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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
18章 権威に群がる者たちの輪舞曲
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第1047話 放課後の影絵⑤過ち

 夫人は少しためらってから、青い顔で声を絞り出す。


「妾は過ちを犯した。10年前……」


 10年前……そして昨日の報告からということは、マハリス邸と何か関係が?


「10年前、廃妃は王妃さまで、第一王子殿下もご存命だった」


 そして冷たい息を吐く。


「第一王子殿下は体が弱かった。ほとんどの時間をベッドで過ごされていた。ある日、熱が出て、王妃さまだけはその様子がいつもと違うと訴えられ、それが毒による苦しみだということがわかった」


 ここでまた第一王子殿下が出てくるなんて……。


「毒には解毒薬が必要だ。けれどなんの毒かわからなければ解毒薬も投与できない。医師たちの必死の調べで、それは鉱毒の一種ということがわかった。

 解毒薬も効き殿下は命を繋いだが、そのお苦しみは大変なもので、王妃さまもとても苦しまれた」


「鉱毒……が、どうして兄上の身体に入ることになるんでしょう?」


 ロサが第二夫人を労りながら尋ねる。

 そうだよね。

 他の毒ならいざ知らず、鉱毒とは鉱山で何か作業をして、その過程の汚水が流れ、その汚水を体内に取り入れてしまうことで患ってしまうもの。毒性が弱いからなかなか気づかない。そして症状としてでたときには、かなり広がりをみせる厄介なものだ。

 第一王子殿下、その頃は11歳? お城のベッドの上でほとんど寝たきりだった。それなのに、どうやって殿下の御身に?

 刺客がってこと? でも鉱毒を抽出するなんて気の遠くなるようなことの気がするし。毒性は弱いだろうから、何度も接触しなくてはいけなくてハイリスク。そんな毒を選ぶか?


「王族への献上品だった。七色に光る美しい鉱石。マハリス領にある鉱石場から美しい宝石がみつかったと、な。妾の実家に与していたから、その鉱石には〝ロサンディー〟という名前がつけられた」


 ロサの名前からとったのだろう。けど、そんな宝石聞いたことない……。


「母上、私はその宝石の名前を初めて聞きます」


「そうだな。10年前、見つかってすぐに鉱山は閉ざされ、その宝石も何もかも封じられたから、知らなくて当然だ」


 ……まさか。

 最悪のシナリオが頭に浮かぶ。


 マハリス男爵は所有している鉱山からでた宝石を、第二夫人のお子様の名前を掲げ〝ロサンディー〟と名づけ、献上する。その宝石で作った何かは第一王子殿下に渡り、……それが毒の出どころってことなんじゃ?

 恐らく、みんなわたしと同じ想像をしたんじゃないかと思う。顔が歪む一歩手前で固まっている。

 もふさまがわたしの膝にぴょんと乗ってきた。アリはもふさまのリュックの中だ。


「想像通りだ。その宝石で作られた指輪が第一王子殿下に献上された。

 毒性があることは知らなかった。

 殿下がいつも身につけ、体の弱い方だったから、症状がすぐに重く出た。それで調べて、その美しい鉱石は湯にほんの少しだが毒が流れることがわかった。

 鉱山は寒い地帯にあったからだろう、周囲に毒は流れていなかった。

 殿下の体温、汗、そういった温かい水分に毒が溶け、殿下を蝕んだ」


 第二夫人はおでこを押さえる。


「知らずにしたことでも、王子殿下に害をなした。命を取るのは許す代わりに、マハリス家は取り潰し、当主は1年の強制労働、他の者は平民に。

 そう陛下が決断されたのだが……」


 第二夫人の顔から表情が抜け落ちる。


「王妃さまは刑が軽すぎると、自ら赴いて罰を下した……」


 血の気がひいた。

 わたしは廃妃の顔を見たこともないけれど、なぜか脳裏に浮かんでくる。

 シルエットでもとても美しいとなぜかわかる病んだ女性が、黒いドレスを纏っているさまが。


「国母に下のものが触れることはできない。だから止めることも叶わなかったという。妾が呼ばれて駆けつけたときには、屋敷は血の海だった。ブレドより小さな子にまで手をかけて……」


 第二夫人は目を閉じたまま、天に顔を向ける。

 いつの間にかわたしは自分の口を押さえ、爪で頬を傷つけていた。もふさまに舐められて、手に力が入っていたことを知る。


「妾を見て、王妃は嬉しそうに笑った」


 笑った? 第二夫人を見て?

 血の海の屋敷で、恐らく自分も血塗れで。

 やってきた第二夫人を見て、嬉しそうに笑った?


「妾は尋ねた。なぜ陛下の決断を受け入れられなかったのかと。

 王妃は自分の子が殺されそうになっても許せるのかと、逆に妾に尋ねた。

 そのとき、やってきたのがマハリス男爵の弟ぎみだった」


 弟ぎみも命を落とした事実を知っているだけに、さらなる悲劇が予想できて、目の前が暗くなる。


「男爵は弟にだけ伝えたようだ。鉱山に問題があり封鎖することになった。王族にとんでもないものを献上してしまい、家は取り潰され、自分は強制労働に行かなくてはならない。妻と子供たちを頼む、と。それで弟は詳しいことを聞きに来て、親族が血の海に横たえているのを見てしまった」


 ……弟が兄一家を殺害したわけじゃなかった。それなのに、彼がやったこととなり、自分も自殺している。まさか……。

 第二夫人の語られる事実に怯えながらも、真実を知りたかった。


「王妃さまはやってきた弟ぎみに事実を告げた。一国の王子を臣下が苦しめたのだと。命で償うのは当たり前だと」


 みんなの顔が歪む。そっと横を窺えば、アダムは手を握り締めていた。


「そして、いいところに来た、と。お前もお前の家族の息の根を止めて、血を絶やさなくては、と無慈悲にもおっしゃった。

 弟ぎみは私はどうなってもいい、けれど家族は助けて欲しいと訴えた。

 王妃さまは嬉しそうにおっしゃった。それなら、ここで見たことはなにも言わず、家で自ら命を断ちなさい、と」


 胸が悪くなる話だ……。


「妾が声をかけようとすると、王妃さまは妾に笑いかけた。そう事を収めるなら、妾や妾の実家の責任追及をこれ以上しないと」


 うわーーーー。

 マハリスは第二夫人の実家の派閥みたいだし、だからこそ、素晴らしい鉱石が発掘されたと思ってロサの名前を入れ込んだ。関係あるって公けになっているから、責任追及でごねられたら、実家も、第二夫人もロサも追い込めるってことだろう。

 その追及を逃れたければ、口出しするなと言ったんだ、王妃さまは。


「母上は目をつむったのですね……」


 ロサの声が震えていた。





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― 新着の感想 ―
ころされかけたのに当主の一年強制労働と平民落ちだけって罰が軽すぎっていう元王妃の気持ちもわかるなぁ… 処罰が軽いから王子達への暗○が横行してるのでは…? 王妃様からしたら各派閥が何度も刺客や毒○を仕掛…
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