第1040話 地道な調べ物⑧朝活と放課後
「まあ、それはそうだけど、よく調べたなー」
「あはは、1箇所目のことはウッド家から教えてもらったし」
「マハリス邸は驚きだな。そんなことがあったところを集会する場に選んだって」
「純粋に知らないから、集会場所にしたんじゃないか?」
「そうだよな。それにわかっているのは6つでも、実際はもっと集会もあっただろうし」
「空き家だから当たり前かもしれないけど、何かしら負の感情があるところって括れるかもな」
わたしたちが揃ってイザークを見ると、彼は少したじろいだ。
「な、なんだ?」
「それ、当たってるかも!」
「いや。だって人のいないところを無断で使う。だから空き家で。空き家になっているのは、何かしら問題が起きたからだから!
引っ越すからっていう単純な〝問題〟かもしれないけど」
みんな落ち着いてとばかりにイザークが声を大きくする。
ま、それはそうだけど。
この調子でいくつかの集会を調べられれば……。
この団体のことがつかみにくいのは、一見リードしている人が見えにくいからだ。でもこの映像で乾杯をしようと言った人はわかっている。その人をホーキンスさんはつけるだろう。
それからカドハタ嬢の婚約者、これも怪しいから調べている。
いくつもの方向から情報が集結していき、わかることがきっとあるはずだ!
わかるまで、潜入しているホーキンスさんやクラリベルたちに危険がないことを祈る。本当に!
わたしたちは1日で得た情報に喜び、この調子で頑張ろうとエールを送りあい、木漏れ日の部屋から去った。
放課後、図書室に集合。スタンガンくんとだ。
記録書からわかったロンナイ邸のことは、泥棒が入りそれで引っ越したこと。それも引っ越してきてすぐのことだったことだけ。
記録書から掴めるのはそれぐらいのようだ。
と本を片づけていた時
「リディア先輩」
と声をかけられる。ハスキーな声。からかさちゃんだ。
わたしは鑑定をかけた。
ミープ・ロイター。伯爵家長女。尊敬する方に褒めてもらいたい。
ロイター嬢というのは間違いなさそうだ。
「図書室に調べものに?」
わたしは尋ねる。
からかさちゃんは頷いた。
「リー」
「ロビ兄!」
「何かわかったか?」
「いいえ。大したことは。アダムに報告に行こうと思っていたとこ」
「そうか、おれたちはここで調べ物をするよ」
「了解」
わたしはスタンガンくんを連れて別棟へと向かう。
もちろん、もふさまとも一緒だ。
「ふたりは図書室以外のところで何を調べていたんでしょうね?」
「ああ、それは……」
教えようかと思ったけど、お気楽そうな顔を見て、気がそがれた。
「ちょっとは考えたほうがいいわよ。頭は使わないと」
するとスタンガンくんは頬を膨らませる。エリンみたい。
一緒にいると、イメージが崩れていく。
イメージっていうと変だけど、わたしのこと散々信用できないだの、探らせてもらうだのいうから、ダニエルみたいに頭のキレる人を想像していた。それがどーもそう思えないんだよな。能天気に見せているのは油断させるため?とか。
でも、地道にいくつもの角度から調べていくことに意味があるのに、いきなり役所に頼ろうとしたり、やることが単細胞チックなのよね。わたしを疑っているのは本当にこの子なのかしら?って思っちゃう。
「リディア先輩って、意地悪ですよね!」
こいつ……。睨みつけても気づかない。
わたしに言いたいことを言ったらスッキリしたのか、頭の後ろで手を組んで機嫌よく歩いている。やっぱり単純。
ノックをすると、アダムの声。
よかった、室にいたのね。
わたしたちは今日調べたことをアダムに報告した。
昨日わかったことは伝達魔法で送ったし、朝しっかり話した。だから放課後にわかったことだけだ。
「2日でここまでわかるなんて、君たち、すごいね」
「アダム先輩、それじゃご褒美に潜入者のこと、なんでもいいから教えてくださいよ!」
「知ってどうするんだい?」
すこぶる笑顔でアダムは尋ねた。
「それはもちろん、サ……優越感を得たいというか……」
アダムはチロリと視線をやる。
「誓約書の意味、わかってるよね?」
アダムが確かめと、スタンガンくんは慌てる。
「え、もちろんですよ。言いふらしたりしません」
「言いふらすことももちろんだけど、連想させるようなことを言ってもいけないよ? ……なんだか、心配だな」
「心配だなんて。それに誓約を交わしていれば、言いたくても言えないようになるでしょ?」
「けれど、いくつも質問されて答えられないことがある。するとそれは誓約書に関係する事実であるという探る方法だってある。
2年生でもそれくらいのことがわかる者を集めたと思っていたんだけど、それは私の買い被りだったのかもしれないな」
アダムの口調は別に冷たくなかったけれど、スタンガンくんの顔色がさーっと青くなる。
「君には国に対する思いと、正義感があるのかと思って期待していたんだが、浮わついているように感じるね」
「……すみませんでした。そういうつもりではなかったのですが」
スタンガンくんがうなだれたところで、ノックのあと、ロビ兄とからかさちゃんが入ってきた。図書室ではほぼ情報が得られないと判断したようだ。
アダムはロビ兄とわたしから報告がいっていて全部知っているけれど、共有しようということで、調べてわかったことを話すことになった。
集会のあった順にということで。
わかっている集会の中の最初のセレクタ商会とマハリス邸のことはわたし、ロンナイ邸はスタンガンくんから報告した。
アダムに伝達魔法が送られてきて、そこで休憩をとることにした。
別棟は面談室が多い。主に留学生が家族や母国の人とゆったりと話せるように作られた場所なので、広くてきれい。それはトイレもだ。
学生には必要ないお化粧直しに通じる小部屋まで用意されている。
ま、使わないけど。
手を洗っていると、入ってきたのはからかさちゃん。
すかさず鑑定をかけ、本人であることを確認する。
ふふっとからかさちゃんは笑う。
何?と思うと、彼女は口を開いた。
「お遣いさまといつも一緒なんですね。手洗いの前にもいるんですもの、驚いてしまいました」
「驚かせてしまってごめんなさいね。そうなの、いつも一緒にいてもらっているの」
「聖樹さまのお遣いさま、でしたっけ。学園は聖樹さまの領域。それなのに、その中でもお遣いさまに守ってもらってるって不思議ですね。一種の護衛がいるって王族みたい」
そう言ってにこっと笑い、個室に入っていった。
今のは何? 嫌味?