ兄の言葉にみんなが頷く。
時間も遅くなってしまったので、そこで本当にお開き……と玄関に。
さて。実際は瘴気のこと、試験のこと、王族の裏切り者のこと。並行して試行錯誤していったけれど、時間軸を少し無視して、瘴気のことの顛末を記しておこう。
そううまくいくことはないと思いながらもうまくいくことを願い、最初はできるところから瘴気部屋を作り排出を始めた。
ロサは引き受けてくれた通り、実験でわたしがなんとか我慢できる瘴気量を割り出したあと、計算もすぐにしてくれた。みんなの別荘やウッド家の拠点を地図に描き、瘴気排出で重なるところは少なくするなど、行き届いた配慮だった。
瘴気が溜まるとか、魔物の活性化とかは想定外でもおきないように練りに練った。さらに1日おきに、時間もずらし排出を始めた。最初はユオブリアからだったけど、それで魔物が強くなったとか、農作物に異常がということもなく、わたしが瘴気で具合が悪くなることもなく瘴気は撒かれていった。
そうして、休みを利用して転移門や転移で他大陸に行き、別荘にお邪魔していくつか瘴気部屋を設置できたときに、少しずつアイリス嬢の未来視が変わっていった。アイリス嬢はみんなをぬか喜びをさせたくないと、ずっとその話を胸に抱え、教えてくれたのは次の夏休みに入ってからだ。
ユオブリアが叩かれることは変わりはないけれど、世界の終焉の未来視は長い間見ていないと。
わたしたちはこの方法が合っていたというか、敵を出し抜けたのではないかと喜んだけれど、高揚する意識を押さえ込んだ。
元々この未来視の話は限られた人しか知らないけれど、未来視が変わってもユオブリアが狙われているは変わりないので、神経を研ぎ澄ませたまま過ごした。
わたしに何かあっても、ハウスさんに魔力が行き渡っている間は、仮想補佐で補うことが可能。それがわかったので、陛下やロサが押さえる瘴気を残し(ロサからそうするように言われた)、それ以外は各地に散らばった瘴気部屋に。
もっと時間がかかるかと思ったけど、部屋でよければ簡単に作ることができた。
強大な魔力を持つ陛下。プラス地形の魔法陣でやっとのことで押さえている瘴気の塊。それは皆の与り知らないところで、各地へと運ばれ、大気へと放出されていった。